第4話

鉄格子の入った窓から見える風景は何もなかった。白一色の霧に覆われた世界。

翌日の午後。警察署の取調室。

「また、出向いてもらって話を聞くことがあるかも知れないが。今回は“被害者”ということで釈放になる。目撃証言もあることだしね」

鋭い目をした若い男がバーンに話しかけていた。

「……」

バーンは傷の手当はされているものの着ていたジーンズもパーカーも裂けてぼろぼろのひどい格好だった。

「今後は自分の行動に少し気をつけることだ。でないと“監視”がつくことになるよ。いいね」

机を挟んで向かい合わせに座っている二人。その上にはミネラルウォーターの入ったペットボトルが置かれていた。しかし、バーンはそれに手をつける様子はない。うなずきもせず男の話をうつむいたまま、聞いていた。その男がドアの両側に立つ警察官にうなずいて、合図を送った。『話は終わりだから連れて行け』と言うように。

ドアが開かれ、彼らがバーンを促した。そして両脇をかため伴われるように廊下に出てきた。彼のいた取調室には、背広を着た男がイスに座って、その後ろ姿を見送っていた。

この事件はFBIの管轄になっていたのだった。重い音がしてドアが閉められた。

バーンが部屋の外に出てきた途端、体格のよい中年の男が胸ぐらをつかんで彼に殴りかかった。彼の拳はバーンの左頬に入った。

ゴリっと鈍い音がした。すごい勢いで壁の方まで吹き飛ばされて、彼はそのまま動かなかった。

「娘を! ラシスを返せ!! この疫病神! お前さえいなかったら、娘は、娘は死なずに済んだんだ!!」

バーンは手で頬を押さえながら、うつむいていた。

「親父さん、」

(ラティが死んだ!?俺さえいなければ。疫病神……か。)

父親はなおもバーンのそばに来て、胸ぐらをつかみ血走った目で彼を睨みつけるとこうも続けた。

「誰か! この化け物を殺してくれ! こいつのそばにいるだけでみんな死んでしまうんだ。お前なんか死んだ方がましだ、悪魔め。私の娘がなぜ死ななければならないんだ。娘の代わりにお前が死ねばよかったんだ!!」

そういいながらバーンの襟を持ったまま、壁に彼を思いっきり打ちつけていた。

(その通りだよ。親父さん。殺してくれ…あんたの手で。あんたの気の済むように。

ラティのいない世界に、俺ひとり…残された。俺には、もう…何もない…んだ。)

バーンは抵抗する様子もなく、されるがままだった。

ようやく周りにいた警官に押さえ、引きはがされるように父親はバーンから遠ざかっていった。

「出ていけ。 この街から出ていけ!! 二度と私の前にあらわれるな!!」

父親は泣き崩れた。

彼女の父親の言葉が何度も彼の心に突き刺さった。

『悪魔!』

『化け物!』

『お前さえいなければ!』

『お前が死ねばよかったんだ!』

昔から言われ続け、聞き続けた言葉だが、今日ばかりはさすがにつらかった。



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