第23話 ローナvsワーウルフ③

「………これはどういうことだよ」



ワーウルフは困惑していた


さっきまで戦うことを諦めて、死を待つだけだった女が手を掴み握りつぶそうとしてきているのに対して振りほどこうにも力が強すぎて離すことができず、いっそのこと腕を切り落とそうかと考えていたところでようやくワーウルフの腕をローナが放した



「なんて力だ 腕が千切られるかと思った」



ローナとの距離を取り、腕の確認をするとワーウルフの腕は折れてはいないが骨にヒビが入っていた


だが気にすべきことは腕よりも雰囲気がまるで別人となったローナであり、注意を向けていた



(………奴に何があった?)



確かにあの時、ローナは死を待つだけだった


だが突如、顔つきが変わりLVレベル差のあるワーウルフの腕にヒビを入れた


何度攻撃してもダメージを与えられていなかったワーウルフに初めてダメージを与えたのだ


何よりも変化があったのは、体の周りには赤黒いオーラが徐々に大きくなっていき…魔力が一気に上昇していることだった


髪の色も赤く染まっていき、顔についている血を両手で拭って、髪を血の付いた手でかき上げると鬼のような表情をしてワーウルフへ鋭い眼差しを向ける



(……私には才能がない これ以上鍛錬を続けても強くなれない そんなことはわかってんだ


ならなんで勝てるかわからない相手に挑んだ? 何で自分よりもはるかに格上とわかったら後悔しなかった?


勝てないと思ったら逃げればよかったでしょう 師匠に助けを求めればよかったでしょう


何で私はこんなに一方的にやられても攻撃をし続けた? 何で諦めたのにまたこうして相手の前に立っているの?


何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?………


死ぬ直前……最後に頭に浮かんだのは師匠だった


その時点でもう答えは出ているでしょう


私は師匠の後ろにいつまでも立っていたかった


この人のために生きていきたいと思った


一歩身を引いている私に師匠は嫌がっていたけど


私は師匠の後ろにいつまでも変わらずにいることが私の目標となった


でもその資格が私にはない そんなことはわかってる


ならどうする?





…………………………目の前のコイツを………………殺す





成長の限界?それがどうした そんなことどうでもいい


私はこれからも師匠の後ろにいるために戦う


そのために全てを捨て去ってでもこの望みをかなえて見せる)




すると上空でガラスが割れたような音が響き渡る




『ローナ・エクシムが[■■]へ進むための条件を満たしました


[■■]へ進むことができます


[■■]へ進みますか?』


(…? [■■]って何? 何これどういうこと?)


『[■■]へ進みますか?』


(………はい)


『[■■]へ進むことを選択されました ローナ・エクシムを次の段階へ移行します


[■■]へ進むことを選択されたことにより、ローナ・エクシムには[■■]への挑戦をすることができます


[■■]へ挑戦されますか?』


(…[■■]って何よ?


とりあいず……いいえ)


『これで以上になりますお疲れ様でした』





「(………今の何だったの? まぁいいわ)…〈回復ヒール〉」


(…………バカな 早すぎる)



傷だらけの体に〈回復ヒール〉を掛け、治癒を行う


その回復速度が尋常じゃないくらい早かった


本来の〈回復ヒール〉であれば、魔法をかけてから治癒を行うまでには多少の間が空く


魔法をかけて→必要な魔力を溜めて→発動して→治癒を行う


という順序で魔法が完成するわけなのだが、ローナが〈回復ヒール〉を掛けた時、順序を無視してすべてを同時に行っていたのだ


それだけではなく、時間をかけて徐々に回復していくのに対して、ローナの〈回復ヒール〉は瞬き一回の時間の間に治癒が完全に終えている


回復ヒール〉だけでもわかる魔法速度にワーウルフは震えた



(……体が軽い それに頭がスッキリしてる



周りもよく見えるし 魔力が体中に行きわたって、地がからだ中を駆け巡っている様子がよくわかる


体を動かすことに違和感がない レベルアップとはまた違う感覚


全てが見えるし、全てを感じる


あぁ…これが師匠の言っていたやつか 確かにこれじゃあ普通になんて生きられない)



「……どうやら俺様はとんでもないことをしてしまったらしいな」



ローナの変わり果てた姿にワーウルフはただ笑うしかなかった


本来ならあり得ない筈なのだが、│LV《レベル》差がある格下の相手に恐怖している


先程まで特に感じていなかった殺気に押し潰されそうになった


先に動かなければやられると思った時には遅かった



「〈火球〉」



ローナの放った魔法がワーウルフの体を撃ち抜き、ワーウルフが気づいた時には避ける暇もなく当たっていた


体勢が崩れると追撃を警戒してワーウルフも魔法を放つが、〈火球〉で相殺されると時間差で2発の〈火球〉を既に放っていた


この攻撃には少しも焦りを見せない、これは初手で使った先方と同じだったからだ



「同じ戦法を使うとは舐められたものだ!」



時間差で来た〈火球〉を難なく避ける ここまでは問題はなかった


後から来た2発目の〈火球〉を振り払った直後、ワーウルフの目の前にはローナがいた



「…………早すぎんだろ」


「〈身体部分強化〉+〈身体部分付与〉+〈振動・弱〉+〈魔法効果上昇〉=〈微震拳〉」


「〈身体強化硬化〉」



そして魔法によって強化されたローナの拳がワーウルフの鳩尾を貫く


魔法付与がされた拳に対して体を〈硬化〉させて防御を行ったが、全く意味を成さなかった


ワーウルフの〈硬化〉に対してただの〈身体強化〉のみの打撃であれば多少の衝撃には耐えられるため有効であったが、ローナの打撃には〈振動〉が付与されており、体の表面への衝撃は防げても〈振動〉により体の内部に衝撃が伝わる


ローナがとっさに思い付いたオリジナル〈微震拳〉


余りの威力に困惑して膝をつこうとしたところだが、その隙を狙い〈微震拳〉の連打を絶え間なく浴びせる



「ぐ…………ぐおぉぉ…〈幻獣烈…ブフッ! 」



止まらない連打にワーウルフは口内から放たれる魔法を放とうとするが、口を開けると下から突き上げるように顎を狙った強打で強制的に口を閉じられると首元への強打が入り、首の骨が外れ目線の先が真っ白になる


追い打ちをかけるようにローナの連打は止まらず、幾度か抵抗を試みるが何度もローナの体をすり抜ける



(マズい マズい マズい この俺様が何もできない 何もさせてもらえない


反撃をしても攻撃が当たらない 何度もすり抜ける


攻撃が当たらないような魔法でも使っているのか?でもそんな素振りはなかった

どういうことだ!どうなっている!


まさか…相手の動きが早すぎてすり抜けているように見えているのか?


いやありえん!こいつはさっきまで俺様に殺されかけていたやつだぞ?


それがどうして俺様が追い詰められているんだ!!


一体コイツに何があった!」



止まらぬ連打を浴び続けていると次第にワーウルフの反撃が少なくなっていく


そして先ほどとは反対に、今度はワーウルフの血が周辺への飛び散っていくと連打が一瞬止まる


ワーウルフがチャンスだと思った時には左側頭部へ上段蹴りが決まっていた


これには堪らず体ごと吹き飛ぶが、直ぐに体勢を立て直す すると



「〈火槍連弾〉」


「〈魔力障壁〉



回復する間もなく目線の先には上空に炎が覆いつくされていた


よく見れば上空を覆いつくしている炎は全てが無数の〈火炎槍〉なのだが、これほどの規模の大きい〈火炎槍〉はワーウルフも初見だった


そして〈火槍連弾〉がワーウルフに目掛けて放たれると辛うじて発動していた〈障壁〉によって防ぐことはできたが、全てを防ぐことができず左半身は焼け焦げていた


そして



「…っぐぅ! ……………くそっ」



右腕で左肩を抑えながら膝から崩れ落ち、更なる反撃を警戒しようと顔を上げたときには魔法を展開しているローナが真正面に立っていた



「…………最後に言い残すことは?」


「…………クククッ まさか今度は俺様が一方的にやられるとはな


どんな手品を使ったんだ?」


「…………別に何も


……ただあなたのおかげで私はまだまだ強くなれることがわかったから、感謝しているわ」


「………ククッ ハハハハハハハハッ!!!!


そうか俺様のおかげか!! どうやら手助けをしちまったってわけか!


ハハハハハッ!! …………殺せ 貴様に│られるのなら悔いはない


貴様と戦えて楽しかった 魔王によろしくな」


「私に魔王と戦う予定はないわよ」


「そうか そりゃあ残念だ」


「じゃあね 〈魔炎烈重砲〉」



ワーウルフは最後に満足げな表情をして、ローナの魔法により肉の一遍も残らず跡形もなく消し飛んだ


ローナが勝利したことにより[スタンピード]は終わった













ワーウルフとローナの死闘が繰り広げられていた上空にて



「うっそぉ……ジュダイさん負けちゃったよ……


あの人、魔王軍幹部だろ?魔王様に何て説明すればいいんだよ


だから人間は放っておいて魔王様のところに行こうって言ったのに……


それに何なのあの人間 あんなのがいるなんて聞いてないよ?


下手したら勇者よりも危険なんじゃないの?


ジュダイさんが殺されちゃったし、早く帰って魔王様に報告したほうがいいよねぇ」


「まだ大丈夫だろ」


「…………は?」

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