第35話 道化師の警告

少女に扮した道化師は高らかに気色悪く笑った



「相変わらず気持ち悪い笑い方だな」


「ひでぇな

友人に言っていい言葉じゃないぜ?

泣いていいのか?泣いちゃうぞー?」


「お前が泣いたところで何もかわらねぇよ」


「冷たい奴だ

そんな態度をするとモテないぜ?」


「時間が無いんだ

無駄話に付き合っている暇はない」


「…ルカとは楽しそうにお喋るするのに?

ひどい!私のことは遊びだったのね!!」


「……お前もアイツも俺をイラつかせるのが本当に得意だな

今すぐにでも脳天をカチ割ってやりたい気分だよ」


「怖っ…え〜ん

センくんがいじめるよ〜」


「クソピエロ!!本当にぶっ殺すぞ!!」


「クヒヒッ…そんなことをしたって無駄なことはわかっているじゃあないか」


「………チッ

用件は何だ」


「クヒヒッ…イライラしてるね〜

どうした?もしかして女の子の日?

男だけど!!


うははははははははははっ!!!!」


「………」


「………うん…キレる寸前なのはわかった

もうやめる」



最初からそうしろってんだ



「ぼくちゃんの用件…ってのは特にない」



じゃあ何しに来たんだ


トランプなんか出しやがって…遊びに来ただけならぶっ飛ばすぞ



「はずだったんだけど…友人が困っているところを見ていたらね

手助けをしてあげたいと思ったんだ」


「…俺の今の現状をか?」


「え?あれ困ってたの?」


「アレは俺が望んだ訳じゃねぇよ」


「嘘!?だってアレは誰もが憧れるハーレムだよ?」


「……嫌すぎて泣きたくなる」


「そんなに!?」



ハーレム…男ならば憧れるだろう


客観的に見れば皆が羨ましがると思う


それはあの二人じゃなければの話だ


暴君の王女殿下と目的の為ならば手段を選ばない公爵令嬢


学園で関わってはいけないと言われている二人に首輪をつけられて喜ぶとでも思ったか



「俺の話はどうでもいいんだよ!

お前は一体何をしに来たんだ!

俺にはアレ以外で困っていることなんてない!!」


「あ…うん…えっとね

実はさ…ちょっとここら辺である魔力を一瞬だけ感じたんだけどさ


…と言っても砂粒程度なんだけど…」


「あ?それがどうした」


「危険な魔力が一つ、得体が知れない魔力が一つ


普段ならぼくちゃんも気にも留めなかったんだけど……一瞬だけで脳を手で絞られたような感覚になって…さ


流石にやばいと思ってね

センくんに伝えに来たんだ」


「……相手に心当たりは?」



いつもふざけているコイツがここまで怯えるとは余程のことなんだろう


そんなヤバそうな奴の魔力なんて感じなかったが…コイツは魔力の感知力は俺よりも鋭い


普段は用がある時以外に姿を見せないコイツが警告しにくるなんて今までになかったことだ



「………セン君もよく知っている奴だよ」


「…誰だ?」


「……セン君の因縁と言えばわかるだろう?」


「………それは確かか?」


「間違い無いよ

だからぼくちゃんがここまで来たんだ


恐らくアレが狙う何かがここにあると思う


阻止しようにもアレはぼくちゃんじゃ止められない

止めようとしたらぼくちゃんでも死ぬ」


「………」


「ぼくちゃんからは以上だよ

……気をつけてね

アレを止められるのはセンくんにしか無理なんだから」



そう言って道化師は笑みを浮かべて消えていった





…………マジかよ


…………最悪だ


最低最悪の情報を得てしまった


誰にも言えない、話せない、関わってはいけない、視線を合わせてはいけない、触れてはいけない


奴に隙を少しでも見せた時には全てが終わる


非常に厄介で面倒な歩く厄災


ほんの戯れで人を破滅させ国を滅ぼし、自分の欲望を満たす為ならば手段を選ばない


相手をすればそれなりの覚悟が必要な奴だが


それは奴と戦闘をする場合であればの話


奴が何の目的もなくフラフラしているだけなら相手をしなくて済む


被害もなく終わる


そんなことは絶対にないんだろうけど


はぁ…最近何で面倒なことばっかり起きるの?


巻き込まれてばっかりなんだけど


内でも外でもさ……


まず…アレだな


ごしゅじんさまたちのところに戻らないとヤバそうだな…


首輪以外にも何かしら用意してそうだ



……………



でも戻ったら特に何も言われず、無言で首輪をつけられただけで特に何も無く一日が終わった


……なんか不気味だな


後で何かありそうで怖いんだけど


………まぁいいか


今の俺には好都合だ


王女殿下と公爵令嬢から解放されると自分の部屋へ戻り鍵を閉めた後、部屋の真ん中で胡座をかいて座る



………やるか



「〈索敵〉、〈並列思考〉、〈魔力感知〉、〈識別〉、〈高速情報処理〉、〈音響感知〉、〈空間認識〉、〈熱源感知〉」



奴を見つけるのに必要な魔法を発動し、小さい虫を識別できるまで感度を強める


探索系魔法の範囲を国の端から端まで広げて、奴を見つけ出すために高速で処理を続けた



……流石にキツイな



多くの情報が脳に流れ続けるので、情報の処理を休まず行わなければならない


怠れば容量を超えて脳が破裂してもおかしくはない


今の状態をわかりやすく説明するならば、風船に水を入れ続け、割れそうになれば新しい風船を何重にも被せ続けている状態になっていた


目から耳から鼻から血が流れ落ち、床に血溜まりができる


ひたすら情報を処理し続けていると誰が何をしているかどんなことを話しているのかが流れ続けており、どれくらいの時間が経ったのかもわからなくなっていた


道化師が感知した砂粒程度の魔力を見つけるのは砂漠の中から針を見つけるようなものであり、捜索は困難を極めた




……そんな時だった



「………みつけた」



血を流しすぎて意識が朦朧とする寸前で得体の知れない魔力反応があり、一気に目が覚めると、直ぐに反応があった魔力に印をつけて魔法を解いた


一度過呼吸のような状態になったが、回復魔法を自分にかけて血塗れになった顔を手で拭う


そして…



「〈転移〉」



反応があった魔力に印をつけた後、座標を設定してその場所へと向かった



この時の俺の失敗は反応があった魔力の場所の確認を怠ったことだ



…どういうことだ?



俺は確かに反応があった場所へと〈転移〉した


探索系魔法が反応を示したのは間違いなく奴の魔力


俺が奴の魔力を間違えるはずがない


でもそこにいたのは…



「…フリード殿下?」


「ん?…お前は」


「何でここに…」


「何を驚いているのか知らんが

王位継承権を剥奪されようと今まで通り学園には通うぞ?」


「いや…そういうことでは」


「お前こそどうした?

何でそんな血塗れなんだ?

姉上に何かされたか?」



意味がわからない


何故ここにフリード殿下がいるんだ


俺は確かに奴の魔力反応があったところに〈転移〉した筈だ


なのに…そこにいるのはフリード殿下だ


考えれば考えるほどわからなくなっていった



………まてよ


あのクソ道化師は何で言っていた?


危険な魔力と得体の知れない魔力


二つの魔力のことを言っていた


でもアイツが忠告をしたのは間違いなく奴のことだ


ではもう一つは?


もう一つの魔力のことは何も言っていなかった


そもそも道化師の感知能力は俺を上回る


そんな奴が砂粒程度の魔力しか感知できなかったとなると…こんなにも早く見つかるものなのか?


俺が感知した魔力は人のものとは思えない得体の知れない魔力だった





…………………………そういうことか




「なるほどなるほど…そりゃそうだよな


冷静になってみれば全然違う


ハハハッ!

そうだよ…何で俺はコレが奴だと思い込んでいたんだ」


「…何を言っているんだ?」


「いや〜おみごと!

ちょっとした間だけだけど…俺を少しでも騙せたんだ

40点やろう」


「………何がだ?」


「お前の粗末な変装にだよ」


「なっ!?」


「〈魔力弾〉」



それは魔力を凝縮させただけの魔法


属性が付与されていない分、完成が早く威力と速度はあるが、真っ直ぐにしかいかないという欠点がある


だから…


まっ…簡単に避けるよな


〈魔力弾〉が避けられるなんて想定内ですよ


考え無しに校舎内でぶっ放して損害させるなんてことするわけがない


そんなことしたら後でどうなるかなんてバカでもわかる


ちゃんと避けられた後のこととかをちゃんと考えていますよ



「はい、座標設定〈転移〉」



フリード殿下に化けていた奴を外へ〈転移〉させて、その付近に〈魔力弾〉も〈転移〉させれば…



「……は?」



避けられても当たるということ


コレなら軌道を読んでも意味がないって話ですよ


避けたら避けたで凄いけど…まぁ無理でしょ



その証拠に外の広場の付近で爆発音が轟く


ほらな?



「〈転移〉」



〈転移〉させた場所へ同じく〈転移〉して向かうと、そこには膝をついて苦痛の表情を浮かべている奴がいた


見ていて滑稽な姿だ



「ハッ!

ちょっとした攻撃を受けただけで変装が解けるのかよ

お前 魔法のセンスねぇな!」



フリード殿下の変装が解ければ、明らかに人ではない奴が俺を睨みつけている



「……クソが」


「怪我をしたなら早くお家に帰った方がいいよ?

と言いたいところだけどさ


魔族がこんなところに何しに来たんだ?」


「…何だっていいだろ」


「そういうわけにはいかんのよ


一応聞いておかなきゃさ?

なんかあった時に困るだろ?


こっちもこっちで事情があるんだけど…

ぶっちゃけそれはどうでも良い


だから別に話したくないってなら良いんだけどさ」


「話すことは何もない」


「…ふーん……そっか

………ならここで死ね」


「やれるもんならやってみろ」



あぁダメだな


抑えられる気がしない


………最高に気分が良い

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