第24話 決着
ローナの魔法は森に一本の道を作り、〈炎〉を一点に集中して一方向に向けて放った魔法は〈炎〉というより〈光線〉に近く、ワーウルフの血肉の一つも残さずに周囲の木々と共に灰となって消えた
ワーウルフの体が消え去るとローナの赤黒い髪が元の茶色い髪へと戻り、その場に膝をついて項垂れる
「……はぁ…終わった ……つら
……うっ! おえぇぇぇ……」
勝利を確信すると張り詰めていた糸が切れ、一気に押し寄せてくる疲労がローナを襲いかかり、全身から汗が吹き出し滝のように地面に落ちた
視界は歪み、呼吸も思うようにできなくなり
猛烈な吐き気に襲われて、胃の中にあるものを全て地面に吐き出した
「ヒュー…ヒュー…グフッ…ゲホ
(やば…これ…私死んじゃうんじゃない?)」
ローナは今の状態をエルに見られたら死にたくなるほどに恥ずかしい状態だった
涙、汗、鼻水に涎が地面に落ち、水浴びをしてきたような状態で項垂れて嘔吐している姿は間違いなくローナが生きてきた人生の中で一番醜い姿をしており、回復しようにも気を保つことで精一杯であり、体を清める余力も今のローナには残っていなかった
「おい!大丈夫かよ!
ちょっと待ってろよ!?
全ての力を使い果たし気を失いそうになっているのをガイズが気付き、ローナに駆け寄って今現在[スタンピード]に参加している冒険者が
そこには後方で支援していたサラが負傷者の手当てをしているところだった
「ローナさん!!?」
「……あ…じんがんぢゃん」
「どうしたのですか!?
何があったらそんな姿に…直ぐに治癒魔法をかけますね!
!…凄い汗…
すみません!ここにタオルを多めに持ってきてください!!」
「……ごめんね ごんなぎだないずがだで」
「大丈夫です!大丈夫ですから
楽にしていてください」
「うん…あいがどう」
神官が治癒魔法をかけ始めるとローナの意識が遠のいていき、静かに眠る
そして神官はガイズに事の顛末を聞くことにした
「一体…何があったのですか?」
「……わからん」
「何故ですか?貴方は最初から見ていたのでしょう?」
「確かに俺も勇者も見ていた
…ローナ・エクシムが負けるはずだった戦いをな」
「…それはどういうことですか?」
「あの魔物…ワーウルフは強かった
俺と勇者が協力してもワーウルフには絶対に勝てなかっただろう
ローナ・エクシムが勝たなければ全員死んでいた」
「それ程に強い魔物だったのですか」
「あぁ」
「ローナさんがこんな姿になる程に…
……負けるはずだったというのは?」
「……悪いがあの戦いは俺に説明できない
何が起こったのか本当にわからなかった
あの時、ワーウルフに圧倒的な力の差を見せつけられ、遊ばれて、全身血だらけになりながら戦っていた
そして力を出し切ったローナ・エクシムがその場で立ち尽くし、それを見たワーウルフがトドメを刺そうとした
そしたら突然、ローナ・エクシムから赤黒いオーラが立ち上ってから髪の色も変わって豹変したんだ
ふっ…思い出すだけで震えが止まらん」
常識に考えて
そんなことなど不可能だが
ガイズの中であり得ないと思いつつも出した答えは
だが、それを説明しても信じる者はいない、あり得ない答えを出したガイズ自身でも信じられないのだから説明をするだけ無駄であり、ガイズは口を閉ざした
もしそれが可能であり、実行をしたのなら、その代償が莫大な物である事はローナを見たら一目瞭然であった
ローナが倒れた時に大量の
「赤黒いオーラ…髪の色が変わって豹変…
話を聞く限り勇者様の一時的な《レベル》の大幅な底上げとは違うみたいですね」
「確かにそれに近い気はするが
明らかにそれとは別物だと思う
アレは魔法と言うよりも…」
ガイズが何かを話そうとした時、巨大な衝突音が鳴り響く
その衝撃は辺りの魔物や冒険者を吹き飛ばす勢いだった
「何だ!何が起こった!!」
ガイズが外に出ると、魔物を狩っていた冒険者たちが動きを止めて全員が一方向を向いており、そこに視線を移す
すると冒険者たちが囲んでいる中心に地面が円形に窪んた穴ができていた
先ほどの衝撃音はコレだった
何かが上空から落ちてきたことは、見ていなくても誰もが理解できた
何が落ちてきたのかを知るために穴を覗くと、中心に人の形をした物が逆さになって埋まっていた
それが辛うじて人の形だとわかったのは、逆さになって出ているのが人の足であると認識できたからだった
「勇者 何が起きたか説明できるか?」
「できると思うか?」
「一応聞いてみただけだ」
「……見ての通り 上から何かが落ちてきた
ローナさんがワーウルフを倒して運ばれて行った後に俺たちは残りの魔物を討伐し続けていて、もう少しで終わる直前で
一瞬、上空で何かが光った
そしたら何かが落ちてきた
俺が言う事ができるのはそれだけだよ」
勇者が何を言っているのか直ぐに理解できず、勇者の説明が下手なのかと思い周囲を見渡せば他の冒険者たちが全員頷き、勇者の言っている事が本当に起こっていたようだった
ただ一つ疑問に思う事は何で上から落ちてきたのかがわからなかった
落ちてきた方向に視線を向ければ何もなく何の変哲もない空が広がっていた
「一体何が…」
その答えは直ぐにわかった
「あれ?何だよもう終わりかよ
暇潰しにもならなかったな」
誰一人気付くことはできなかった
気づいたら穴の中にローナと一緒にいた仮面の男がそこにいた
「もう少し楽しめると思ったけど
こんなもんか、もうコイツはいいや」
そして穴の中心に逆さに突き刺さっている人のようなものを燃やした
そして消えた
全員が見ていたが、気づいたら今度は周りを囲っていた冒険者の後ろにいた
気づいたらそこにいた反応すらできなかった
勇者、S級冒険者であるガイズ、そしてその他の冒険者が目で追うことすらできなかった
そして振り向いた時にはその姿はまた消えていた
その事実にその場にいる者たちは言葉を発することなくその場で立ち尽くしていた
「さてとローナは無事かな」
唖然としている冒険者を置いてエルはローナの元へと向かうのだった
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