第31話 生徒会長

「誰が何だってぇ?」



大広間の扉を開けて現れたのは学園で最も恐れられる生徒会長


さっきまで騒いでいた殿下達が一瞬で黙り、辺りの空気が凍りつく


学園内で絶対的な存在を前に全員が萎縮していた



……まっそうなるよな


だって…こんな人を殺してそうな目つきをしていれば逆鱗に触れないように気を配ったりする


それに子供が見たら絶対に泣く


そんな人が殿下を睨みつけていれば、いつ飛び火が来るかと身構えてもしょうがないと思う


ここにいる全員が尋常じゃないくらいの汗が滝のように流れて足が震えていた



「今言った事を私の前でもう一度最初から言ってくれるか?」


「…いや…その…これは」


「んーーー?

……違う違う違う違う、そんな事一言も言っていなかった

…一字一句正確に同じ事をもう一度言ってくれ」


「…………」


「聞こえなかったか?

同じ事をもう一度言えと言っている」


「………」


「どうした?何を黙っている?

難しい事は何も言っていないだろ?

あんなに大声で生き生きと話していたじゃないか

それも同じ事を最初から言ってみろと言っているんだけだぞ?」


「………」



怖っ…まるで尋問だな


本人にはそのつもりはないんだろうけど、あの目つきで睨まれたら誰だって蛇に睨まれた蛙になる


だから殿下は何を言えば生徒会長の逆鱗には触れないか必死で考えているのがわかるくらい目が泳いでいた


やってしまった事はしょうがないとは言え


正直に言ったところで生徒会長がどんな反応をするかなんて分かりきっている


だから何も言えない


…そんなところだろ



「………何も言わない…か…そうか」


『決闘を行うと数人の教師には報告をして許可を貰っているから何も問題はない!

教師から許可を貰っていれば生徒会長への報告など必要ないのだ!』


『……本気で仰っているのですか?』


『本気も何もない!!

そもそも報告をしなかっただけで罰せられる事自体が間違っているんだ!

生徒会長に報告をしないだけで何故そんなに恐れるんだ!

少し早く生まれただけで同じ学生だろう!!

あんな力でしか解決できない暴君が…』


「……え?」



不意に流された自身の声を聞き殿下の動きが固まる


これは音の魔法…しかも魔導具を使った録音じゃない


よくよく周囲を見てみれば魔法文字が辺りに散りばめられている


成程…音を魔法文字に記録し、術式を組み合わせて完成する録音か


一から魔法文字を形成して術式を作るなんてかなりの高度な技術だぞ


わかりやすく言えば、部屋中に広がった煙を箱の中に全部入れたような事だ



「黙っていれば…何も知られないとでも思ったか?」



殿下の顔がみるみる青くなっていく


うん…ご愁傷様



「威勢がいいのは口だけか」


「ち…違う」


「違う?何が違うと言うんだ?何も違くはないだろう

貴様が公の場で放った言葉に間違いなんてない

今さら弁解をしたところで私が信じるとでも思うか?」



思わないだろうな



「それとダニエル、ルシアン、クリストフ

自分は関係ない話と考えているようだから先に言っておく

貴様らもフリードに加担して一人の女のために貴族として許容できないことをしたのだ

貴様らにも後に厳重な処罰を下す」



生徒会長の処罰…考えたくもない


誰よりも貴族らしくあり、曲ったことが誰よりも嫌いな人が貴族らしからぬ事をした殿下達に慈悲を与える可能性なんて無いに等しい


退学…もありえなくもないだろうが



「それとは別にフリード…

わかっているとは思うが貴様は王族として決してやってはいけない事をした

王族だからと言っても権力を使い、私情で好き勝手することなんて以ての外

王族は国見本とならなければならない

そして貴族は王族に倣い、国民を第一に考え、自ら進んで助力する

自分の地位が上だからと言って国民を見下すなんてあってはならないこと…


そう教えたのを覚えているか?」


「……はい」


「そうか…教わった自覚がありながらこのようなことをしたのか…

フリード…貴様は王と王妃の顔に泥を塗り、王族でありながら一国民を陥れようと画策を練り実行した…失望したよ

だが、貴様の振る舞いが貴族に悪影響を及ぼしていたのに気づかなかった私にも落ち度がある

貴様のみならず、愚兄、愚姉、愚弟、愚妹どもは王族と名乗るのも烏滸がましい

同じ血液が私にも流れていると思うと反吐が出る」



かっ…帰りてぇ〜


いつまで続くんだよコレ


話は全く関係ないけど一緒に怒られてる感じがする


殿下達なんて顔色が青かったのが今じゃ真っ白になってる


人の顔ってあんなに白くなるんだな


原因を作った令嬢は……どこいった?


あぁ…殿下達の後ろに隠れているのか



「ふん…親が一緒の時点で文句を言っても仕方がないんだがな

フリード…私は今回の件を王に報告をした後、貴様には王位継承権の剥奪とカロンとの婚約の解消」


「え?」


「ダニエル、ルシアン、クリストフ、貴様らは婚約者との婚約の解消と廃嫡を王に打診する」



王位継承権の剥奪、婚約の解消、廃嫡

この衝撃発言にあたりは静まり返った



「話はこれで以上だ

正式な通達があるまで自宅で待機していろ」



何の権限があって決めているんだ!

…と言うものは誰一人として言わなかった


何故ならこの人にはそれを言えるだけの実績があったからだ


最終的な判断は王が下すが、例外的に生徒会長の決定は王を通さずとも決まることも多く、王へ結果を報告するだけでも許されることもあった


こんな王と同等の権限を持つ生徒会長なんてどの世界にもいねぇよ…


殿下達は生徒会長の決定に何も意見をいせずに黙ることしかできず、帰路に着く生徒会長の背中を見届けるしかなかった


そしてこの場を去ろうとする生徒会長の道を開け、膝をつき、頭を垂れて生徒会長が通過するのを待つ


その後で俺も帰ろう…と思ったら俺の前で止まりやがった


…くそ



「久しぶりだな」


「…お久しぶりです

ヴィネット王女殿下」


「……首」


「はい?」


「跡が消えてるな」


「……そりゃ消えますよ」


「そうか…ならつけ直さないとな」


「……やめましょうよ」


「ダメだ」


「〜〜〜〜っ!!」



この間に何があったか…ふっ


生徒会長…ヴィネット王女殿下に頭を掴まれて首筋を噛みつかれた


そして歯形がついたところを舌でなぞり、吸いつかれた


俺の首には歯形と痣ができている


満足そうな顔をしやがって…



「…これでよし」


「噛みちぎられるかと思った」


「それは貴様への罰も含まれている

貴様は私のモノだ

貴様が貴族位を捨てたとしてもそれは変わらん

例えカロンから言い寄られていようとも貴様は私の所有物だ」



なんかやべぇこと言ってるよ



「だからカロン

私から奪い取る事は許さん」


「ヴィネット様」


「ん?」


「……別に私は二番目でも良いですよ」


「……そうか…ならいい」



何も良くねぇよ!!

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