第30話 大広間にて

「貴様に決闘を申し込む!」

 

 

…どうしてこうなった?

 

いきなり呼び出されたかと思えば、学園の大広間で大勢に囲まれて俺はなぜかフリード殿下に決闘を申し込まれた

 

フリード殿下の傍には殿下の友人である侯爵家次期当主のダニエル、騎士団団長の息子のルシアン、魔法省長官の息子のクリストフがいる

 

あとフリード殿下の背中に隠れている令嬢…

 

貴族であることは間違いないんだろうが…


どっかで見たことあると思うんだけど……アレ誰?全く思い出せない

 

 

「おい!聞いているのか!」

 

「………聞いていますよ フリード殿下」

 

 

今考え事をしているんだから大きな声を出すなよ

 

…本当に何でこうなっているんだ?

 

全く心当たりが全くないが…見た感じフリード殿下…怒っているよな?

 

なんか怒らせるようなことをしたっけ?

 

入学してからフリード殿下と話したことなんて一度もないし…フリード殿下の友人たちとも面識は皆無だし

 

見かけたのだって数日前の課外授業の時だけだし…

 

うーん?考えれば考えるほど心当たりないぞ?

 

雰囲気的にフリード殿下の後ろにいるご令嬢が関わっているのは…まぁ…わかるけども…

 

名前も知らないし会ったこともない

 

貴族の令嬢なんて性格が終わっているし、同じ学年の貴族で見分けがつくのはディバイエン公爵令嬢くらいで、皆同じに見えるからな


めんどくさいことになったなぁ

 

 

「はぁ…」

 

「何だ!その気の抜けたような顔は!

バカにしているのか!!」

 

 

しまった…つい顔に出ちまったか

 

 

「いや…バカにしているわけではないんですけどね

……何で殿下は平民である自分なんかに決闘を申し込むんだろうかと考えていまして」

 

「はぁ?」

 

「自分が殿下に何か不快なことをしていたのなら謝罪のひとつでもしようとは思うんですけど

考えても心当たりがないので」

 

 

「貴様…それは本気で言っているのか?」

「はい」

 

 

だってわかんねぇーもん



「貴様が主体となって仕打ちをペトラに仕打ちをした事に心当たりがないと?」



……ペトラって誰?


仕打ち?何のことだ?



「…はい、何のことかさっぱりわかりません」


「貴様…!」



そんなに怒った顔をしても思い当たる節が無いのだから何を言われようと

「わかりません」

と言うしかないんだよ



「自分は彼女とは面識がありませんし、彼女に仕打ちをする理由もありません

自分には全く関係ない話です

帰っても宜しいでしょうか?」


「何だと!」


「殿下…ここは私にお任せください」



殿下の前に立ったのは侯爵家次期当主のダニエル


コイツの事あまり好きじゃないんだよな


コイツは平民を見下す事はそんなにしないけど、俺が一番凄い…って言いたげなさ、どこからくるかわからない自信が態度が腹立つんだよな



「しらばっくれても無駄ですよ

こちらには貴方がペトラさんに酷い仕打ちをした証拠があります」


「証拠?」


「貴方はペトラさんの制服や教科書などを切り刻みましたね」


「自分じゃないですね」


「ペトラさんに魔法を使って水をかけましたね」


「知りませんね」


「……殿下に虚偽の報告をしてペトラさんを貶めようと」


「誰かと勘違いをしているのでは?」


「………」


「もう帰ってもいいですか?」



黙った


まぁ こうなるだろ


俺がやったと確信があったんだろうが、やってもいない事を認めるなんて事はない


ここまで否定されるとは思っていなかったのか、呆気に取られたような顔をしている


どんだけ自信があったんだよ


殿下は殿下でいつ剣を抜いて切りかかってくるかわからない感じだし…剣なんて持ってないんだけどさ


あーあ…面倒臭い



「帰っていいわよ」



コイツら面倒だし、どうせ帰らせてくれないんだろうな…と考えていたら、この状況を楽しそうに見物していたであろう公爵令嬢が殿下たちに変わって帰宅の許可を出したが



「ディヴァイエン様」


「……」



何?その不機嫌そうな顔…俺…公爵令嬢に何かした?



「セン」


「はい」


「何度も言わせないでもらえるかしら」


「はい?」


「カロンと呼びなさいと何度も言っているでしょう?」


「ディヴァイエン様…同じ事を何度も言わせないでください

呼べる訳ねぇっつうの」


「あら残念」



このやり取りを何度やっていることか



「カロン…」


「ご機嫌よう…フリード様、ダニエル様、ルシアン様、クリストフ様

そしてペトラ・ユーリシア男爵令嬢様」



へぇ…そんな名前なのか、あのご令嬢



「私のしもべがご迷惑をおかけいたしました」


(…しもべ?)


「しかし…どうやらこれ以上、この場にいても時間だけが過ぎていくだけと判断いたしました

センを引き取らせていただきます」



しもべって何?

いつから公爵令嬢のしもべになったんだろう

全部断っているはずなんだけど…



「カロン様といえどそうはいきません!

彼にはペトラにした事を…犯した罪を償う必要が…」


「ダニエル様…その必要はないわよ

だってセンが本当にやったかどうかの証拠がないじゃない」


「だからそれは」


「ねぇ…貴方の言っているのはペトラさんがセンから酷い仕打ちを受けたと言っているだけでしょ?

そんなのは証拠にはならないわよ?

本当に証拠があると言うのなら事実を証明できる列記とした証明をだしなさい

それが無いのなら、ペトラさんの証言はただの被害妄想の激しい妄言よ

それにセンがペトラさんに嫌がらせをする根拠が無いのではなくて?

ペトラさんが受けたと言われる仕打ちはどれも女性によるものだとは思わなかったの?

何故男性がそんな事をするんだろうと本気で思わなかったの?」


「………」


「そんなに難しい事を言っているかしら?

考える力があればわかると思うけど?

まぁ…考える力があればペトラさんが何故、酷い仕打ちを受けているのかわかるはずだけどね

まさかとは思うけど、ペトラさんが酷い仕打ちを受ける理由が貴方たちにもあるとは考えなかった?」


「……へ?」


「本当にわからないの??

貴方たちには常識というものががないのかしら」



すげぇ言うじゃん…


公爵令嬢にビックリ


でもまぁ確かに公爵令嬢が言っていた事は俺も思っていたことだし黙ってはいたけどさ


よくよく考えてみても俺が非難を受ける理由なんてないよね


仮に俺がペトラ嬢に酷い仕打ちをしたとして、メリットなんてないし、異性の俺がペトラ嬢に嫌がらせをしても何の得にもならない


だから俺がペトラ嬢に嫌がらせをする理由なんてあるはずがないんだが…


殿下がそこまで考えなしに動いているとは思わなかった



「はぁ…殿下たちには失望しました

…殿下たちは自分たちの立場を理解せずにこのような愚劣極まりない事をしているのですね

私は殿下たちを過大評価し過ぎていたようです」



フリード殿下が公爵令嬢に論破され続けた


何も言い返せずにいるとこのままここにいれば飛び火が来ると思った周囲の貴族たちは大広間から出ようとするけど、公爵令嬢が扉の近くに立っていて出れずこのまま終わるまで待つしかない


俺は公爵令嬢の後ろにいるのでいつでも扉を開いて帰る事ができるけど…


なんか嫌な予感がするんだよな



「…黙って聞いていれば偉そうに言ってくれるな

そこの男がペトラに嫌がらせをしていなければ貴様がペトラに嫌がらせをしたのではないのか!!」


「はい?」


「貴様ならペトラに嫌がらせをする理由があるだろう!!

私とペトラが恋仲である事に嫉妬しているのだろう!!

だから貴様は…」


「殿下…貴方は今自分が何を言っているのかわかっていますか?」


「何?」


「殿下とペトラさんが恋仲であると仰いましたね」


「それが…どうした」


「殿下は今現在…婚約をしていることを忘れているわけではありませんよね」


「………」



終わったな



「ダニエル様、ルシアン様、クリストフ様…貴方たちもよ

婚約者がいる身でありながら、このような騒動を起こして無事でいられると思う?」


「…僕たちは間違った事を正そうとしているだけで」


「何が間違っていて正しいのかしら?

間違っているのは貴方たちでしょ?

罪のない学生に身に覚えのない罪を着せて、一方的に凶弾する事は正しい行為なのかしら?」


「それは…」


「そもそもの話だけど…

殿下、決闘を申し込む事は殿下の好きになされば良いのですけれど…

ヴィルダ様に決闘をするとこをご報告されていますか?」


「うっ…」


「…されていないのですね」



学園では生徒同士が決闘を行う場合、教師と生徒会長の許可が必要


これは学園の校則であり、学園に通う以上は貴族であろうと守らなければならない鉄則


それを殿下は怠った


校則を破る事がどれだけ恐ろしいことか学園に通う生徒はプライドが高い貴族でも誰もが理解している


そうか…許可をとっていないのか…なんて恐ろしい事を…


生徒会長に報告をしていない…それだけで貴族たちは震え上がるほどに生徒会長は怖くて有名だ


…殿下って実は勇者なのではないだろうか



「殿下…勇気ある行動だとは思いますが、私はどうなっても知りませんよ

この件に関しては私は全くの無関係ですので

センを連れて帰りますね」



確かに巻き込まれたくはないけど…


何で公爵令嬢と一緒に帰る話になったんだ?



「……まだそいつの処遇について終わっていない」


「…処遇も何も

センは何もしていないのですよ?」


「本当に何もやっていないと?

お前はペトラが嘘をついているとでも言うのか?」



だからやってないって…



「それに決闘を行うと数人の教師には報告をして許可を貰っているから何も問題はない!

教師から許可を貰っていれば生徒会長への報告など必要ないのだ!」


「……本気で仰っているのですか?」


「本気も何もない!!

そもそも報告をしなかっただけで罰せられる事自体が間違っているんだ!

生徒会長に報告をしないだけで何故そんなに恐れるんだ!

少し早く生まれただけで同じ学生だろう!!

あんな力でしか解決できない暴君が…」



殿下が生徒会長への不満を熱弁している途中で大広間の扉が開く


すると殿下達は徐々に青ざめて黙った

あんなに熱く語っていた殿下が一瞬で黙るとは…


殿下達のやりとりを観戦していた貴族達も扉の方向を見て固まっており、プライドが高い貴族が震え上がっていた


一体誰が……成程


そりゃそんな顔になるはずだ



「誰が何だってぇ?」



殿下達が今一番会いたくないであろう学園の恐怖の象徴が大広間にいらっしゃった

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