第27話 強化

ローナ視点


ワーウルフとの激闘で私の身体はボロボロだった


辛うじて勝ちはしたが負けていたかもしれなかった


ワーウルフとの戦闘を終えた後、満身創痍の状態から治癒に時間がかかってしまい

長い時間眠ってしまっていた


自身に治癒魔法をかけようにも魔力の流れがぐちゃぐちゃになっていて思うように回復していかなかった


外部から魔法を掛けられている感覚もあったが、魔力の流れが安定せずに治癒が体に行き届いてはいなかった


分かりやすく例えると、何本もの紐が絡み合っている感じ


安定させるには紐を一本一本、丁寧に解いていくしか無い


時間をかけて解いていくと魔力が身体中に行き届き、傷だらけの身体が治癒魔法によって癒やされていった


そして身体を治す事に集中する為に眠った


体が完全に癒え、神官ちゃんが安堵したような表情をして泣いていた


本当にこの子はいい子だ



「…ローナさん…ご無事で…本当に良かったです」



神官ちゃんが疲弊している姿を見るに、この子が私に外部から治癒魔法を掛けていてくれたのだろう


でも私の魔力の流れが不安定で治癒魔法が行き届かず、不安になっていたと思う


私も自分に治癒魔法を掛けても一向に治癒されなくて焦っていたから、私が無事に回復した姿を見て泣くほど安心したのだろう



「…付きっきりで看病をしてくれていたんだね

ありがとう神官ちゃん

もう大丈…」


「? ローナさん?」


「うっ…おげぇぇぇぇぇえ!!」


「ローナさん!!」



やっば…何これ


頭が…割れそう


気持ち悪い、吐きそう…ていうかまた吐く


間近にいる生物の気配に敏感になり、全身に無数の針を突きつけられているような感覚に目の前がぐるぐると視点が変わってふらつく


それに周囲にいる者たちの姿が二重に見えて、次にどんな動きをするかがわかって、未来を見ているような感覚になってる


慣れない感覚に耐えきれずに脳が拒否して破裂しそう


変わったのはそれだけじゃない


触覚、嗅覚、視覚、聴覚が強化され、魔力が大幅に増えていることがわかる


強大な力に身体が拒否していた


コップに水を無理やり注がれて許容量を超えて収まりきれずに溢れている感じ


魔力が急激に増えると気持ち悪くなるなんて聞いてない


〈身体強化〉を使っている時とは訳が違う


師匠は何でこうなる事を教えてくれなかったの?


ここに痕跡があるって事は一度私の様子を見に来ている


それなら私がこうなる事は師匠ならわかっていた筈だ


でも師匠は私が目覚める前にここから離れている


自分のことは自分でどうにかしろってこと?


それとも既に教えられていた?


でもそんな事を教えられた記憶がない


……俺の背中を見て学べ…なんて事は流石にないよね…


うーん…考えてもわからない


もしかして……師匠もこんな感じになった事があるのだろうか


普段の師匠は魔力を消しているからわからない


あの仮面が効果を発しているのか、そのせいでこの国に入った時に相手の実力を測れないバカが師匠に喧嘩を売る奴が多かった


その時は命知らずだなぁ…って思っていただけだったけど…


そもそも魔力を消すって何?


私にあれと同じ事をやれと?


そんな神業に等しいことが私に出来るわけないでしょ!


そんなの空を掴めって言っているようなもんでしょ!


気配を消すのとは訳が違う!


この原因があるとして思い当たるのはワーウルフとの戦闘の時だ


確かにあの時に開けてはいけない何かをこじ開けたような感覚はあった!


あれが何だったのかはわからないけど


両目を穿り出したい、頭蓋骨をかち割って脳を取り替えたい!


こんな感覚になるなんて普通思う?


普通は思わないでしょ!


…もしかしたら師匠も私がこうなると予想できなかった…なんてことも可能性もなくはない


師匠が何も教えなかったってことは私が予想外のことをしたって事、それなら



「ローナさん…大丈夫ですか?」


「うん…ごめん

恥ずかしい姿を見せたね」


「いえ…」


「…神官ちゃん ここに師匠がいたよね?」


「ふぇ!?」


「どこ行ったの?」


「わかりません

ただ…何か別で何かやる事があるみたいです」



やることって何よ!



「…そっか…その時に何か言ってた?」


「……えっと レティシア様の元へ行くようにと仰っていました」


「…賢者が言ってた魔王を倒せなかった勇者の仲間?」


「…まぁ…そうですね」


「……他には?」


「一緒にいるとローナさんの為にならないとも」


「それだけ?」



何それ…何が為にならないのよ


私のこの状況を知っていて言っているの?


もしかして知らない?


師匠に限ってそんな事はないよね?


うぅ…気持ち悪い


何とかしないとまた吐いちゃう


取り敢えず師匠に習った事を片っ端から実践していった


色々やって最後に魔力をできるだけ小さくして身体全体に纏ったら少しは楽になった


ふぅ…だいぶマシにはなったけど…体の調子は最悪


早く対策をしないとワーウルフと同じレベルの敵が来た時には確実に負けてしまう


師匠め…こんな状態で置いていきやがって…


スパルタが過ぎるでしょうが!


はぁ…本人がいないところで文句を言ってもしょうがない


師匠がレティシアの所へ行けと言ってるのなら従うけど…



「レティシアのところに行けって言ったって…どこにいるかわからないんだけど?」


「師匠さんは知ってそうな人がいたと仰っていましたが…

ローナさん知らないのですか?」


「知ってそうな人?そんな人いたっけ?

師匠が会った人で知ってそうなのは…」



この国に初めて師匠が来てあった人と言えば


勇者とその仲間、ギルドの受付の人に、ギルドマスターとS級冒険者、後は喧嘩を売ってきたバカたち


それと…



「あぁ…メイ姉か」



師匠と一瞬即発だったメイ姉がレティシアの場所を知っていると?


メイ姉は教会の信者ではあるけど…レティシアの場所まで知っているとは思わなかったけど


師匠の言う事だし…


従わずに間違ってぶん殴られるよりかは従って師匠が間違っていたら煽ればいいだけの話


ここは素直に師匠の言うことに従っておこう



「うーん、師匠が言うならメイ姉に聞くか」


「そうですね ご一緒します」


「ん?神官ちゃんは勇者の所に戻らないの?」


「辞めてきたので大丈夫です」


「へ?」


「勇者様ともキチンとお話をしてきました」


「…神官ちゃんがいいならそれでいいけどさ」



私の知らないところで色々あったらしい


何があったかは面倒だから聞かないけど


私が寝ている間に師匠と何かあったのだろうね


どうなろうが私には関係のない話


私が何を言おうと神官ちゃんの決意は変わらない


そんなこんなで神官ちゃんは勇者パーティを辞めて私と[聖女]レティシア・フローレンの元へ向かうことにした


最後に一言だけ言ってやる


師匠のバーカ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る