2章

第28話 公爵令嬢の勧誘

この何の変哲もないつまらない人生がたった一つの出来事によって変貌したらどうなるのだろうか


例えば勇者に選ばれて世界を救う事になる


勇者の仲間になって人々から称賛される


王国の美しい姫と結婚して幸せに過ごす


美女に囲まれてハーレムを作る


世界最強の力を手に入れる


英雄希望なら男ならば憧れる話だろう


だがそういった人生を送るのは選ばれし者たちだ


物語で言う主人公にならなければならないが、主人公にならなくても物語の中で役割があれば何でもいい


物語の中で選ばれ、役割を得た者が充実した人生を送る事ができる


しかしそうでない者も当然いるわけだ


物語の重要性の低い者、端役、特徴の無い存在、その他大勢である者たちが物語の世界で大半を占める


普通の生活を送り、普通に結婚して、普通に生涯を終える


それが選ばれなかった者たちの唯一幸せに生きることができる方法


今の暮らしよりもいい暮らしをしたい、そんな欲を持てばその先には破滅しか待っていない


だから脇役はわき役らしくしていれば何も問題はなく、充実した人生を送ることができる


騎士になるため、魔術師になるため、そんな大それた目標を持つ事は良いことだと思う


しかし才能のないものは結局挫折をして普通に生きていくしかない


なら最初から高い目標なんていらない


普通が一番なのだ


何故こう言う話をしてるかって? それは…



「貴方、私のモノになりなさい」



何故か公爵令嬢に勧誘をされていたからだ


ここは平民や貴族が通う学園


平民と貴族で建物は別れているが、学ぶことは同じ


学問、剣術、魔法や生活に役立つようなことを学んだりする場所だ


その他にも交友関係を深めることもあるとは思う


だが平民と貴族とは上下関係みたいなものが存在するわけだ


貴族は平民を見下しているし平民は貴族に逆らわない


そんなありきたりな関係がここでも同じようにあるのだが


今ここにいる場所は学園の貴族たちが昼休みに談笑したりする所…


そんな貴族様方のお気に入りの場所に公爵令嬢から呼び出されたと思ったらコレだ



「…何故、貴族位ではない自分なんです?」


「? 貴方は男爵ではなくて?」


「訳あって縁を切っています

なので自分は貴族ではなく平民ですよ」


「あら、そうなのね」



カロン・ディヴァイエン公爵令嬢


学園内で1、2位を争う秀才、運動神経も抜群、魔法の才もある正に非の打ち所がない貴族の中の貴族


婚約者がいて自分以外の異性と楽しそうに話していると睨んでくる嫉妬深いご令嬢と何処かで聞いた覚えがある


…そんな公爵令状が何故俺を?



「ディヴァイエン様」


「カロン」


「?」


「カロンとお呼びなさい」


「呼べる訳がないでしょう」


「あら残念」


「そもそもディヴァイエン様は婚約者がいますよね

こんな所で婚約者以外の男と会ってはいけないでしょう」



公爵令嬢の婚約者とは

国の第3王子のフリード・イクセル殿下


物語の主人公みたいなオーラを放っているイケメン


そのアマイマスクで数々の女性の心を無意識に奪っている男からしたら質の悪い人物


友人関係もイケメンばかりで正に神に選ばれたって感じだ


確かディバイエン公爵令嬢の婚約者で王位継承権を持っていて第1、第2王子と王位を争っている筈


今は別のことに夢中みたいだけど


「……フリード様のことね

彼のことはもう良いのよ

彼は私を全く見ていないのだから」



あれ?公爵令嬢は嫉妬深いと聞いていたけど


案外そうでもないのか?



「…何かあったので?」


「えぇ…ありましたよ

貴方は何があったのかご存じないみたいだけどね」


「はい、ご存じないです」



この反応…最初からそんなに乗り気ではなかった?


ディヴァイエン公爵令嬢とフリード殿下の婚約は外から見れば美男美女の組み合わせだけど、本人たちからすれば親が勝手に決めた結婚相手で、仲睦まじいというのは噂でしかないのか?


公爵令嬢の殿下に対する反応が無に等しいということはそういうことなんだろう


しかしだからって貴族様が平民に「私のモノになりなさい」とか言っちゃいけないだろ


周りから変な目で見られても知らないぞ



「…私が平民と話をするのが不思議?」


「そりゃあいつもの光景を見ていれば不思議ですよ」


「…貴族が平民を見下していることね

アレは良くないわよね

同じ学校に通っているのだから家族とか平民とか関係なく仲良くすれば良いのに」


「家柄関係なく仲良くするなんて言うだけなら簡単なことですが、貴族から見れば平民は全員が劣等種

貴族と平民が手を取り合うなんて貴族からしたら反吐が出ることです

選民思想が薄い貴族でも、平民というだけで薄汚い襤褸雑巾と同じ様に見ることは貴族であれば皆同じ反応をする

貴族と平民がわかり合うことなど絶対にありえないのですよ

ディバイエン様もそのような教育を受けてきたのならわかるでしょう

俺も元は貴族ですから、貴族の平民に対する扱いを嫌でも見てきたのでわかるのですよ

ディバイエン様は爵位を捨て、下等の存在である平民になった俺を公爵令嬢様は受け入れられますか?」



貴族にとって平民は溝鼠と同じ存在だ


どんな偉業を成し遂げ、功績を上げようとも平民であるという理由だけで忌み嫌われる


貴族であればそんな扱いをされずに済むのだが、俺は訳あって貴族位を捨て、貴族が嫌う平民に自分から進んでなった


俺が元貴族であることは学園に通う奴らは知らない


だから俺も入学当初から貴族から平民と同じ扱いを受けてきた


それでも貴族位を捨てたことには後悔は微塵もなく、貴族から迫害を受けることは何も感じなかった


まさか呼び出されるとは思わなかったけど…


公爵家の人間だし、平民の俺を勧誘していたなんて知れ渡れば頭首の耳に入ったり、学園内で噂な成ったりしては今後の人生に大きく響くだろう


だからここは大人しく引いて無かったことにするのが一番いいんだけど



「…受け入れるよ

それだけの価値が貴方にはあるし

この選択が間違っていたとしても私には失うものなんてないから」



本当に何があったんだよ


ここまでくると逆に怖くなってくる


そこまでして手に入れたくなるようなことをした覚えが全くないし、公約令嬢とは今日この日まで全くかかわりが無い


成績だって中の下だし、剣術も魔法も好成績を出したことはない


目的がわからない以上、首を縦に振るわけにはいかない



「…それでもやめた方が良いですって

ディバイエン様が何の目的で俺を勧誘しているのかは分かりませんが、平民と仲良くして良いことはないですよ」


「私の目的?

優秀な人材を勧誘しているだけよ」


「俺が優秀なわけないでしょ」


「…ん? そう?

ふーん そっか…ならそういうことにしておこう」



何か変に一人で納得したな


俺が優秀かどうかくらい成績を見ればわかることだろうに…何で呼び出してまで俺を惜しがるんだろう


貴族の考えることはわからないな



「セン元準男爵」


「はい?」


「覚えておきなさい 貴方が何をしようと必ず貴方は私の者になる」


「あ?」


「じゃあ また後でね」


「…………」



…何あの笑顔…怖っ


それに最後に変なことを言いやがった


後でね…ってなんだよ 後も何もねぇよ


なんで俺なんだよ


俺よりも優秀な奴なんていっぱいいるだろうに


フリード殿下の友人とかさ!


何でそこまで執着してくるんだ


と言ってもあの様子じゃあ俺がディバイエン様の物になるまで諦めることはしないだろう


やれやれ 面倒なやつに目を着けられたもんだ


何でこんなことになったんだか…

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