第17話 嫌な夢
……ん?何だこれ?
俺は確か宿の部屋で眠っているはずだけど、どうなってるんだ?
目が覚めているわけではない、なのに意識がある感じ
周囲を見渡すが何もない、辺りは暗く黒い靄が周りを覆い尽くしていた
暫くすると靄が無くなり始めると同時に見た事のある景色が広がり、雨が降り注ぐ
「やぁエル 待ち侘びたよ」
声のする方向へ目を向けると
無くなり始めていた靄が一部だけ残り、それが人の形へと変化していくと、徐々に徐々にその人の形が俺のよく知っている人物によく似ていた
と言うか本人だろう
あぁ…成程
これは悪夢だ
「ずーーっと この時を待った
誰よりも待った、待ち侘びた
後もう少し遅かったら我慢出来ずに私から逢いに行くところだった
でも何とか堪えた 偉いでしょ?
大変だったよ 自分の欲望を抑えるのがこんなにも辛かったのは今回が初めてだったよ
はぁ…待てってこんなにキツいものだったんだね
ハハハハハッ…はぁ
ねぇ…気づいてるでしょ? 私今凄く興奮してるのが、伝わってるでしょ?」
………
気づいているも何も
目の前の人物は息を粗くし、右手の薬指を噛み、涎をダラダラと垂らしている
もうわかっただろ 何でこれが悪夢なのか
ヤバいんだよ コイツが
「はぁ…はぁ…もういいよね?もう我慢しなくていいよね?
こうして私の前に来たんだもん!もうやっちゃっていいんだよね!!」
あぁ…俺は今、凄い顔が引き攣っているんだろうなぁ
今思えば凄い後悔している
何でこんなやつの前に立ったんだろう
「可愛い、愛おしい私のエル
ふふふっ…絶対に逃がさない、離さない
思いっきり愛でてあげる」
そう言って襲いかかってくるところを最後に目が覚めた
このイカれ愚姉が…
「はぁーーー…嫌な夢だ」
最悪の朝だよ、まさかあんな夢を見るとは思わなかった
ベットから起き上がり、部屋にある鏡で顔を見るとげっそりしていた
今日も仮面が必要だな
軽く身支度をして仮面をつけ、部屋を出る
階段を降りると既にローナが椅子に座って待っていた
「おはようございます」
「おはよう」
まだ落ち込んでんのかこいつ
「お前はいつまで落ち込んでんだよ」
「あ…その…」
「それに一度敬語をやめたんなら敬語を使うな」
「ですが」
「敬語を使う奴がこれ以上増えると面倒なんだよ
わかったか?」
「…はい」
「これで話は終わり、切り替えろ」
何励ましてんだ俺
そんなキャラじゃないだろう
なんか調子狂うな
そっからは飯食って、受付の人に軽く挨拶をしてから宿を出ると
「あ」
すぐそこで勇者とバッタリ会った
またコイツらか
「また君たちか」
こっちのセリフだバカヤロウ
「何か用?」
コラコラ、ローナさん
メンチを切るんじゃありません
「……今回は君達に用はない
たった今、神からの神託があってね
僕たちは君たちを相手にしている程暇じゃないんだ」
何だぁ?この野郎!
いちいちイラつく事を言いやがって
ぶち殺すぞコラァ!
「……ふぅん じゃあいいや」
「…ただ、ローナさん
貴女には僕たちに協力して欲しい」
よし!コイツはローナの方に用があるらしい
俺がここにいてもしょうがない
どっかで時間を潰してくる!じゃあな!
というアイコンタクトをローナに飛ばして去ろうとしたが、凄い反射で俺の服を掴んで離さない
チッ…
「イヤ」
「アンタに拒否権は無いわよ」
まぁた賢者がでしゃばってきた
目立ちたがりか?
「何で?」
「神託でそう出たんだもの ねぇ?」
「はい 先程教会で主より協力するようにと」
はぁ…また神託神託ってバカの一つ覚えみたいに…この勇者共は神の言葉を信じ過ぎやしないか?
どうでもいいけど
「それでもイヤ」
「だから拒否権は無いって」
いつまで続くんだろう
なんか眠くなってきた
「何度言われてもイヤ
私、神の言葉って信用できないのよ」
「はぁ?」
「だって神の言う通りに動いていたら、私達って操り人形と同じだと思わない?
普段は自分の意思で動くけど、神託が降った時にはそれ通りに動かなくちゃいけないって何か違和感があるのよね」
まっ…そうなるよな
その通りだと言えばその通りだし、考え方は人それぞれだけど
神託があったからと言って絶対に従わなければいけないなんて事はない
誰がどう動こうが勝手にすればいい神の言葉が絶対なんて考えは古い
「それに師匠が言ってたし」
ん?
「神ってそれほど高貴な存在じゃないって」
「………」
………想定していなかった流れ弾が来た、勇者たちの視線が痛い
俺はそんな事ローナに言ったっけ?
言ったか、言ったんだろうな
「アンタ…この世界で神の言葉を否定するの?」
「あぁ」
「何て罰当たりなことを…
私達は神の存在無くして生きる事はできないのですよ?」
何言ってんだコイツ
「神は私達をいついかなる時でも見守ってくれています
私達はいつでも神のお言葉で救われているのです
それに神は私達こそがこの世界を平和へと導く者たちであると仰っていました
それを否定するなんて」
「この世界を平和へと導く者…ねぇ
……どっかで聞いたセリフだな
誰が言ってたっけな」
「誰って神様です」
「それはわかってるんだけど…えーっと
…いいや直接確かめよう」
「………え?」
瞬き一回をするかしないかの間にエルは神官の後ろへと移動すると、勇者や賢者、ローナが驚くよりも早く神官の後ろ襟を掴んで引き摺って歩いていった
「ちょちょちょっと…どこに連れて行こうとするんですか!!」
「教会」
「方向が反対です!!教会はあっちです!」
「ん? …あぁそう」
「自分で歩けます!歩けますから!」
神官がギャーギャー騒ぎながら引き摺られていく光景に勇者達は唯々呆然としていると、ローナは直ぐにエルの後ろをついていった
「………はっ! ちょっと!!
サナをどこに連れて行こうとしてるのよ!!
待ちなさい!!」
我に返った勇者たちは走ってエルの後を追いかけて行った
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