第2話

気がつくと、そこはいつの間にか濡れた石畳の上だった。湖のそばにある、古びた洋館のテラス。突き刺すように冷たい空気があたりを包んでいた。

16才の冬。彼女を失った場所。あたりはすぐ先も見えぬ位の深い霧に包まれていた。

もうすぐ夜が明ける。

風が時折、天空の霧を流し、明けてくる空を垣間見させていた。

彼はハッとした。もう、ぬくもりは感じなかった。冷たくなった彼女の体を抱いていた。

それは答えのない答えを探す旅のはじまり。未来永劫、彼に科せられる苦しみ。

今までに何度この場所に立ち返ったか。何度立っても、結果は同じだった。

(ラティ…何で俺の身代わりなんかに……死ぬべきは俺だったんだ。

君じゃない。誰より、何より大切だったのに。)

泥だらけになった彼女の顔を少しずつ手でぬぐってみる。まだ生きているように、頬に赤味もある。しかし、もう息はしていなかった。

指で彼女の顔をなぞり、ひとつひとつ確かめるようにキスをしていく。

(俺をはじめて受け入れてくれた女性ひと。俺、君に何も本当のことを伝えてない。兄さんのいったとおり、伝えたいことも伝えられなくなった…。

「好きだ」っていう…ひとことすら……)

柔らかな金髪に顔をうずめても、彼の背中を抱く手はなかった。涙が止まらなかった。

(俺が……殺したんだ。)

バーンは声を殺して泣きながら、もう一度彼女を抱きしめた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る