第十話 宿『ホーリー』
ギルドを出ると外はもう真っ暗で街灯がついていた。
「夜なのに街ってこんなに明るいんだね」
夜一の鐘がすでに鳴っているのにまだ沢山の人が道を歩いている。
「街ってスゲ~ぜ。セレミネス村とは大違いだぜ」
――そうだね。村じゃ夜一の鐘が鳴ったら家から出ないからね。
村での生活を思い出しながら話していると、
「ミレイ様、本日の宿はどうするのですか?」
――探さないとダメだね。だけどどこがいいのかな?
まったく宿のことを考えていなかった。
「見て回って探せばいいんじゃないの」
「アクア、何適当なことを言っているのですか」
――それでいこう!
「え~!」
アクアの提案に乗る。それに対して無茶苦茶驚いているフレイ。
「何を言っているのですか。もう夜なのです。そんなゆっくりと探している余裕などありません」
急がせようとするフレイ。
――まあまあ、これも旅の楽しみの一つだよ。
「はぁ~、分かりました」
こうなったら絶対に意見を曲げないと分かっていた。何故なら、宿探しをするというよりも街の中を見て歩けることをすごく楽しもうとしている顔を私がしていたからである。
「ですが、夜二の鐘がなる前には宿を見つけてくださいね」
――は~い。
面倒くさそうに答える。
「み・つ・け・て・く・だ・さ・い・ね」
顔は笑っているのに物凄く怖いフレイ。
――はい! 分かりました。
元気よく答える。
その後、街の中央に向けて歩きながら宿を探していく。
高級そうな宿、すごく安そうな宿、物凄くぼろい宿。いろいろな宿がある。
その中でミレイが見つけたのは『ホーリー』と看板に書かれている宿であった。
前面白色に一部水色が加えられている色合い。宿の周りには花が咲いていてとても気にいった。
「すみません。部屋空いていますか?」
宿のドアを開けて中に入る。
「いらっしゃい。空いてるがお嬢ちゃん一人かい?」
受付に座っていたおばさんが聞いてくる。
「はい、そうです」
「そうかい、小さいのに偉いね。何日泊まる予定だい?」
「まだ決めていないのですがダメですか?」
「いいよ。それじゃ取りあえず一週間分でいいかい? 伸ばしたいときはまた言ってくれたらいいからね」
「分かりました。宿泊費はどうしたらいいですか?」
「後払いでいいよ。それじゃこれがカギさね。部屋は二回の奥の二一五号室になるよ」
すごく優しいおばさん。
カギを受け取り部屋へ向かおうとすると、
「夕食はどうするね?」
「ここで食べられますか?」
「食べられるよ。食堂はこっちの扉の中になるさね」
「ありがとうございます。部屋に荷物置いたら食べさせてもらいます」
それだけ言って部屋へと向かった。
部屋の中にはベットと机が置いてある。
荷物を置きベットの上に座るとすごくふわふわしていた。
とても柔らかい。これならゆっくりと休めそうだと思う。
「ぐ~う!」
ベットの上でゴロゴロしているとお腹が鳴った。
昼食のお弁当を食べて以降何も食べていなかった。
アクアがお腹の音を聞き笑っている。
「これアクア、笑ってはっふ、失礼ですよっふふ」
何とか笑うのをこらえているフレイ。他の精霊たちも笑うのを必死でこらえていた。
「私食堂に行ってくるから、皆への魔力提供は食事が終わるまでお預けだからね」
頬を膨らまして顔を赤くしながら言うと、
「なんで~ミレイ様。お腹空いたよ」
「なんでもです」
それだけ言って部屋を出ていく。
部屋のドアを閉める前、アクアが泣きそうな顔でこちらを見ていたが、
笑った罰ですよ。
心の中で思いながらドアを閉めて食堂へと向かった。
私が食堂から戻ると、皆は入り口の前で土下座をしていた。
「ミレイ様に恥をかかせてしまいすみませんでした」
別に恥をかいたわけじゃないんだけどね。
「すみませんでした!」
フレイに続き、他の精霊達も声を合わせて謝ってくる。
「もういいよ。私も少し大人げなかったしね」
まだ子供なんですけどね。
それから精霊達に魔力を与えていく。
そして皆に魔力を分け与えると、
「明日は朝も早いしもう寝るよ」
「は~い!」
とても素直な精霊達。よっぽどさっきのことが堪えたのかなと思う。
いつもならアクアやライト辺りが騒いでいて寝ようと思ってから一時間ぐらいは寝られないのだから。
私は受付でもらってきたタオルと桶に入ったお湯を使って体を拭いてベットに入った。
「皆おやすみ」
「おやすみなさい」
「おやすみ!」
「おやすみどす」
「おやすみだぜ」
「おやすみなさい」
「おやすみ」
「おやすみなさい」
それぞれに挨拶を交わして寝るのだった。
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