第20話 準備

ローナ視点


はぁ…師匠は相変わらず何を考えているのかわからない


私達は女神様からスタンピードの調査を依頼されて原因を探ろうとしたら、さっきの屈辱を晴らすために後ろから襲い掛かってきた神官を師匠が倒した後に話を聞いて調査をすることなく原因がわかってしまった


そしてスタンピードの対処を私に頼み、師匠はどっかに行ってしまった


丸投げをされてしまった


師匠の事だからスタンピードの他に何かあると判断したから別行動にしたのだろうけど…


流石に「原因が分かった!でもちょっと別の用があるから後は頼むわ!」はないと思う


それにね?詳しい内容の説明もなしに原因は聖剣を抜いた勇者と言われても誰も信じないと思う


その原因を作った女神様に言えば納得してくれるのかなぁ…



「どう思う?」


「何がです?」


「師匠の言っていた

スタンピードの原因は勇者が聖剣を抜いたからだって言って信じると思う?」


「信じられませんよ

聖剣を抜いただけでスタンピードが発生するなんて誰も思いません」


「だよねぇ」



やっぱり神官も信じられないみたい


それを数日前まで低ランクの冒険者だった私にそんなことを説明されても誰も信じないでしょ


勇者に勝ったとは言えね…私だって信じないと思う


はぁ…損な役回り



「でも説明して納得して貰うしかないよねぇ」


「で…できる限り私も協力しますから」


「信じてないのに?」


「もし本当に私たちが原因なら私たちが対処をする責任があります


原因が私たちではないにしろ、この街に迫りくる脅威を見過ごしたりはできません」



この子…いい子だ


師匠とのあの生活を思い出すと涙が出てくる


思い返せばあの一週間は本当に地獄だった


泣いても、喚いても、吐いても、漏らしても、気が狂いそうになっても容赦のない指導の日々


何度も弱音を吐いて逃げ出そうとした


師匠の足にしがみついて何度も「もうやめてくれ」と懇願しても届かず、むしろ笑っていた


何度頭がおかしくなりそうになったのか覚えていない

それほどきつかった


頭が真っ白になるようなことを繰り返し行い、あの地獄のような特訓の日々を耐えさせられた


あの日々を思い出すと神官の優しさが身にしみて涙が出そうになった



「うん じゃあ協力してもらおうかな」


「はい」



仲間にこんないい子がいるのならきっと勇者も悪い奴ではない筈、きっと私の対応が間違っていたんだ


反省しよう


そして出会った時のことは忘れて一生懸命説明をして協力をしてもらえるようにお願いしよう


そうすればきっと勇者たちとも分かり合える筈


私達は勇者がいる冒険者ギルドへ神官と一緒に向かったけど





…無理だった



「だから[スタンピード]の原因はあんたたちだから責任を持って私たちの協力をしろって言ってんのよ!!」


「そんなことを言われたって信じられるわけないだろう!!


俺たちは女神様から神託を受けて聖剣を取りに行ったんだ!


それが何で[スタンピード]の原因になるんだ!」


「私だって師匠に言われただけだから知るわけがないでしょう!!


師匠が今ならまだ間に合うって言ってんの!!


つべこべ言ってないで黙って協力をしやがれ!!」


「師匠師匠って…その君の師匠は今どこで何をやっているんだ!!


協力をしてもらいたいのなら本人が俺たちにお願いをすべきだろうが!!」


「何であんたたちが原因なのにこっちからお願いなんてしなきゃいけないのよ!!」


「俺たちが原因なのかどうかの証拠がないじゃないか!!」


「もーーーいい!!もう結構!!あんたたちがバカだってことはよく分かった!!


私が師匠に謝罪してくる!!


すいません私が無能なせいで協力を得られませんでした!


勇者たちが[スタンピード]が起こっても僕たちの責任ではありません!


僕たちは魔王を倒すために聖剣を取りに行っただけで、それによって犠牲が出ても仕方がないので、[スタンピード]が起きようが知ったことではありませんってね!!」



怒り狂ったローナはものすごい力でギルドの扉を閉めて破壊して出ていった



ローナが出ていった後 冒険者ギルド内


ローナが怒鳴り散らしている間、神官はどっちの味方をすればいいのかオロオロしており、ローナが出て行ったあとその後に続いて出て行った


ローナたちが出ていいた後、冒険者ギルドの中は静寂に包まれていた


怒り狂ったローナを見て食事をしていた者や酒を飲んでいた者は手を止め、談笑していた者は口が開かなくなっていた


そのローナの剣幕にその場にいたS級冒険者や様子を見に来たギルドマスターも固まっていた


暫くするとS級冒険者たちが立ち上がり、黙って外に出て行く


その後を中にいた冒険者全員がその後に続くように外へ出ていった


中に残ったのは勇者たちでだけであった


その中で賢者が口を開いた


「……どうするの?」


「…………」


「サナがあの女の後をついていっちゃったし


私たちも行った方がよくない?」


「…うん」



ようやく勇者たちもその後に続くように出ていった



あー腹が立つわ


何なの?あの勇者の態度


何様のつもりよ!


自分の非を認めないならまだしも協力を拒むなんて


神官ちゃんが良い子だからと言ってもその仲間が良い人なわけなかったわ


初対面でそれはわかっていたことなのに



「………ローナさん?」


「何?」


「本当にいいのですか?」


「もう知らんあんな奴!!」


「でも[スタンピード]ですよ? 人数が多い方が…」


「腰抜けに用はない!」



心配しなくても私が何とかするしかない


あー…神官ちゃんは私の事を心配してくれたんだ なんて優しい子


ギルド内でも私の味方をするか勇者の味方をするか迷っていたもんね


そんな神官ちゃんを好きになりそう 同性だけど癒される



そんなことよりも 本当にどうしよう


協力を得られなかったって師匠に報告をしないといけないけど


報告をするのが怖い


怒られるかな?怒られるよね


怖いなぁ


師匠に𠮟られるのを想像すると震える


憂鬱になりながら師匠を探しに行こうとしたら



「じゃあ今ここにいる奴らは腰抜けじゃないってことかな?」



振り返ればそこにはS級冒険者とギルドの中にいた冒険者が全員いた


その光景に私と神官は少しだけ感動していた


私のために協力してくれる人がこんなにいるのだと、私が感動しているように見えているだろう


でも私は師匠に怒られなくて済むと安堵し、内心「やったー!」と私は喜んでいた



「うん これなら何が起こっても問題ないと思うわ」


「ならよかった


それで?仮面の男はどうした?」


「師匠は別行動よ


何か他に気になることがあるみたいだから」



今現在、師匠から特に何もない


ということは[スタンピード]は私たちでは対処をしろということなのだろう


さて日没が近づいてきた 魔物が活発になってくる時間帯になる


神官ちゃんに案内されて聖剣が刺さっていたところに向かっていると、森の奥から獣や魔物の鳴き声が聞こえてくる


もう既に封印が解かれて魔物があふれ出しこちらに向かってきているのだろうと確信する



「…来たわね」


「…成程 この[スタンピード]はやばいな」


「そうね」



そしてぞろぞろと狂暴化した狼や熊、大蛇にそしてゴブリンにオークそして3体のトロールどれも高レベルな魔物がこっちに向かってきていた


でも一番警戒すべきは



「ガイズさんあなた方S級はトロールを任せてもいいかしら?」


「構わん 一体なら未だしもトロール3体となると俺らがやった方が確実だ


A級以下にはオークやゴブリンを任せておけばいい」


「そうね 私は一番奥のあいつをやるわ」


「一番奥?………ワーウルフ…で合ってるか?」


「ワーウルフで合ってるわよ


ただ…あれは普通のワーウルフじゃないわね


[スタンピード]の元凶…あれが聖剣で封印されていたってことかしら」



後ろで髪を束ねて髪留めで縛り、戦闘態勢に入ると一番後ろで異様なオーラを放つワーウルフをローナは見据えていた


口枷をつけて、鎧を着て片目に傷があるワーウルフ 明らかに普通じゃなかった


あれを倒すことがここでローナが師匠に与えられた使命なのだと判断した



「さぁ 始めましょうか」

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