第36話 最高の気分
学園内に魔族が潜んでいた
それがどんなに重大なことかわかっているつもりだ
人類の敵である[魔王]の配下
人を殺すことに何の感情も持たない害悪
人を利用して簡単に捨てる性悪
危険…あまりにも危険な存在
きっとコイツがここに来たのはこの国を滅ぼす為なんだろう
…マズイな
学園の生徒が危ない、国民が危ない
国が滅亡するかも知れない
怖い…逃げたい
普通ならそう思うだろう
それでも…感情を押し殺して何も知らない王族に知らせて国を守らなければならない
全てはこの国を守るため
直ぐに危険を報さなければ…
コイツが変装をしていたフリード殿下は無事なのだろうか
王女殿下を……守らなければ
早く…早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く…危険を報さなければ……
…と普段の俺なら考えていたかもしれない
何だろう…今俺は最高に気分が良い
頭がスッキリしている
血を流し過ぎておかしくなったか?
平和な日常を脅かす危険な相手
だと言うのに興奮が収まらない
フフッ…フフフフフフッ…
フハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!
「…何を笑っている」
「あーーーー…あぁ
何でもない…気にするな
少し昂っているだけだ」
「……?」
とうとう俺も頭がおかしくなったようだ
髪をかきあげて相手を見据える
さてさて…どんなもんかな?
あの程度のダメージで魔法が解けるくらいだからそこまでだと思うが
魔族だしな
それなりにやるだろう
魔族から見れば俺は得体の知れない相手だ
警戒して動こうとしない
様子を見ている
そんな警戒するなよ
いくら様子を見たところで俺は自分から動くつもりはないんだ
大サービスだ
先手を譲ってやる
すると魔族が動き、何もない空間から物を取り出した
ほぅ…〈収納〉魔法を使えるのか
やるじゃないか
取り出したのは…弦楽器…バイオリンね
……あらかた予想できるが
まさかそのまま演奏するつもりか?
演奏し始めたな
それでどうするんだ?
ほぅほぅ…あたり一帯に魔力反応
音に魔力を乗せて周囲に行き渡らせて所々に魔力を設置すると…
それを?
それぞれ魔力反応があった場所に魔法陣を展開して……
火、水、風、土属性の魔法…
…を打ってくると
ふむふむ…それで?
今度は何をするんだ?
さっきと同様に音に魔力を乗せて?
前と違って魔法陣の展開はない
…となると〈幻覚魔法〉でも仕掛けてくるのか?
うーーん…やっぱりか
捻りがない…30点
それで次はどうする?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
この国に来た時、魔族であり[魔王]の配下である
カイントユーベンは正直舐めていた
世界征服を目論む魔王の命により、軍事力の高い国から滅ぼしていく
例え[勇者]が[魔王]の元に辿り着いたとしても、最後に[勇者]を倒せば世界征服が完了するが[勇者]が[魔王]を倒しても平和は訪れない
それなら[勇者]を倒せないのなら[勇者]の戦う理由を無くせば良い
それなら[勇者]が[魔王]の来ても目的は達成される
[魔王]は直ぐに実行に移す事にした
『服従をするなら配下にし、逆らうものは皆殺せ』
魔王のその言葉に配下たちは嬉々として動いた
絶望した時の顔が大好きで
命乞いをする姿が滑稽で
血祭りに上げることに快感を得て
地面に横たわる人の死体を踏みつける事に快感を感じている
多くの魔族は惨虐非道だった
配下の一人
カイントユーベンは王族を使って内部から破壊することを考えた
そして徐々に徐々に破滅させていこうと動いたが、利用しようと思っていた王子が王位継承権を失った
これは想定外の出来事だった
しかし何も問題はない
次期国王の椅子は失っても王族としての立場は残っており、王族としての権利を失っても発言力がある
王位継承権を失ったところで何の痛手も無く、計画には何の支障も出ない
準備さえしっかりしていれば計画は間違いなく成功する
その為にも王子の力が必要だった
そして計画のために王子に変装をして学園内を彷徨いて確認をしていた
これは変装しているのが気付かれないかどうかの確認だ、不安要素を無くすための確認
気付かれては意味がない
準備は念入りに行い、不安要素を無くす
そして大丈夫であれば計画を始動する前に王子を消せば完璧だった
だったが…
前準備の段階で王子が王位継承権を失う事になった原因の男に変装を見抜かれた
「…くそったれ」
完全に無警戒だった
まさか〈魔力弾〉だけでここまでダメージを与えられるとは思っていなかった
王子では無いと気付かれたまでは良かった
問題はその後だ
〈魔力弾〉を場所を考えずに至近距離で放たれた
驚きはしたが、所詮は〈魔力弾〉
避けることなど容易で出来る
しかし避けたはずの〈魔力弾〉が命中した
意味がわからない
〈魔力弾〉は属性付与の無い、魔力を集めて放つだけの魔法
速度と威力はあるが真っ直ぐにしか飛ばないという欠点がある
それが確実に回避した筈なのに命中した
いくら考えてもわからなかった
そして学園内にいた筈が気づいたら外に移動している
〈転移〉で強制的に移動させられた…それだけならば理解はできた
でも〈転移〉で[人]と〈魔力弾〉を同時に同じ場所に送る
言葉で説明すると簡単に聞こえるが、状況によって難易度は変化する
〈転移〉をする対象物が止まっている場合ならば座標を設定して地形を把握している場所に送るだけであり〈転移〉をするだけならそんなに難しいことでは無い……が
〈転移〉する対象物が動いている場合、難易度は跳ね上がる
〈転移〉をする際には
[魔力の調整][座標設定][地形把握]
を同時に行わなければならず、〈転移〉する対象物が動いていれば座標を設定して送る際に意識を〈転移〉する対象物に向けながら転移先を設定しなければならない
動いている対象に意識を向けすぎると他のことが疎かになり〈転移〉は発動しない
三つのことを同時にやらなければ魔力だけを消費するという難点がある
しかも魔力の消費量が莫大であり、数ある魔法の中で絶対に失敗できない魔法の一つが〈転移〉魔法だった
高度で難易度が高く最も精密さが求められる魔法
それを二つ同時に高速で動く〈魔力弾〉と[人]に照準を合わせて〈転移〉させた
そのあり得ない体験をしたカイントユーベンはあまり驚きはしなかった
というよりもそんなことを考えている余裕がなかった
「工夫が足りない」
魔道具の弦楽器を取り出して攻撃を仕掛け続けて言われたのがそれだった
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