第8話 お前どっちだ?

「頭の中で俺を殺せたか?」



その言葉にメイ・アルディーナは微笑むことしかできなかった。


最初は死の危険に晒された私大事な大事な私の妹ローナの隣に座る不気味な仮面をつけたこの男を殺してやろうかと思った


一緒に歩き、同じ席に座り、同じ空間に存在し、同じ空気を吸っているこの男には殺意しか湧かない


でもローナの話によればこの男に命を救われたらしい


俄かに信じがたいけどそれはどうも事実っぽかった


そして真実なんだとローナの話を聞いていて悟った


少し殺気を向けようとしてみたら


あっ…この人ヤバいって思った


殺気を向けようとしようとした時、私の本能が危険だと大音量で警報が鳴った


レベルが違う、私じゃあこの人には電池がひっくり返っても勝てないとわかってしまった


それでも好奇心が勝ち、自分の頭の中で相手を斬ってみた


コレはあくまで私の想像でしか無い


と思ったら剣を振り抜いた瞬間に目の前が真っ暗になった


何も見えない、何も聞こえない、何も感じない


五感が全て消え失せたかのような感覚


何?何が起きたの?


今起きているのは現実には起きていない、私の頭の中で起こった出来事



「頭の中で俺を殺せたか?」



その言葉を聞いた時、真っ暗だった視界が晴れて元に戻った


そして今起きた事を理解した時、私は震えた


思い知らされた


私の立っている場所とこの人が立っている場所が違いすぎる



「全く、教会の人間は好戦的で困る」


「…何故 私が教会の人間だと?」


「その首飾りを見りゃ誰でもわかる」



仮面をつけているからわかりにくいけど視線を外しているのがわかり疑問を抱く


視線を下に落とし自分の首にかけているネックレスを見ると胸元が開いた服の中心に十字架があり、ちょっと恥ずかしくなった



「……これは失礼しました

見苦しかったですか?」


「別に?」


「それとも やったー!って思いました?」


「何言ってんだお前」



そうですね


私も自分で何を言っているかわかりません


顔が熱くなっていきます


何でローナがいるのに変な事を言ってしまったのでしょうか



「それで?お前どっち?」


「どっちとは?」


「そりゃあ教会に属してんだ

[狂信]か[崇信]かだよ」



あら、結構深いところまで知っていますね



「さぁ…どっちだと思います?」


「何です?それ」



ローナが私たちの会話を聞き、話の内容がわからないといった感じになっています


それもその筈です


教会に[狂信]、[崇信]といった派閥がある事は教会の信者しかわからない……筈なんですが



「教会の信者は[狂信]と[崇信]の分かれている


[狂信]神を信仰しはするが自分自身が神であると述べるもの


[崇信]神を信仰しているもの

一般的な聖職者」


この方は何故知っているのでしょう?


それに…



「それに加えてもう一つ教会には役割がある


[裁定]神の名の下に助けを求めるのもには手を差し伸べ、悪の道を歩んだものには鉄槌を下す者」


それを知っているのはごくわずかな筈なんですけどね



「確か奴らの決まり文句はこうだったな

『善あるものには救済を

悪しきものには制裁を』

だったか?」


「よくご存知で」


「お前はどれなんだ?」


「残念ながら私は[崇信]です」


「まぁ…だろうな」


これ以上深く問い詰められる事はないと安堵したも束の間、空気が乾き私の唇が切れる


微かに感じる微量の殺気、一帯の空気が乾くほどの殺気で私を威嚇していた


真っ直ぐ私を見てくるのに対して、今すぐにでも視線を逸らしたかった


でも見つめられるとどうしても見つめ返してしまいます



「フッ…いいね

面白い」



何故か笑ったかと思えば、席を立ち扉の方へ歩いていきました


その後にローナも立ち上がり、その後を追っていきます


あぁ、もう話はこれで終わりなのですね


そう思った時、最初から少し気になっていた事を言ってみます



「最後にいいですか?」


「?」


「仮面の下…見せてもらえます?」



あの人の素顔がどうしても気になります



「…これでいいか?」



仮面を少し上にずらし、顔が見えると固まってしまい


気づけば二人はもういなくなっていました



「……師匠」


「何だ?」


「検問や冒険者ギルドで仮面をつけていて正解でしたね」


「?」




エルとローナがいなくなった後


(かっ…かっこいいーー!!!)

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