第10話 ローナvs勇者
【ローナvs勇者】 開戦
一週間前
「ローナ
お前は魔力を無駄に垂れ流しすぎているな」
「え?」
「必要な魔力とは別に無駄な魔力が外に放出している
魔法を使う時なんて必要最低限の魔力、ごく少量でいい」
「しかし魔力が少ないと初級魔法も撃てるかどうか」
「だから発動できる分だけの魔力を使えばいい
どの魔法もそうだけど、発動すれば周囲に魔素が溜まる
これが俺が言った魔力の無駄な部分だ
なら無駄にしないためにはどうするか
この魔素も有効活用すればいい
例えば今発動している〈火球〉のこの火の周りにある魔素を一点に凝縮させて、一点に魔力が集まりきったら放つ」
「……これは」
ローナが見ているのは〈火球〉を放った先の樹木
初級魔法でそれなりに太さのある木を貫通し、その穴から火が広がり木を燃やし尽くしている光景だった
初級魔法でこれ程の威力を撃てるなんて誰が予想できるだろうか
「無駄があるってのはこういうことだ
魔力は使い様によっては武器なんて要らない時もある
体全体を魔力で覆い、纏う様に展開する
〈身体強化〉とは違う、あれは体の内側から魔力が伝達するからな
俺が言っているのは体の外での魔力操作
これは普通に魔法を発動するよりも難しい
でもこれができれば並の相手には武器なんていらない」
「相手が武器を持っている時はどうすれば」
「纏っている魔力を一点に固めろ
但し体のどこかが魔力がなくなるなんてことはない様にしろ
そうすれば魔法も武器の攻撃も防げる
ただ魔剣、聖剣あたりは受けたら多少の衝撃はあるけど斬れやしない
それに刃物ってゆうのはな当てるだけじゃ斬れない
当てて引く、この動作が無ければ鉄の棒と変わらない
取り敢えずやってみろ話はそれからだ」
「初めてなのに纏うのも固めるのも出来るわけ…」
「つべこべ言わずにやれ
できるまでお前の飯は水だけだ」
「えー!!」
ーーーーーーーーーーーーーーー
(あの時、多少の衝撃……って言ってたけど!!
めちゃくちゃ痛い!!
なに?何なのこれ!
あーー涙出そう!!)
「ローナ」
「はい」
「頑張れ」
勇者アイトの聖剣を素手で受けたローナは平静を保っていたが、脳内はご覧の通り
今すぐにでも手を押さえながら蹲り、叫びたかった
でも今そんな事を言っている余裕はない
一瞬でも気を抜けば前からでは無く、後ろから攻撃がくるからだ
腕を組みながらローナの様子を、エルはじっと見ていた
ローナは常に全身を魔力で覆い、固めている
これはエルからできるようになれと指示されたこと
少しでも何処かが緩めばそこを逃さず攻撃してくる
でも、気を張り続けていれば意識がそこに集中してしまい、勇者への対応が遅れることになる
そんな事を考えていた
エルから武器の使用許可はない
少し期待していたら「頑張れ」一言だけ
内心「そんな言葉今はいらない!!」とか思ってたりした
(上段からの振り下ろし、左下からの擦り上げ、
右からの一閃、喉元への突き刺し、右斜め上からの振り下ろし…)
まるで先を知っているかのように勇者の動きをエルが読んでいる
ローナは痛みを我慢しながら聖剣を捌き、後方から勇者の援護をしようとローナに魔法を放ち勇者を強化しているが、一つも当たらない
「クソッ!何で当たらない!!」
魔法がくれば避け、剣がくれば素手で捌く
これを繰り返す
勇者が徐々に苛立ってきているのが目に見えてわかった
「何で当たらない!何でコレが避けられる!」
後方からの魔法、身体強化し聖剣にも更に魔法を付与しての魔法と剣の同時攻撃でもローナには真面に当たらない
相当強化した状態の勇者の攻撃を最も簡単に避けているが、今行っている勇者の連携は一体の龍種であれば難なく倒せる程だった
それでも当たらなかった
(……それぞれこちらから仕掛けてもよさそうだけど)
チラリとエルの方に視線を向けるがエルは無反応
でも「自分で対処しろ」とエルの目がそう言っていた
(何もなし…か
そうよね、いつまでも師匠におんぶに抱っこというわけにはいかないわよね
それなら少しアレを試してみようかしら)
暫く勇者と打ち合うと剣先を地面につけて息を切らしている勇者に対し、構えをとる
真っ直ぐ相手を見据え、深く息を吐くと体に纏っている魔力を二重の状態にする
一枚は纏ったまま、もう一枚は周囲に魔力を展開した
(……ん?)
(武器があった方が良いのだけど、折角だから少しは試してみますか)
すると周囲は霞がかかり、地面には白い花が一面に咲く
そして雪の結晶が宙に散りばめられ、所々が光に反射していた
「〈
この光景に勇者とその一行、そしてローナを査定しているS級冒険者は固まる
ある者は見惚れ、ある者は驚愕する
見たこともない魔法
詠唱がなく、魔法陣も必要としない範囲魔法
魔道の道を進む者、数多の魔法を見てきた者にはローナの発動した魔法が一握りの才能が発動できる高度な魔法である事を理解するのに精一杯であった
同じ事をやってみろと言われたら、賢者でもS級冒険者でも誰しもが出来ないと言う
それほどの魔法が目の前で発動されていた
(何だコレは?
俺は今何を見ている?)
勇者アイトは思考が追いつかない
自分の目で見ている光景に絶句していた
勇者の自分が見たことも聞いたこともない美しいと思ってしまう程の魔法
最初は幻術かと思ったが、幻術であれば賢者のミジャとS級冒険者達はあんな顔はしない
直ぐに幻術の対応をしていないところを見ると、この魔法は自分では理解できない魔法である事を理解すると冷や汗が止まらなかった
「私もコレを成功させるのは初めてなの
上手く手加減ができるかわからないから
充分に注意してね」
その言葉を最後にローナの姿が霞がかかり消えると宙に浮いている数多の結晶が点滅しだす
勇者は聖剣を構え直すが周囲は霞がかり空間が歪んだりし、結晶の点滅などしている事で感覚がおかしくなり始めていた
「消えた 全く見えない どこに行った?」
「アイト前!!」
「え?」
仲間の呼びかけに反応して前を見た時、ローナが目の前にいた
(いつの間に…)
ローナの姿を見たと同時に勇者の左側頭部にローナの上段回し蹴りが綺麗に決まった所で勇者の意識は途絶えた
「初めての成功にしては及第点かな?」
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