第18話 女神様

「やめてぇぇぇぇえ!!


離してぇぇぇぇぇえ!!」



神官を引き摺りながら漸く教会に着いた


扉を蹴り飛ばして開けて、神官を放り投げる



「うえぇぇぇん ひどい、ひどいですぅ」



ピーピー泣く神官を放っておいて、祭壇に目を向ける



「………まだ微かにあるか


神官、いつまでも泣いてないでやれ」


「ふぇ?」


「神との交信だよ さっさとやれ」


「……わかりました」



神託を受ける時、神からの一方的に神託を受けるってわけでもないだろう


神と交信しやすい場所、教会で祈っている時か信者に取り憑いて自ら神託を告げるって感じか


そうこう考えていると神官が祭壇の前で両膝をつき、手を合わせて祈りを始める



(我が親愛なる神様


再び身分を弁えずに祈りを捧げることをお許しください


どうかどうか…この不届き者に鉄槌を)



何か今イラッとしたな


コイツ余計な事を祈ってるんじゃないだろうな



すると神官が祈り始めると同時に、教会に指す光が徐々に強くなっていき、ソレは現れた


光と共に現れたのはそこにいる誰もが見惚れ、考える事を忘れるほどに美しく高貴な存在は祭壇の上に彼女は降り立った


誰もが敬い、慕い、信仰される彼女は今日も迷える子羊に…



「やっぱりテメェか


久しぶりだなアホ女神」


「………」



劇場みたいな登場をしているところ悪いけど、お前のソレはもう飽きた


神官さん、コイツはそんなに目を輝かせる程の神じゃないんだよ



 『不届き者が


私の素晴らしい登場を邪魔しおって


誇り高い存在の神である私の……ん?』



何だよ そんなに見つめてくるな、照れるだろうが



『……アンタ…私の事をアホ女神って言った?』


「……」


『絶対に言ったよね?


何?神である私に喧嘩売ってるの?』


「まさか…誇り高き高貴な女神様にそのような無礼を働くなんてとてもとてと…」


『何か腹立つわね!


それに何よその仮面は!


かっこいいと思っているの?


いい?次私をバカにした発言をしたら…ん?』



また俺の顔を凝視してくるよ


何なのこの女神



「……何あれ」



後ろから声がすると思ったらローナたちがいま到着したらしい


遅過ぎないか?何をやってたんだ



『……アンタの声…どっかで


ちょっと仮面を外してくれる?』


「………」


「師匠、ダメだよ?」



何かを察したのか仮面を外そうとするとローナが何故か止めてくる



「何で?」


「ダメ」


「誇り高き女神様が外してってお願いをしてるけど?」


「師匠は信者じゃないじゃん」


『外しなさい』


「外せってよ」


「ダメ」



何でそんなに頑なに拒否をする?


俺ってそんなに人に見せられないくらいに恥ずかしい顔をしてるかなぁ


仮面を外すくらい別にいいだろう


ローナの静止を無視して仮面を外すと何故かローナはため息をつく


そして教会内が静まり返り、違和感を感じた神官は後ろを振り向き俺の顔を見て固まる


何?何なの?


そして女神はと言うと賢者たちが顔を赤らめているのとは反対に、女神は顔が真っ青になっていた



『……エル』


「久しぶりだなシシリー」


『…何でここに だってあなた…アイツと』


「……いろいろあった」



俺の顔を見た女神の反応がまるで幽霊を見ている反応だ


確かに何度か死にかけているし、仕方ないと言えば仕方ないが


その絶句している反応に腹が立つ



「何?死んでいた方がよかったか?

実際、死にかけていたけどな」


『いや…そんなことはないけど』


「何をそんなに驚いてるんだ?


俺が何度死にかけてると思ってる」


『……』


「なんか言えよ」



まぁ、実際に死にかけたことが両手では数え切れないほどありすぎて死ぬ恐怖が全く無いと言えば無い


これ一番失くしちゃいけないんだけどな


こればかりはしょうがない



「そんな事よりも


勇者に神託を告げたんだって?


それはどんな内容だ?それを聞きにきた」


『……』


「黙るなよ 別に怒ってるわけじゃないんだ」


『本当に?』


「本当だ


女神のシシリー様に失礼な事をするわけがない」


『バカにしてるでしょ』


「そんな事はない」


『本当?』


「うん」


『……[スタンピード]が起こるのよ』



[スタンピード]

予期せぬ事態により、魔物が暴走して大群となり押し寄せてくる現象


大群の規模によっては街、国を破壊し尽くす災害


一国を飲み込むほどの脅威


そんな国へ迫っている危機を女神は勇者に告げたが



「…そんな神託を告げるようなことか?


ただの[スタンピード]だろ?


警戒するほどのことでも無い」


『それはあなたから見てでしょ?』


「お前ら女神から見てもそうだろう?」



ただの[スタンピード]になんで神託なんて無駄でしか無い


統率のとれない寄せ集めの魔物の大群にそこまで焦る理由がわからない


この場には勇者もいるしS級冒険者もいる


[スタンピード]ごときに臆する理由も問題もない


でも勇者たちの反応を見ると張り詰めた感じになっている


何でだよ



『それがそうでもないのよ』


「?」


『今回の[スタンピード]は原因がわからない


この近辺に[ダンジョン]は無いし、強力な魔物の存在も無い、封印された魔物もこの近辺にはいない 全くもって原因が不明』



[スタンピード]発生の原因


一番考えやすいのが[ダンジョン]だけど、ここらには[ダンジョン]がない、なので[ダンジョン]で生まれた魔物が溢れ返る事もない


その次に考えられるのは強力な魔物の出現


それによってその魔物から逃げてきた魔物が大群を作って押し寄せてくる


殆どの原因がこの二つ


後は封印された魔物の封印が解けかかり、魔力が漏れ魔物を暴走させるかになるが


そのどれにも当てはまらないから原因がわからないので神託を行い勇者に注意喚起を行った


こんなところか?


しかしその程度のことで不安になるようでは勇者としてやっていけないだろ


勇者としてやるべき事ができていない


何でこんなのが勇者をやっているのか不思議だ



「何でわからないんだよ


使えない女神だな


『女神でもわからないことはあるの!』



何キレてんだ


そんなに怒ってるとシワが増えるぞ



『……エル?言ってなかったっけ?


私はね


人が何を考えているのかわかっちゃうの』



……言ってたっけ 忘れた


でもそう思っちまったんだからしょうがない


弁解はしないしするつもりもない



『くっ…この』


「それで?神託まで使ってこの勇者たちに何をさせるつもりだ?


原因不明の[スタンピード]を勇者に解決させて強くするのか?


[スタンピード]ごときで成長できるとは思えないけどな」


『それは……えっと…その』


「…お前まさか女神として最低な事を勇者にしようとしているんじゃないだろうな」


『それは絶対に無い!』


「なら何で原因を言わない?


何を隠しているんだ」


『……』



シシリーは何かを隠しているとき必ず目を閉じる癖がある


女神は隠し事ができない


それは何でもかんでも正直にいうことではなく、仕草でわかってしまうからだ


今回シシリーが[スタンピード]の原因がわからないと言ったとき、その間ずっと目を閉じていた


それだけで嘘確定だった


女神が何かを隠すとき大抵碌なことがない


最初におかしいと疑ったのは勇者たちの異常な信仰心の高さだ


神の存在無くして生きることはできない


神はいついかなる時でも見守っている


その言葉を聞いた時には吐きそうになった


それはよく神たちが人々に使う言葉であり、洗脳みたいのもの


神がいなければ生きられないと思わせ、依存させる言葉


ただの傍観者がそれっぽい言葉を人々に使って優越感に浸っているところを想像するだけで反吐が出る



『……』



シシリーは話す気がない


埒が開かないので少し強めの殺気をシシリーにだけに向けても涙目になって体を震わせるだけで口を開くことはなかった



「……もういい 自分で探る」



これ以上粘っても時間の無駄


ここで時間を潰しても何も意味はない


自分で探ったほうが早い…


たくっ…黙っていれば俺が何とかしてくれるとか思いやがって



『ごめんね…』



シシリーが小声で何かを言ったような気がするが、それに気づかずに文句を言いながら仮面を付け直して教会を後にした






エルが教会を出て扉を閉めた後、ローナが後に続くとその後を追おうとした神官にシシリーが語りかける



『…サナ一つだけ伝えておきたいことがあるの』


「はい?」


『…絶対に彼と戦ってはダメよ』


「え?」


『あなた達が勇者一行と言えど、彼が相手だと勝負にすらならない


女神からの忠告、これは絶対に守ってね』



女神シシリーからの忠告に神官は首を傾げる


エルの後ろにいたローナは確かに強かった


勇者が子供扱いされるほどに強かった


どんなに努力しても勝てないと思わせるほどの実力だったが、ローナと勇者の戦いをじっと見ていたエルを強そうだとは思わなかった


魔力に立ち振る舞いを見てそこらにいる冒険者と何も変わらない平凡な人間だと神官は思っていた


そんな奴に服を掴まれて引き摺られた


もう腹が立ってしょうがない


女神が許しても絶対に許さない、隙を見て杖でぶっ叩いてやると息を巻いていたが、エルが仮面を外し、顔を見て少し怒りが収まっていた


だってめちゃくちゃカッコ良かったから…


でもこれじゃあいけないと思い、杖を握りしめ直ぐにエルの後を追おうとしたところで女神に止められたが



「女神様、御無礼をお許しください


女神様のお言葉でも、私はあの者にどうしても制裁を与えなければいけないのです


女性である私を引き摺り回し、ぞんざいに扱うあの者を許すわけにはいきません


どうしてもあの者に正義の鉄槌を下さなければいけません!!」



神官の決意は固かった



『そっ…そう


じゃあ頑張ってね』


「はい!いってきます!」



杖を強く握りしめ、勇者達を置いてエルを一発ぶん殴るために目を輝かせながら神官は走っていった


その光景に女神はため息をついていた

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