第29話 黒い狼
ディバイエン公爵令嬢から勧誘を受けてから数日が立ち、今日は課外授業で国の外に出ていた
そして今日まで毎日、公爵令嬢から勧誘を受けていた
公爵令嬢の執着が凄まじくて正直うんざりしている
今回の課外授業は普段別れている貴族と平民が同じく時間帯で受けており、授業中にまで絡んでくるかと思ったが、今の所そんな気配はなかった
さすがに他の貴族が見ている中で勧誘をするとは思わないが、あの公爵令嬢のことを考えると関係なしに来そうだ
ちゃんと授業に集中していてくれればいいけど
学園の課外授業は国の外へ出て行い、貴族は魔物や魔獣を狩ったりするのが主な内容になり平民は薬草などを調べて採取することが目的であったりする
そこで男の貴族連中がいいところをアピールしようとしてよく暴走するので外部から護衛として冒険者を雇ったりしている
別に課外授業で平民が魔物や魔獣を狩ってはいけないと言われているわけではないが、変に目立って貴族の反感を買うことがあるので貴族と争わない原因を作らないために地味な作業をしている者が大半になるが
平民の中にも狩に行っている奴は少なからずいた
素材が金になるからな
…そんな感じで授業を受けている
課外授業ということもあり公爵令嬢様は真面目に狩りを行っているみたいだ
公爵令嬢のことを気にしすぎてもよくないので、こっちも授業に集中することにした
周りがグループを作っている中、俺は特に親しい友人もいないから一人で目立たないところで薬草を中心に毟っていた
そしたら背後の茂みから異様な気配を放つ何かが近づいてきているのに気が付いた
それが危険な魔物であれば冒険者が気づいてこっちに向かってくるはずだから、あまり気にせずに薬草を毟り続けていたのだが…背後に現れたのは黒い狼だった
その正体がわかると無意識にため息が出る
「やぁ、昨日ぶり
また会いに来たよ」
「どいつもこいつも…毎日毎日会いに来なくていいんだよ」
「そう邪険にしないでくれたまえ
君と話をしたくて来ているのだから、僕の唯一の楽しみを奪うようなことはしないでおくれ」
「それが真っ黒の喋る狼ってのはどうなんだよ」
「君が望むのなら僕は人型になってもいいんだよ?」
「お前は直ぐにふざけるから却下」
「ふざけてなんていないさ 僕はいたってまじめだよ」
「俺をからかって楽しんでいるのもふざけていないと?」
「毎日見ていて楽しいよ」
「俺には楽しい要素が全くわからん」
このクソ狼何しにきやがった
今は一人だからいいものを
他の奴に見られたら狼と喋っている変な奴だと思われるじゃねぇか
「で?今日は俺に何の用だよ」
「別に用はないんだけどね」
「なら帰れ」
「そんな冷たいことを言わないでくれ
ただ、ここ数日間の君は面白かったから感想を言おうと思っていただけなんだから」
「いらん!帰れ」
「実に面白かったよ
君があんなに困っているところを見るのは久しぶりだからね
さすがの君も女の子に弱いってことがわかったよ」
コイツふざけやがって
人が困っているところを見て楽しんでやがる
何より一番腹立つのはこの状況を作った公爵令嬢様だよ
「…ったく、公爵令嬢も何で俺なんかを勧誘してどうすんだよ!
コイツに笑いのネタを提供するだけじゃねぇか」
「……勧誘?」
「だってそうだろ?
何の取り柄もない平民なんだぞ?
勧誘しても何も良いことなんて無い」
「いや…アレは勧誘というよりも求婚に近かった気がするけどね」
「……何を言っているんだお前は」
「どう見てもアレは素直になれない娘が見栄を張って無理やり自分のモノにしようとしている光景だったよ」
ハハハッ、この獣は何を言っているんだ?
そんな事がある訳がないだろう
何の魅力もない平民を傍に置いても他の貴族から変な目で見られるだけでアクセサリーにもならない
自分にも危険が伴う事を公爵令嬢が良くても公爵家当主が絶対に許さないし、身分違いの恋なんて今どき流行らない
「ハッ!ありえないね」
「そうかい?十分ありえる話だと思うけどね」
「お前の言うことはいつもわけわからんことを言ってるから信用に値しない」
「僕はいつも正直に言っているよ」
「どうだか」
確かにコイツはいつも俺と話すときに適当なことを言っているように聞こえる時も、本心で物事を言う奴だ
ただ正直に思っていることを言い過ぎて俺を毎回イラつかせるのはどうかと思うが
「まぁ…なんて言うか、君の今の状況は何だか乙女ゲームみたいだよね
身分の違いに苦しみながらも好きな人と結ばれるために苦難を乗り越えるみたいなさ」
「おとめげーむ…って何だよ」
コイツは時々、訳のわからないことを言うな
「簡単に言うと君と公爵令嬢が恋する物語さ」
「ありえねぇって話をさっきしただろうが」
「なら君と公爵令嬢じゃなくても、そういう物語を展開させてくれる人物はいるだろう
例えば王子様が婚約者とは別の令嬢に恋をして、それに嫉妬した婚約者が王子様の想い人を虐めたりとかね」
「はぁ…公爵令嬢は誰かを虐めるって人じゃないぞ
実際に話してみた感じ、殿下に近寄る令嬢に嫉妬しているというよりも、殿下に興味ないって反応だったからな」
「僕は公爵令嬢がそんなことをするとは言っていないけどね
実際にそんなことが起きていたのなら、それは殿下様が攻略対象ではないってことなんだろうね
君が主人公の攻略対象で、君に恋をしている誰かに公爵令嬢が嫉妬して虐めるんじゃないかな」
「それは一番ありえないだろ」
俺は脇役でしかないから、俺に恋する奴なんている筈がない
平凡な人間には一人が似合う
「…そもそもなんでこんな話をしてんだ?」
「アレを見て思ったんだよ」
コイツが見ている方に視線を向けると、その先にはフリード殿下と普段一緒にいる友人連中と一人の女性がいた
こっちには気づいていないようで和気あいあいとして奥の方に進んでいる
魔物を狩っていいところを見せてキャーキャー言われたいんだろうか
「アレが何だって?」
「逆ハーレムを築いているなと…」
逆ハーレム…ね
あそこにいるのはフリード殿下と侯爵家の次期当主ダニエルに騎士団団長の息子ルシアン、魔法省長官の息子のクリストフ…か
地位の高い上級貴族様があんな奥まで行って大丈夫か?
それであの真ん中にいる女は誰だ?
「…………」
「何だい?もしかしてうらやましいのかい?」
「何で?」
「そういう風に見えたからだよ」
「そんなわけないだろ」
「だろうね」
アレを羨ましいと思う?
ハッ!ないない
「……フッ 何か面白いことが起きる予感」
「何だって?」
「何でもないよ」
確実に何かボソッと言った気がするが…いいや
どうせくだらないことを考えていたんだろう
「…そろそろ課外授業も終わる時間だし戻る」
「もうそんな時間かい?僕はもっとお話をしていたかったんだがね」
「お前との会話は疲れるから嫌だ」
「それは残念だ
じゃあ僕は君の日常生活でも観察をして楽しむとするよ」
「…勝手にしろ」
「勝手にさせてもらうよ
何やら面白いことが起きそうなのでね」
その言葉を最後に黒い狼は黒い霧となって消えた
「何が面白いことが起きそうなんだか」
アイツがそう言うと大抵碌なことがないが何が面白いことなのかもわからない
気にしても仕方がないと思い何も警戒せずに普通鵜の生活を送った
アイツの言う面白いことがわかったのはそれから数日後の学園の大広間での事だった
「貴様に決闘を申し込む!!」
何故かフリード殿下に決闘を申し込まれた
…何で?
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