第33話 巻き込まれた者達

あれから俺の学園生活は大きく変わった


生徒会長が俺を見掛けるなり、俺の首根っこを掴んで用事があろうが授業があろうが連れ回される


そこに公爵令嬢が加わり、二人の所有物みたいになっている


それに友人が減った…のは元から一人で過ごしていたから気にはならない


貴族からは嫌悪の視線を向けられるようになった


何もしてこないのは生徒会長と公爵令嬢が近くにいるからだろう


羨ましいのか?


この二人に挟まれるなんて良いことなんて一つもないぞ


いつもどう逃げようか考えているくらいだ


隙を見て逃げようとしても二人が結託をしたら逃げ道なんて無い


奇跡的に逃げれたとしても…



「今日はお一人なんですね」



こいつが絡んでくる


ペトラ・ユーリシア男爵令嬢


あの騒動の元凶、俺をこんな状況にした張本人


……何だ?この微かに感じる甘い匂いは


気持ち悪い…



「…何かようですか」


「いえ…用があるというわけでは無いのですが」



ならこっち来るんじゃねぇ


お前と話すことなんて何も無い



「もし…お時間があればどこかでお茶でも…」


「お断りします」


「…え?」



何だよ、断られると思っていなかったのか?


断るに決まってるだろ



「…なぜですか?」


「もうそろそろ来るからですよ」



そう…奴が



「みつけた」



おいでなすった


…今俺はきっと全てを諦めたような顔をしているんだろうな


ヴィネット王女殿下は俺の首を後ろから鷲掴みをして、宙吊りの状態になっている


何で男の体を片手で持ち上げれんだよ


この馬鹿力め



「貴様はどこに行っているんだ?」


「見ての通り…中庭ですよ」


「違う

私の許可なく勝手にどこに行っていたと聞いている」


「お言葉ですが……俺はヴィネット王女殿下の所有物ではありませんよ?」


「ん?貴様は何を言っているんだ?

貴様は私のモノだ」



あんたが何言ってんだ!



「……いいえ違います

俺は誰のものでもありません」


「貴様…私に口答えをするのか?」



め…めんどくせぇ〜


めんどくさいぞ!王女殿下!


俺をペットかなんかと勘違いしてんじゃないだろうな!



「い…いえ口答えなんてそんな」


「また口答えをしたな」



えぇぇぇぇぇぇぇ!?



「いいか?セン

貴様は私のモノだ」


「い……」



いいえ違います…って言おうとしたけど、また同じことを繰り返すと思って途中で口を閉じた



「故に私の言うことは絶対だ

貴様に拒否権はない

反論も受け付けない

貴様の全ては私のモノだ」



お前はめんどくさい彼女かよ!


何でそんなに俺に執着して来るんだよ


泣きたくなるわ!



「わかったか?」


「………」


「返事は?」



嫌だぁ…返事しなくねぇ…


…かと言って返事をしなかったらもっと面倒な結果になりそうで怖い…


どうしたもんか



「……」


「……そうか…返事はなしか

やはりカロンと話し合った通りにしたほうが良さほうだな」



?、公爵令嬢?



「貴様には首輪が必要なようだ」



…………………………首輪?



「………王女殿下…今何と?」


「貴様は直ぐに私から離れようとするからな

首輪をつけることにした」


「はぁ!?」


「カロンが用意して待っている

行くぞ」


「ちょ!…やめっ…嫌だぁあ!!」



王女殿下の手を外そうとするも、首に指が食い込んでいて外れない



「くそッ!はなせぇえ!!」


「誰に向かってそんな舐めた口を利いているんだ貴様は」



必死の抵抗も虚しく、王女殿下に引き摺られて行った


完全に蚊帳の外となっていたペトラ男爵令嬢を置いて…











ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー









ペトラ・ユーリシアは[転生者]である


彼女の一度目の人生は17年で終えている


それも自分の意思とは関係なく、とても惨い形での終わり方だった


転生前、裕福な家庭で育ち、友人も多く、成績も優秀、彼女は順風満帆な生活を送っていた


しかし将来を期待されていた彼女の人生は何の前触れもなく終わりを告げる


彼女は学校の帰り道に速度70kmで走って来た大型トラックに撥ねられた


そして100m先まで引き摺られていき、彼女の身体は身体の一部が欠損して顔の一半分が潰れた状態となった


辺りには血と肉片が飛び散り、阿鼻叫喚となる


現場にいた者たちは彼女の身体を見て嘔吐する者もいた


だが幸いなことに彼女にはその時の記憶が無く


死んだ時の記憶が無く


自分が死んだ自覚が無い


自分が何処にいるのかもわからない


何故自分は赤子になっているのかもわからない


彼女は訳のわからないまま第2の人生を歩むことになった


知らない部屋、知らない人、知らない文字、知らない風景に囲まれた彼女は自分の知っているモノが何も無い状況に孤独を感じた


毎晩、孤独に怯えて泣いていたが、前世での両親の姿は無い


いつも彼女の傍にいたのは今世での母親だけだった


優しく聖母みたいな母親がそばにいるだけで不安が和らいだ


それから全てを受け入れ、ペトラ・ユーリシアとして生きると決めた時には前世での生活よりも裕福な暮らしをして、前世と同じように友人も多く、成績も優秀、順風満帆な生活を送っている


前世と比較にならないくらい充実した日々、文句の一つもない人生に彼女は満足をしていた


でも彼女はフリード殿下達と関わることで充実していた日々が狂い始めることになり、大広間での一件に繋がってしまう


フリード殿下達と関わることになったのは彼女が意図して行った訳ではない


最初は身分関係の無く接する友人みたいな感じだった


彼女は誰にでも同じように貴族、平民関係なく優しており、フリード殿下達にも同様に接していた


それがいけなかったのか、彼女は学園に通う貴族に目をつけられてしまう


身分差関係なく接する彼女を良しと思わない貴族達に嫌がらせを受けることになった


それについては彼女は全く気にしていなかった


前世でもそういったことを何回か受けており、それが今世でも同じことが起こったと思うだけだった


でも彼女が気にしていなくてもフリード殿下達は違ったので彼女は頭を抱えたが、フリード殿下達に自分から何を言っても事態を酷くするだけだと思いフリード殿下達の好きにさせた


そしたら思った以上に大事になってしまった


まさか無関係の人に決闘を申し込むとは予想できるはずがなかった


あの時、私が止めていればこんな事にはならなかったかもしれない


彼女は後悔し、愚かさを恥じた


自分のせいで無関係の人を巻き込んだ

自分のせいで殿下達は廃嫡になった

自分のせいで多くの人に迷惑をかけた


自分のせいで自分のせいで自分のせいで自分のせいで自分のせいで自分のせいで自分のせいで自分のせいで自分のせいで自分のせいで自分のせいで自分のせいで自分のせいで自分のせいで自分のせいで自分のせいで自分のせいで自分のせいで…


彼女はせめて自分のせいで迷惑をかけた人に謝りたかった


殿下が決闘を申し込んでしまった人に


だが彼はいつも生徒会長と一緒にいた


生徒会長から彼には近づくなと言われており、生徒会長が傍にいる時は話しかけることもできない


まるで番け…


運良く一人でいるところを近づけたとしても警戒をされて謝罪をする前にいつも何処かに行ってしまい、機会を逃していた



巻き込んでしまったことを謝りたい



間違ったことをして反省して謝罪するのは当然のこと


彼女は本気で申し訳ないことをしたと思い、誰かを疑ったり陥れたりするなんてことは前世を含めて一度も考えたことが無かった


だからこそ彼女は危うい


嫌なことがあれば「こんなこともある」と簡単に流してしまう


彼女は心労を溜め込み続けてしまう


消費の仕方を知らない


それは彼女自身が気がついていない彼女の弱点でもあった


彼女は争いを嫌い、競い合うことを嫌う


これは前世でも今世でも変わらない


故に彼女も今回の騒動に巻き込まれただけだった


彼女には目的も計画も策略も野望も無い


普通に第2の人生を満喫しているだけだった




彼女は…ペトラ・ユーリシアは転生者であり、主人公であるが、主人公であることを知らない


そして彼女は[乙女ゲーム]を知らなかった

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