第七話 神様

 教会に着いた。


 旅立つ前にママから、


「街に着いたらまずその街の教会にお祈りを捧げに行きなさい」


 と、言われていた。


 街の教会は村にあった物よりも遙かに大きくとても綺麗だった。真っ白な建物に絵の付いたガラス。それに目を引かれてしまっていると、


「ミレイ様、中に入らなくていいのですか?」


 フレイの声が少し怖かった。


 ――入るよ。だかたらそんな顔しないで。


 二年前、特訓中に少し無茶してケガしたことがある。そのときフレイにこっぴどく怒られた。今はそのときに近い顔をしていた。


 教会の入り口はとても大きくどうやって開けているのか不思議に思った。


 中に入ると数人の神父さんはいるがお祈りを捧げている人は誰もいない。


「お祈りいいですか?」


 入り口近くにいる神父さん聞くと、


「いいですよ。正面の女神像へどうぞ」


 銅像の所まで案内してくれた。


 私は、銅像の前で膝をつき手を組み目をつぶりお祈りを捧げる。


 そのとき、


「ミレイ、ミレイさん」


 どこからか声が聞こえてくる。女性の声のようだが教会の中に女性はいなかった。精霊達の声でもない。空耳かなと思ったら、


「ミレイ、ミレイ=サルシャ」


「はい!」


 思わず大声で返事をしてしまった。


 目を開けると今さっきまでいた教会とは全く違う場所にいた。


「ここは何処なんだろう?」


 周りを見ながらそんな事を呟く。辺り一面真っ白であった。


「やっと気づきましたか」


 目の前に頬を膨らませている女性が立っていた。


 身長はママくらいで白い服を着た凄綺麗な女性、どこかで見た気がするが思い出せない。


「あなたは誰なのですか?」


「神様よ」


 それを聞いて思い出した。教会で私がお祈りを捧げいた銅像そっくりだと言うことに。


「神様が何故私なんかを?」


「精霊達から何も聞いていないのですか?」


「はい、皆昔の記憶をなくしているので」


 ため息をつきながら頭を抱え出す神様。


「それでは一から説明しないといけない訳ですね」


「そうなりますね」


 少し申し訳なさそうに言う。


 神様は一度咳払いをして話し始めた。


「まずあなたが持っている精霊魔法は元々数百年前に存在していた勇者が持っていた魔法です。その勇者はその時代唯一のSランク冒険者として活躍しておりました」


 伝説の勇者が持っていた魔法だったんだ。


 この伝説の勇者様とは、今井から数百年前にこの世界を征服しようとした魔竜王を倒してこの世界を平和に導いた冒険者で、今でもその伝説を元にした絵本などが存在している。皆子供の頃に一回は聞いたことがあるお話の登場人物。


「その勇者様のステータスは今のミレイと同じSSランクでした」


 精霊魔法と能力値SSは関係性があったんだ。


「そして、精霊魔法と全能力値SSを持つミレイはその勇者の生まれ変わりなのです」


「え~!」


 神様の最後の言葉に凄く驚いた。


「どうして私なんかに?」


「それは分かりません。ですが、一つだけ分かっていることがあります」


「それはいったい?」


「この世界に何かが起きようとしているのです」


 またしてもとんでもない言葉が神様の口から飛び出した。


「それって、数百年前のようなことが起こるって事ですか?」


「その通りです。ですが現状でいつ、何処で何が起こるかは分かりません。もしかすると十年後二十年後になるかもしれません。ですがそれを解決できるのはミレイ、あなただけなのです」


 頭がついていかない。もしかしたら全て夢なのではないかと思い自分のほっぺをつねってみる。


「いた~い!」


 いたかった。つまりこれは夢ではない。


「これは全て真実です」


 心を読まれたのではと思ってしまった。


「今はまだ頭の片隅にでも置いておいてください」


「分かりました」


 そして意識が薄れていく。まだ神様に聞きたいことがあったのに。


「また近いうちにお会いいたしましょう」


 その言葉を最後に私の意思は途切れてしまった。


 そして気がつくと祈りを捧げていた教会の中に戻っていた。神様と話していたことは全て覚えている。だが本当は夢だったのではないかと心の中で思っていた。今は神様に言われた通りに頭の片隅に置いておくことにする。


 お祈りも一応終わり教会から出ると外は中に入ったときと変わっていなかった。まるで神様と話していた時間こちら側の時間が止まっていたのではないかと思ってしまう。


「ミレイ様どうかいたしましたか?」


 ――なんでもないよ。それよりも冒険者ギルドに急がないと日が暮れちゃう。


 教会で冒険者ギルドの場所を聞いて急いで向かうのだった。

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