第11話 神官は泣き噦る
ローナが勇者の左側頭部を上段回し蹴りを見事に決めると勇者は糸が切れた人形のように地面に倒れた
「アイトが…負けた」
「……嘘です」
勇者が倒れ、その事実に勇者の仲間たちは呆然としている
何で負けただけでそんなに驚くのだろうか
勇者が強いと言ってもソコソコの部類
驚くような強さではないし、最初からローナが勝つと思っていた
「なぁ、屈強な男」
「仮面の男…俺はガイズって名前があるんだ」
「ん?そうか 悪いな知らなかった
勇者って冒険者だとどのランクだ?」
「……俺らと同じS級だろうな
さすが勇者といった感じでこの戦いを見ていたがそれ以上に……彼女の実力
まさかコレほどとは」
「ローナか? どうだった?」
「フフッ……俺らが束で挑んでも勝てる気がしねぇよ」
「そうか」
勇者がS級? アレで?
ふーんそうか そのくらいが目安か
S級冒険者から見れば勇者の実力は相当なものだったのだろう
でも俺から見れば普通以下、弱い部類だ
恐らくS級冒険者には勇者の動きが目で追えるか追えないかだろう
そんな反応になってたし
でも俺から見れば遅い
本当にお前勇者?って聞きたくなるくらいだったが黙っていよう
すると大きく息を吐き、勇者が気を失っているのを確認して範囲魔法を解くとローナがその場を離れ、勇者の仲間達が直ぐに勇者の側により回復魔法をかける
(それにしても相変わらずいい蹴りだ)
勇者は何が起こったかわからんだろうな
ローナの範囲魔法
〈
霞で自分の姿を消し、相手の視界の感覚を狂わせるという事を勇者は感じただろう
アレはそういうものではない
姿を消す、空間が歪む、感覚が狂う
コレらは全て宙に浮く結晶の光の効果
勇者には
光の屈折と反射を利用して相手からは見えなくなる
ただコレだけのこと
霞は消えたかのように思わせる演出
その他にもあるけど今はまだ言うまい
最初にしてはいいんじゃないかな
もっと使い方はあるけども
よくやったと褒めてやろう
そういえば同じ魔法を誰かが使ってたな
それに比べればローナのやつはまだお粗末
誰が使ってたっけな 忘れた
「終わりました」
「お疲れ どうだった?」
「……まだ未熟です」
「どっちが?」
「私ですよっ!!」
声を荒げるなよ ビックリするから
「あの魔法をまだ全然使いこなせない事がわかりました
まだまだ未熟です」
満足はしていない結果のようだ
まぁローナがそう思うんだったらそれでいい
何も言うまい
ただちょっと勇者の仲間の神官がいたから聞いてみたいことがある
「おい神官」
「何ですか仮面の人」
「睨むなよ聞きたいことがあるんだ」
「何です?」
「レティ元気?」
それを聞いた瞬間、神官の顔が一気に青褪めた
「…何故その名前を」
「その反応…お前 狂信 か?
お前の場合、自分を神と思ってるタイプのやつとは別の狂信か
上に立っていたい、優れていたい、見下したいと思っている奴らも教会では狂信の部類
レティの粛清対象だ」
「それはどうでしょうか
何故あの方の名前をご存知なのか知りませんが
貴方が本当にあの方と親しい関係なのかもわからないです
私が狂信だとしてもあの方には知られることはありません」
こいつバレなければ大丈夫と思ってるタイプか
恐らく狂信である事を隠して勇者に同行しているな
同行するやつを決めるのは教会の上層部
狂信だと勇者に同行する事はできない
狂信は平和よりも乱す方だからな
教会の上層部には崇信もしくは中立の立場であると思わせているから今回選ばれている
それならレティには狂信である事は知られない
だから少し余裕なのか
レティの名前を出しただけで震えているくせに
それなら
「んー
『私はこの身を神に捧げ、我が剣は神のために振るう』」
「へ?」
「『我が神に対し清く、正しく、美しく、嘘偽りない忠誠を誓い、穢れなき我が心を神に捧げます
私が神に与えられし使命は神に背く悪の因子を一つ残らず滅すること
善ある者には救済を悪しき者には制裁を
この十字架に誓い、正義を執行致します』」
「何故…その言葉を…
だってそれ…」
「よく言ってるだろ? あいつ」
それを聞くと絶句した
弱みを握ったみたいで何かやだなぁ
ただ元気かどうかを普通に聞いただけなのに何でこうなった?
とりあえず少し落ち着かせよう
「まぁ、レティに会ったとしても何も言わないさ
だからと言っては何だけど
近いうちにお前達はレティと会うだろう
その時に何か聞かれても俺の事は黙っていて欲しい
どうせあいつは気づくだろうけど
わかったか?」
「……」
「勘違いするなよ?
コレは脅迫じゃない、お願いだ
わかったか?」
「……はい」
「よろしい」
「直ぐに狂信をやめて崇信に変更します」
「そこまでしろとは言ってない」
こんだけ言っておけば大丈夫だろう
元気なら元気で良いが、今はまだレティに会わない方がいい
「ちょっとあんた!!
何サナを脅してるのよ!!
弱みを握ってるのか知らないけどねぇ!!
私達の仲間に酷いことすればこっちだって…」
「ミジャ ダメです!!!
やめてください!!!」
怒る賢者を神官が腹に抱きつき抑える
「ちょ…サナ離しなさい!」
「いやぁ…やめて…やめてください
これ以上は本当にダメです…
お願いしますお願いしますやめてください」
賢者に抱きつき、首を振りながら泣き噦る
あいつどんだけ恐れられてるんだよ
賢者が神官に戸惑うと、俺を見て
「この子に何をした!!」と叫ぶ
でも俺は何もしていない
だからローナ、そんな目で俺を見るんじゃない
「レティシア様に殺されちゃいますぅ…」
こうして俺は神官に泣かれ、賢者に怒鳴られ、ローナにジト目をされていた
そして何でこうなったと思いながら俺は天を仰ぎながらため息をついた
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