第34話 憂鬱な気分
……視線が痛い
「何をしている 早く来い」
「…はい」
まさか本当に首輪をつけられるとは思わなかった
何で公爵令嬢も用意してんだよ
おかしいだろ
「……」
「何か言いたげだな」
「気のせいですよ」
何か言ったところで
「貴様、いい度胸をしているな」
とか何とか言い出すに決まっている
抵抗したところで無駄になる
……もう諦めた
だからあまり引っ張るんじゃない
「王女殿下?そんなに引っ張らなくても何処にも行きませんよ」
「信用ならんな」
「コレを壊して逃げるとでも?
俺にそんな度胸があると思います?」
「貴様はあるだろ」
「…俺そんなに信用ないですかね?」
「ないな」
「ひでぇ」
「日頃の行いというやつだ」
…俺そんなに素行悪い?
授業だってちゃんと受けてるし、揉め事も起こしていない
生徒会長に目をつけられるほどの問題は起こしたことないと思うんだけど
「…真面目にしているつもりなんですけどねぇ」
「ほぅ…
授業に遅刻したり、授業中に寝たり、訓練場を半壊させたりする奴が真面目にしていると?」
「……違うんですよ」
「何が違うと言うんだ?
お前の行動は教師から問題視されていると言うのに何が違うんだ?」
「これには理由があってですね」
「貴様に理由が有ろうが無かろうが貴様への苦情が私の元に実際に届いている
一部は看過できても貴様自身に問題がある場合は私が動かなければならんのだ」
それが首輪をつける理由か
俺が何も問題を起こさないように手元に置いて監視をしておくと…
そこまでしなくても良くない?
「まぁ…そんな事はどうでもいい」
あんな説教じみたことを言っておいてどうでもいいって何だ
「貴様には前から聞いておきたいことがあった
その後でたっぷり説教をする」
まだ説教をされるの?
それを差し置いておれにききたいことってなんだ?
…嫌な予感しかしない
「…何でしょうか」
「何故貴族位を捨てた?
それが聞きたかった」
「……」
「貴様が貴族位を捨てた時、私は貴様が貴族位を捨てる理由を考えた
家族との仲も良好、安定した暮らし、他の貴族と違い貴族として問題もない
何一つ不服なことなんてないだろう
だからこそわからん
貴様は何の不満があって貴族を辞めた?」
「…それは王女殿下が気にすることですかね?
例え俺が貴族を辞めたところで王族には何の痛手も無いでしょう」
「………」
…真面目に答えろってか
貴族を辞めた理由…ね
「……確かに生活に何の不満もありませんでしたよ
家族との仲も不仲ではありません
貴族として王族に恥じないように努めてきた自覚はあります
でも…他の貴族はどうですかね
貴族の殆どが国のためではなく、自身の利益になることしか考え無い
人を見下し、不都合があれば隠蔽する
そんな貴族がいるから真っ当な貴族も煙たがれ、どんな偉業を成し遂げようも中には不正をしているのでは無いかと少なからず疑う者が出てくる
そういうのがあると真面目に貴族やって功績を上げるのがアホらしくなってくるじゃないですか
それなら貴族を辞めて何も縛られずに好きなことをやって生きていくのが最適な人生の選択だと思ったんですよ
一応学園は卒業しておきますけどね」
どんなに頑張って功績を上げ続けようとも評価されない貴族は多い
評価をされて昇格するのは不正を働いている貴族
金を積めばどんなに小さなことでも賞賛をされる
…真面目にやればバカを見る
それがクソッタレな貴族の世界だ
「…それが貴様の言い訳か?」
「別に言い訳をしているわけではないですけど…そうですね」
「……そうか」
……………
10秒くらいの沈黙
この一瞬だけ空気が凍った
あ…コレはヤバいな
キレてる
王女殿下は怒りが頂点に達した時、静かにキレる
それが途轍もなくおっかない…
普段の相手を威圧する感じが一変して無表情になる
……絶対に何かしてくる
それも碌でもないことをしてくるに違いない
はぁ…
目を閉じてため息を吐いた瞬間だった
その間に喉元にレイピアの剣先を喉元に向けられていた
……しまった
気を抜いて隙を見せちまった
王女殿下が手ぶらでいる事に油断した
さっきまで王女殿下は何も所持していなかった
でも王女殿下の手にはレイピアが握られていた
いつ用意したんだ?思っていだが…
よくよく見れば…喉元に向けられているのはレイピアではなく…人差し指
……なるほど…幻覚
やっちまったぁ…相当お怒りになっている
この人の前では気を抜いてはいけないってことを忘れていた
「舐めているのか貴様
私を舐めているのか?」
さっきまでの冷え切った空気が一気に重くなる
…ここまで王女殿下が殺気を放つなんて初めてだ
「そんな…」
「貴様がそんなことを思っていたとはな
感心するよ」
「いやだから…」
「まさか私のことを軽く見る奴がいるとは思わなかった」
「あの…」
「黙れ
貴様は私を舐めた
万死に値する」
話を聞かねぇな!バイオレンス王女!
俺が何をしたって言うんだ!
「あの…王女殿下?」
「償え…貴様のその命で償え
さもなくば…」
「話を聞いてくれます?」
…ダメだ
王女殿下の悪い癖が出た
こうなると何を言っても話を聞かない
この状態から宥めるのに一日はかかる
しかも言葉を間違えるともっと酷くなるので面倒くさい
…おい!公爵令嬢!
黙って見ていないでヒステリック王女殿下を止めてくれ!
「……ヴィネット様」
「ん?」
「これ以上、何をしても何も話さないと思いますよ?」
「……何故だ?」
「それはヴィネット様もご存知だと思いますが」
「……」
何の話?
「…やっぱりダメか?」
「ヴィネット様はどう思われますか?」
「………チッ
これ以上は時間の無駄か」
お?殺気が消えた
どゆこと?
「だから言ったじゃないですか
センは頑固なので何も喋りませんよ…と」
「……コイツは本当に頑固だな」
「でも素直なセンはそれはそれで気持ち悪くないですか?」
本人を前に失礼だな
「気持ち悪いな」
おい!
「……はぁ……チッ
……ふん!」
「うぐぅ…」
舌打ちをされた後、手を下ろしたかと思ったら溝内に膝蹴りをされた
不意に来たから防御もできずに蹲った
「センよ」
「……はい」
「貴様が何を私たちに隠しているのか知らんが…
隠されたら隠されたでこっちは心配になる
貴様は私のモノだ
だが…なんだ…あまり心配をかけさせるな」
……俺は今…もの凄い間抜けな顔をしているんだろうな
両目を大きく開いて信じられないようなモノを見たような顔をしている自覚がある
だって…あの王女殿下が照れながら話しているんだから
フッ…ウケる
「貴様…殺されたいのか」
顔に出てたか…
「……申し訳ありません
まさか心配をされているとは思わず驚いてしまいました」
「本当に殺されたいのか?」
普段の王女殿下を見てたらそう思うでしょうが
その証拠に公爵令嬢も一瞬だけど俺と同じ顔をしていたぞ
王女殿下が人の心配をするなんて道端でドラゴンと遭遇するのと同じくらい珍しい
……明日は空から宝でも降ってくるんかな?
「……ヴィネット様、そろそろお時間です」
「ん?…あぁ、次の授業か」
膝を地面についているんだから引っ張らないでほしい
「王女殿下…俺もそろそろ移動をしなくてはいけないのですが」
「……必要ない」
「はい?」
「貴様は授業を受ける必要がないと言っている
貴様のような問題児は私の手元に置いておくのが一番だ
教師陣からも許可をもらっている」
また訳のわからんことを言い出した
授業を受けなきゃ進級が危ういでしょうが
……と講義をしたところでいつもと同じことを繰り返すだけだな
「……わかりました
その前に首輪を外してくれませんか?
トイレに行きたいんですが」
「………チッ
必ず戻って来い…さもなくば」
何で少し躊躇ったんだ
「わかっていますよ
もう逃げません」
………はぁ…やっと行った
まったく…公爵令嬢も見てるだけじゃなくて助けてほしい
…………さてと
周りに誰もいなくなった
授業はまだ始まっていない…なのにこの静けさ
少し前からいることは知っていた
コレも奴の仕業だと考えたら納得できる
「……それで?
お前は俺に何の用があるんだよ」
………………………
呼びかけに返答はない
でもそこには眼鏡をかけた大人しそうな少女が柱の影からこちらを覗いていた
それで隠れているつもりかね…
バレバレなんだよなぁ
「………クヒッ…クヒヒッ…
クヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ…流石にバレてるか
はろ〜、ぼくちゃんのおでましだぜぇ?」
見た目からは想像できない気色悪い笑いを少女がした後、少女は道化師へ変化した
次から次へと面倒なのが来やがって…
はぁ………憂鬱な気分だ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます