第26話 確認

ローナと別れた後


どっかの建物の中の薄暗い場所にある直ぐにでも崩れ落ちそうな店に訪れていた


何の店かさっぱりわからないが、それでもここに来たのには理由があった


仮面を外し古びた扉を開けて店内に入ると



「いらっしゃい」



奥にはカウンターの上に両足を乗せてタバコを吸って退屈そうにしている店員がいた



「…久しぶりだな」


「ん?…あらら

これはこれは死人がいらっしゃった」


「……どいつもこいつも勝手に殺すんじゃねぇよ」


「何を言っているんだか

アレは誰がどう見ても死んだと思うでしょうよ」


「何だよ そんなに死んでいて欲しかったのか?」


「ん~? 別に? 良く生きていたなって思っていただけだよ?

…フフッ 本当によく生きていたね」


「……流石にアレは死ぬかと思ったよ」


「……だろうね

それで?生きていか事は喜ばしい事だけどさ

エル君がここに来るなんて珍しいじゃないか

…何か用かい?

用もなく会いに来るって性格じゃないし、なんかあんだろう?

久々の再会だし?もっと無駄話をしていたいけどさ」


「俺がここに来る心当たりがあるのか?」


「…君の顔を見たら先に面倒ごとを済ませた後の方が良さそうだと思ってね」


「……やっぱりお前か」


「んー? 何のことだかさっぱりだね」


「シシリーに口止めをしたのお前だろ

ってかそんな事ができるのはお前しかありえねえ」


「ヒヒッ…ヒヒヒッ!

嘘!何で分かったの!!

…は言わないでおくよ」


「…腹立つな

そもそもあのワーウルフを見た瞬間に分かったわ!」


「あら?」


「どう見てもあれは魔王の手の者じゃねぇ

お前の駒だろ?」


「ハハッ!さすがエルくん!

よくご存じでいらっしゃる」


「ったく シシリーを巻き込んでまで何を考えてんだ」


「面白いことが起きないかなと思って」


「シシリーを巻き込んでまでやることじゃないだろーが」


「いつお気づきに?」


「尋問した魔族が俺の知らない魔王の名前を言った時」


「魔族? …あぁアレか」


「いくら何でもアレはやりすぎだ

下手をすれば全員死んでいたぞ」


「それはそれで別にいいと思っていたよ

だってその方が面白いだろう?」


「お前…勇者を殺すつもりだったのか?」


「何でそう思った?」


「そのつもりが無ければシシリーに口止めをする必要がない

勇者は聖剣を抜いた後、その処理の仕方を知らなかったし、聖剣を抜きに行けと言ったシシリーがそこにワーウルフが封印されていることを言わなかったのも問題だろ」


「そりゃあそうだ」


「ただの[スタンピード]ならあの勇者でも問題はなかったが

あの場にローナがいなければ[スタンピード]に参加していた勇者を含め冒険者全員がワーウルフに殺されていたからな」


「あぁ、あの子か

強かったね」


「…今回のは面白いだけでやっていいことではないだろ」


「……わかってないなぁ

アレと同じ事を繰り返さないためにやっているんじゃあないか」


「何?」


「弱い勇者なんていらない

生きているだけで無駄

勇者というだけで天狗になっている奴なんて汚物でしかない

勇者として価値がないなら殺してしまった方が勇者のためだろ」


「殺さない選択はないのか」


「ハッ!あるわけないだろう?

死ぬのが嫌なら文句を言われなくなる程に強くなるか勇者を辞めてしまえばいい

簡単な事さ

君もわかっているだろう?

[勇者]の称号を持つ奴はごまんといるが

[勇者]は彼以外にあり得ない

彼以外の[勇者]なんて称号を持っているだけの塵芥

多くの[神]が認めようが我々は認めない

[神]が絶対的な存在なんて時代は終わったんだよ」


「……」


「だから殺す」


「…そうか

これ以上何言っても変わらなさそうだな」


「納得してもらえてよかったよ」


「納得したわけじゃねぇよ

だけどまぁ…うん

もういいや…俺はもう行く」


「何だ もう帰っちゃうのか

もっと話をしたいかったのに」


「そんな時間はない」


「ふーん…じゃあ最後に知っておいてほしいことが一つ」


「ん?」


「近いうちに別世界から来客がある」


「ふーん」


「……あまり興味ない?」


「だって俺には関係のないことだし、お前だって興味ないだろ?

[内側]で起きることなんて俺らにはどうでもいい事だ

それに俺はもう疲れた

戦いの無い普通の生活をして自由に生きて残りの人生を有意義に使って過ごしていきたい

これから先どんな奴が現れようと俺にはもう戦う理由が無い

だから興味もないし、関係のない話だ」


「ジジイみたいな願望だな

でも……ふーん そっか

それならエル君の過去の敵が別世界に転生して別世界から[勇者召喚]されたとしてもどうでもいいってことか」


「……まぁ そうだな」


「そっかそっか

エル君にとっては[召喚]された奴も[転生者]も関係ない

この世界に来た時に[神]から[ギフト]を授かって来た奴のことなんてどうでもいいし、周囲に漂う魔力の流れがおかしくなって、こことは違うどっかの世界と繋がっても関係ない」


「…ん?」


「全ては[内側]で起きている事で[外側]には関係の無い話

[内側]にいる彼らが一致団結して[外側]にいる者たちに牙を剥こうとして下剋上を狙っている事なんて問題なし」


「…なんて?」


「うんうん そうだよね

エル君には関係のない話だよね

どうでもいいよね

そして[内側]にいる彼らが狙っているものが、我々にとって絶対に触れてはいけないものとわかっていても知らないふりをするよね」


「はぁ!?」


「それが破滅に繋がるとしてもその道を選んだのは自分自身なのだから

どんな結果になろうとどうでもいいって事だね」


「まてまてまてまてまて!!」


「どうしたんだいエル君?」


「下剋上!?何だそれ!」


「そのままの意味だよ

どこで[外側]の事を知ったのかは知らないけど、[内側]の権力者たちは我々に楯突こうとしているらしいよ

何でそんな事をしようと思ったのかね

でもエル君には関係のない話か」


「……本気か?」


「[勇者召喚]をしようとしている時点で本気なんじゃないかな?

勇者たちを使えばアレが取れると思っちゃってるんでしょ」


「……こっちに[召喚]された程度の勇者がアレを本気で取れると?」


「そうは思わないけどさ

でも勝算が無いならそんな事やる?

何かあると思わない?」


「何かって…何?」


「知らないよ

そう言った対処はエル君の仕事でしょ?」


「いやいや、[内側]で起きる事なんて知らないし」


「そうも言ってられんでしょうよ

実際にそういうクソみたいな事が起きようとしているんだからさ」


「……チッ」


「それにさ

エル君が動かないとアノ人が動くとは思えないけど……何をするのかわからないしね」


「……」


「確かに誰もがあの時の戦いでエル君は死んだと思ったよ?

その後にエル君が自分で治療をして[認識阻害の仮面]をつけていたから誰もエル君が生きていると気づかなかったのだと思うけど…

でもさ?アノ人はエル君が生きてる事は気づいてるんじゃないかな」


「……そんなバカな」


「いやいやいや

アノ人の性格上、エル君が死んだらどうするかなんて自分でも想像できるでしょうよ

でもそうしなかったって事は…恐ろしいね」


「うっ…」


「それにアノ人のエル君に対する愛の重さはエル君が一番よくわかってるでしょ?」


「……やめろ」


「冗談抜きにして正直に言うよ

アノ人のエル君に対する愛は異常だ

エル君への執着は…想像するだけで震えが止まらないな

兎に角…アノ人が何かしたら止めることができるのはエル君だけなわけ」


「やめてくれ」


「だからね?我々は何もできないけど…その…頑張って?」


「………頼むから俺を自由にしてくれ!」


「アノ人がいる限り……無理だね」


「うおぉぉぉぉぉ!!」


「泣いたって状況は変わんねーよ

因みに情報源はシシリーちゃんだよ」


「あのポンコツ女神がーー!!」



俺が自由になる日はまだまだ遠い未来の話みたいだった

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