第37話 無意味な努力

私はカロン・ディヴァイエン


公爵令嬢です



と言っても名ばかりで公爵家でも私は家族の出世のための駒にすぎません


その証拠に父、母、兄、弟がいますが、

ここ数年、使用人以外の顔を見ていませんからね



家族にとって私はいらない子なのでしょう



その証拠に私が物心がつく前にフリード殿下との婚約を決め、次期王妃としての教育を受けさせられました


普通ならば根を上げて逃げ出す者がいるほどに厳しい教育です


それでも両親に少しでも褒めてもらえるように努力し続けて上達をしていきましたが、称賛の言葉はありません


できて当然…ということなんですかね?


まぁ…いいですけどね


私は公爵家の駒として動くだけです


それからは無心で物事に取り組んできました


そして色々なことを陰で言われたりもしました


何がいけなかったのか考えても分かりません


私はただ…フリード殿下の婚約者として恥じないことをしていただけなんですけどね


私のやってきたことは無駄だったんでしょうか


何をやっても陰で言われるのは何故でしょう


私が悪いのでしょうか


考えてもわかりませんが、生活に支障はないので気にしない事にしました


気にしなかったら案外気にならないものですね


しかし私が無関心でいることを良いことに周囲の方々はやりたい放題していたようでした



私を理由にして悪事を働く者たちが増えたのです



公爵令嬢がやれと言った


公爵令嬢に脅されて仕方なくやった


公爵令嬢のためを思ってやった



そういったことが起き始めましたが、身に覚えのないことばかりです


当然ですよね…そもそも何もしていないのですから


しかし…それを信じた殿下が私を注意するようになりました


何もしていないんですけどね…


でも殿下は何を言っても聞き入れてくれませんでした


私には発言の権利が無いという事でしょうか


私は殿下の婚約者として相応しく無い…


そう言いたいのでしょうか…


殿下は最近、男爵令嬢との仲がよろしいみたいです


近いうちに婚約破棄を言い渡されるかもしれませんね


そうですよね……私みたいな命令に忠実でつまらない女よりも笑顔を絶やさない魅力溢れた女性の方がいいでしょうね


そうなれば…私は…どうなるのでしょうか


殿下から婚約破棄をされれば…私の居場所はありません


家に帰っても…出世のための道具として使われます


役に立たなければ……追放でしょうか


あの家族が温かい言葉をかけてくれるとは思いません




……………………………………………………………………


……………………………………………………………………


……………………………………………………………………


…………………………やっぱり…私は邪魔だったんだ





存在自体が鬱陶しかったんだ



じゃあ私のあの努力の日々は何だったのか




何のために……私は……


カリ…カリ………



カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカラカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ……



…………いけませんね


ストレスが溜まると…つい…爪を噛み過ぎてしまいます


この癖が出始めたのは幼少期の頃


私が駒であると気付いた時でした


自分ではしたない行為だと思いはするもどうしてもやめられませんでした


毎回毎回……自室に戻っては爪を割って肉を噛みちぎるまで噛み続け、口の中に血の味が広がると我に帰って〈回復〉魔法をかけて口を濯ぐ


これがいつもの流れですが……殿下が私を注意した後に男爵令嬢と話をしているのを見て直ぐに癖が出てしまいました


気づけば……中庭で跪き…指を噛み続けていました


爪がとっくに割れているのにも関わらず…


肉を噛み…

血が地面に落ちても…

スカートが血で汚れても…

歯が骨に接触していても…

ひたすら噛み続けていました


やめなきゃいけなのにやめられない……



「何をやってるんだ」



誰か話しかけてきましたね…


でも今それどころじゃないんですよ



「……何か?」


「ん?…公爵令嬢……

………本当に何をやっているんですか?」



この人は確か……ヴィネット王女殿下のお気に入りの男爵…準男爵?


どっちでしたっけ?



「……放っておいてください」


「あなたがいいならそうしますが……

せめて血だらけになっている理由だけでも教えてくれますか?」


「なぜです?」


「何故って……誰が見てもおかしいと思うでしょうよ

皆んなの憧れの的である公爵様が指を食いちぎろうとしているんですよ?」



憧れ?……何を言っているのですか?


そんなわけがないでしょう



「…………」


「…とりあえず指を噛むのをやめましょう」


「いやです」


「………やめましょうよ

はしたないですよ?」


「いやです」


「うーん……そもそも何で血が出るまで指を噛んでいるのですか?」


「……一番落ち着くからです」


「……そうですか

………………殿下と何かありました?」


「……何故そう思ったのですか?」


「ディヴァイエン様がストレスでそうなってしまった原因……と考えるれば…何となく殿下と何かあったかなと思っただけですよ」


「………」


「…本当にどうしたんですか?

そんな気が狂ったかのようなことをしていると心配されますよ」


「うるさい…」


「ん?……しまった」


「うるさい…

うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!!


うるさーーーーーーい!!!!


お前に私の何がわかる!!


私のことを思う人間がいるとでも思っているのか!!


私はいつだって一人だ!!


家族でさえ私のことを見ない!!


それでも!少しでも家族のためになればと思って努力を続けてきた!!


私がどれだけ公爵家や殿下のために尽くしてきたと思っている!!


私がどれだけ尽くしても陰で言われ!


どんなに努力し続けても労いの言葉もない!!


何で私がこんな目に遭わなければならない!!


私が何かしたか!!?


一体何をしたって言うんだ!!


何でこんなにも重圧を受け続けなければならない!!


私は操り人形じゃない!!


私にだって決める権利がある!!


それなのに…それなのに……」



いつだってそうだ

私は常に結果を求められ続ける


失敗をすれば存在価値が無いみたいに扱われていた


家でも学園でも結果を出さなければ私の居場所はない


必要な時にだけ使う

まるで私は奴隷だ



「………お見苦しいところをお見せしました」


「いや…別に」



私としたことが…取り乱してしまいましたね


このお方に喚き散らしても全く変わらないというのに、はしたない姿を見せてしまいました



「……そんなに嫌ならやめちゃえばいいんじゃないですかね?」


「……え?」


「公爵家として為すべきことを為す

それは大変ご立派なことだと思いますが…

それ…面白いですか?


人から必要とされることが生き甲斐であれば別に良いですけど…


嫌なことをやり続けて心労が溜まって壊れるくらいならやめればいい


重要なのは自分がどうしたいのかではないですかね?」


「…自分がどうしたいか?」


「だって何でもかんでも他人に決められる人生なんてつまらないでしょ?


それで悔いなんて残ったらどうするんです?


人生ってもんは自由に生きてなんぼですよ


生まれてから死ぬまでを決める権利なんて誰も持っていない


生きている間は皆平等なのです」


「………」


「何を悩んでいるのか知りませんが、嫌ならやめて逃げたらいいのでは?


やりたいようにやって好きなようにして楽しく生きなきゃ損をするだけですからね


コレ重要です」



…思いつきもしませんでした


私には既に決められたことを忠実に守らなければいけないと、私は自分で勝手に決めつけていたのかも知れません


……思えば、私は今まで楽しいと思ったことがあったでしょうか


家族に認めてもらうために今まで頑張ってきましたが全てが無駄になり、私がしてきた努力は無意味であり無価値


成功しても失敗しても家族は私のことを見向きもしませんでした




……ん?




何をやっても見向きもしないのなら顔色を伺うこともしなくてもいいのでは?


現に殿下から叱責を受けても何も言ってきませんし…役に立たなければ捨てれば良い


家族にとって私の存在価値は道具と同じ


それなら私が好きなことを好きなようにしても家族は何も思わない


……そっか…いいのか


…好きにしていいんだ


何をしようが何も言われないのなら世間体を気にせず好きなことをやればいい



誰にも文句を言われることなんてないのだから



「…ふふっ…ふふふふふふっ」



そう考えると…私が努力をして積み上げてきたものがしょうもなく思えてきた


笑える


あぁ…気づかせてくれてありがとう


家族の顔色を伺わなくなってから私の世界は変わった


今の私があるのは全ては貴方のおかげだった


一生をかけて恩返しをしたい


私の残りの人生を全て捧げたい


貴方を手に入れるためならば何だってやる


絶対に逃さない

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