第14話 真っ向勝負
冒険者登録に来て、試験だと言われ、教官をブッ飛ばし、何故かギルドマスターと戦うことになった
正直、なんでこうなったと言いたいが、今考えてもしょうがない
ギルドマスターが葉巻を握りつぶして火を消し、捨てたと同時にバトルアクスを振りかぶり間合いを詰めてくる
俺の目の前まで来るとバトルアクスを振り下ろした
地面には亀裂が入り、石礫があたりに飛び交い土煙が舞う
何となく地面が揺れた気がする
まぁそれを半身で避けるんだけど
バトルアクスが当たらなくても石礫ぐらいは当たっただろうと思っていたようだけど、実際の俺は無傷
ギルドマスター マジかよといった反応
そんでもって動き出す前に
「左から一閃」
「ッ!?」
ホラ、驚いて固まった
そこを狙ってギルドマスターの鳩尾に拳を振り抜く
ドゴッ!と音と共に後ろに飛び、堪らず膝をついた
「…ゴホッ
テメェ…未来でも見えてんのか」
「え?いやいや、違う違う
未来なんて見えないよ」
どいつもこいつも何で先読みをしただけで未来を見ていると思うんだろう
ローナと模擬戦をしている時もそうだった
口には出さなかったけど、何でわかるの?って反応が多かった気がする
そう考えているうちにギルドマスターが動く
「〈身体強化〉、〈思考加速〉、〈魔力付与上昇〉、〈初速向上〉」
すぐに立ち上がったか、頑丈だなぁ
そして消えた…けど
「後ろ」
エルの後ろに移動し、横からバトルアクスをフルスイングすると、それを頭を下げて避ける
「うぉ!マジか!」
「右、前、左斜め、前、上、左、後ろ…
ほら 足元がお留守だ」
絶え間なく続く四方八方からの攻撃を避け続け、時にはカウンターで合わせる
側から見てもギルドマスターが子供扱いされているようにしか見えない
全てを当たるか当たらないかのギリギリで避け続けている
(くそっ…ここまで当たらないと逆に笑えてくるな)
「(さてさて、相手は色々と強化している状態
でも獲物がデカいからか、動きが単調だな
動きがでかいから読みやすい
このままやってスタミナ切れを待つのも良いけど
でも避けるだけじゃあ武器も可哀想か)
さてと、〈錬成〉」
魔法陣を地面に浮かび上がらせ、土が渦を巻きながら上がっていき、徐々に剣の形へと変化していく
(はぁ?何もないところから剣を作るのかよ
本来なら〈錬成〉魔法は物に触れながら発動しなければ作れねぇだろが)
「〈硬化〉、〈魔力付与〉
即席だが、そこらの魔剣よかマシか
さぁ、続きを始めようか」
「生意気言いやがって
たとえ強者でもその油断が命取りになるぞ」
「油断なんかしてないさ
俺はいつでも目の前の敵に集中してるよ」
ギルドマスターの動きは決して遅くはない、寧ろ一般から見れば早い部類だ
S級冒険者から見ても目で追えるのがやっと
自信を無くしそうになるギルドマスターにローナは言ってやりたかった 師匠が早すぎるのだと
剣が追加されたエルに再び四方八方から攻撃を仕掛けようとした
だがギルドマスターの動きに合わせて加速し、移動した先の背後や目の前に移動する
決して自分からは先に仕掛けない
背後にいればそこを攻撃しようとすれば目の前に移る
目の前にいれば次は背後に移る
どんな動きをしても予測をしても先回りをされていた
(こんなにも隙がないものか
何をやっても避けられる気しかしねぇ
勝てるビジョンが全く見えない
どうするか)
思いつく限りの強化魔法をかけてもエルの速度に追いつくことはできていない、寧ろ遠ざかっている気がしていた
現役の頃、この猛攻を全て避け切った敵はいない
過去にこの体に傷を自身につけた敵
危険度の高い
過去にギルドマスター戦った中で最も強かった敵を思い出す
[地龍]ガァリアロ
王の風格を纏った
奴を倒すのに多くの犠牲を払い、今まで戦った敵の中で最も大きな傷をつけた敵、そしてやっとの思いで倒した好敵手
この戦いを最後にギルドマスターは前線から離れる事にした
もうアレ以上の敵は現れないだろうと思いながら、冒険者を引退した
そして現在[地龍]ガァリアロと同じくらいかそれ以上の敵を今相手にしている
(ここまで通用しないと笑えてくる
わかっていたが、俺とコイツとでは次元が違う)
「まだやるかい?」
「あぁ、そうだな」
するとバトルアクスを構え直し、バトルアクスに魔力を注いでいくと魔力が流れ始め発光していた
強化されていくバトルアクスはギルドマスターの意思とは別に生きているかのように鼓動し始め、唸り上げていた
ギルドマスターが力を溜めている姿とは別に、エルの視線は上へと移る
そこにはギルドマスターの持っている武器から粒子が上へと上がり一点に集まり、徐々に形あるものへと変化していく
それを見て
「ほぅ」
「こいつで終わりにしよう」
正真正銘の最後の一撃、そんな感じが伝わってきた
魔法で身体を強化していれば、精神や肉体の限界が早く訪れる
ギルドマスターの攻撃を全て避け切っている相手を最後に倒す方法があるとすれば、自分の得意で勝負するしかない
速度では無理だった、なら力勝負ならまだ勝機はあるかもしれない
少なからずそう思っていた
それに力を溜めているこの無防備な状況で攻撃をして来ないと言うことは、少なからず勝負から逃げるなんて事はしないだろうとも思っている
魔力を流し、力が安定すると、これがただの登録の試験ということと、ここがギルドの中だという事を忘れ、ギルドマスターの殺気がエルへと向けられる
全てをこの一撃にかけるというその意思がこの殺気でエルに煩いくらい伝わり、エルも剣に魔力を流し始める
ギルドマスターの防御なしの真っ向勝負を受けて立とうとしていた
辺りは静寂に包まれ、二人同時に動き出す
二人の姿が消え、砂埃だけが舞い上がる
常人ならば目で追う事ができないほどの速度で交差するが、実際に打ち合った姿は見えず、ただ大きな金属音だけが周囲に響き渡った
そして二人が元いた位置にお互いが背を向けて入れ替わっていた
ギルドマスターは武器を振り抜いた状態になり、エルは普通にその場に立っていた
観戦していた者達は一瞬の出来事を辛うじて理解する事ができた
しかしギルドマスターの手にバトルアクスが無いことに気づくと、バトルアクスはエルの前方の壁に突き刺さっていた
「……やっぱ無理か」
その言葉を最後にギルドマスターの胴体に斜めの線が入り、崩れるように前に倒れた
エルはギルドマスターが倒れたのを確認し、〈錬成〉を解除しようとした
(アレ?刀身がねぇ)
剣の刀身がないことに気づく
すると
「あっっっっっぶないわぁ!!!!」
「ん?」
後ろを向き声のする方向を見ると、剣の刀身がローナの後ろの壁に突き刺さっていた
「ちょっと!!!」
「なんかゴメン」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます