第25話 別れ
一仕事を終えてローナのところに行くと、ワーウルフとの死闘を終えたであろうローナは普通に寝ていた
ボロボロだ
そんなに相手が強かったのか
実際に見ていないからわからないが、相当疲れたのか俺が近くにいても起きる気配はない
爆睡している
こんなところで寝てたら風邪を引くぞ?
と思ったら直ぐ側で神官もその近くで眠っていた
神官の周りに
こんなに必要になる程に危険な状態だったのか?
これを見たらさすがに起こすのも悪い
ローナの側で疲れて眠っている神官に治癒魔法をかけてローナの近くに座った
[スタンピード]も直ぐに終わりそうだ
このままここにいても問題はないだろう
安心してゆっくり休め
神官が起きたのはそれから一時間後だった
「…ん あれ?師匠さん?」
「おはよう 調子はどうだ?」
「……悪くはないですが」
「そうか…ならよかった」
「師匠さん ローナさんを置いてどこにいっていたのですか?」
「…どうしても確認しておきたいことがあった
「……それはローナさんの命よりも大事なことですか?」
怒りと苛立ちを含んだ声に辺りの空気がピリつくが神官の俺に向けている殺気は子猫が威嚇しているようなもので対して気にもならない
しかしローナの命よりも大事なことかと問われれば少し悩むところで、ローナの傷だらけの姿を見ると少し心が痛んだりする
それでも確認をしておかなければならないほどに重要なことだったし、何度か助けに行こうとした
まさかここまで相手がローナをここまで追い詰めるとは思わなかった
だから神官が殺気を飛ばしてくる理由もわかるが
「そりゃあローナの命の方が大事だ」
「それなら!」
「それでも俺はローナのところに行くつもりはなかった」
「……はい?」
訳がわからないという顔をしている
これは1から言わないダメか?
「今回の[スタンピード]は本来ならローナではなく勇者が対処しなければいけなかった
事前に女神から聞いていたんだから当然だろ?」
だが勇者は何をしていた?
何故ローナが対処をしていた?
何故勇者ではなくローナがこんなにボロボロになるまで戦っていたんだ?」
「…それは」
「十中八九、ローナが相手を見て勇者では勝てないと判断したからなんだろうけどな」
「………」
「因みにローナが相手をしたワーウルフだけど魔王に関係している奴だった」
「え?」
「近くにいた魔人に聞いたから間違いない」
上空で高みの見物を決め込んでいた魔人を見つけたので知っている情報を全て吐かせた
どんな方法で吐かせたかは想像にお任せする
「あのワーウルフが…魔王の?」
「だから何だって話だけどな
それがわかっていたとしても戦っていたのは勇者ではなくローナだっただろう」
「……」
黙っちゃったよ
まぁ、結果的に勇者は敵から逃げたってことになるし、魔王を倒して世界を平和にするという目標を掲げている勇者が強敵を他の者に任せるなんてあってはならない事だしな
その事実が世界に知れ渡れば勇者の経歴に傷がつく
そうなれば勇者であれ、世界を救うためと譲歩されていた事も無くなってしまうだろう
だからと言って何をするわけでもないけどな
幸いこのことを知っているのは俺と神官だし、神官が黙っていれば何の問題もない
いやどうなんだろう
「…この先」
「ん?」
「この先…魔王を倒すために努力したとして
私達はあのワーウルフと同じ強さの敵を倒すことはできるのでしょうか」
「……さぁな」
少し努力した程度で強くなれる筈がない
ローナだって少しの努力で強くなったわけではない
アイツは強くなりたいと本気で思い、それを本気で俺は答えた
何度も何度も死ぬ直前まで追い込み、「殺してください」と何度も俺に懇願しても追い込み続けた
廃人になる一歩手前まで追い込み、回復魔法をかけても疲労は残し、そしてまた死ぬ直前まで追い込み、回復魔法をかけての繰り返し行い、あいつは強くなったんだ
後はローナには内緒でちょっとした事をやった
「倒せるかどうかはお前ら次第じゃないか?」
「………そうですね」
「ただ 魔王を倒せたとしても世界が平和になるとは限らないけどな」
「どういうことですか?」
「そのままの意味だよ」
平和を望む奴からしたら想像できないことなんてないだろう
魔王を倒した後の方が平和なんて程遠いことになることは少し考えればわかるけど
今そんなことを言ってもしょうがないか
「いずれわかるよ」
お前たち勇者パーティーは魔王を倒す前の方が良かったなんて思わないよう頑張るしかないんだ
「まぁ せいぜいがんばれ
ローナは大丈夫そうだし、俺はもう行くわ
神官 ローナが目覚めたらレティのところに行けって言っておいて欲しい」
「はい?」
「レティの場所なら知ってそうなのがいたし、問題ないだろう」
誰かは言わないけどな
それくらいは自分で探してくれ
「ローナさんを置いて行かれるのですか?」
「あぁ」
「何故…」
「俺といたらローナのためにならないからだ」
ローナの一部分が変色した髪と安定した魔力
魔人を尋問していたせいでローナが戦っているところの全てを見ていたわけではないにしてもわかってしまった
そうか…突き破っちまったか
まだ先だと思っていたのになぁ
はぁ 何のためにアレをやっていたんだか
「だから頼んだ」
「理由になっていません」
「お前の知らない事が色々あるんだよ」
知らない方が良いこともな
「そうですか…それなら私がローナさんに同行します」
「は?」
「何も問題はありませんよ 勇者様にはキチンとお話をしてパーティーを抜けさせて頂きます」
何を言っているんだコイツは
「何バカなことを」
「何も聞くことはできませんよ
師匠さんは私にローナさんと別れる理由の説明を放棄しました
なので私は魔王を倒す前に勇者パーティーを抜け、ローナさんに同行する理由の説明を放棄させていただきます
師匠さんが説明してくださるのなら話しは別になりますが」
こいつ…
何を言ったところで説明をしない限り無駄なんだろうな
「好きにしろ」
「よろしいのですか?
私がローナさんに師匠さんが何故ローナさんと離れたのかを説明するときに謂れのない事を言うかもしれませんよ?」
「それを含めて好きにしろ」
「むっ そうですか わかりました」
「じゃあ俺は行く」
「どこに行くかは分かりませんがお気をつけて」
こいつも変わったな
元からこういう性格なのかもわからんが
自ら進んでローナに同行するのならそれでいい
俺は俺でやらなければならないことがあるのだから
神官にあとは任せてローナが寝ている間にその場を離れることにした
ローナが目覚めたのはそれから10分後だった
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