第5話 一週間後

約束の一週間


ゴブリンに襲われ、強くなりたいと懇願した我が弟子、魔術師ローナの一週間の特訓が終わった。


果たして彼女はこの一週間で強くなったのか

正直言って俺にはわからない。


ただ、表情は変わったと思う。


いや、気のせいか。


でも平和ボケして世の中を舐め腐っていた魔術師とは別人と言ってもいい。


何かが吹っ切れたような、そんな感じがする。


髪を切ったからか?


関係ないか



それで一週間の特訓を終えた俺たちが今どこにいるかと言うと


なんちゃら王国の検問所で入国するために長蛇の列に並んでいる。


別に来るつもり無かったんだけどな。


まぁ、特にやる事なかったし


ローナに言われるがままついてきたけど


なんか不安だな、念のため顔隠すか


懐から黒い仮面を取り出して装着する


そしたらローナがギョッとした。



今付けているこの仮面は目と鼻が無く口が耳まで裂けて不気味に笑う黒い仮面。


この仮面を見てローナは引いていた。


そして前に並ぶ人たちも俺を見て引いていた。


仮面…付けない方がいいのか?


そんなことを考えていると案の定、検問で自分たちの番になった時に質問攻めにあった。


でも一言も喋らずに無事に終わった。


全部ローナが答えてくれたからだ。


なんて優秀な弟子なんだろう。


後で褒めてやろう


検問を終え、俺たちがまず向かったのは冒険者ギルドというところだった。


なんでこんなところに…


あぁそうか、こいつ冒険者とか言ってたっけ


なんか用でもあるのか?生存報告?


中に入るとそこには多くの冒険者が集い、酒を飲み談笑しているものが多かった。


何ここ、飲み屋かな?


正面にある受付に何か書いてある



[冒険者ギルド]



違ったみたいだ。



「…すみません師匠、少しここで待っていてもらってもいいですか?」


「わかった」



ローナは真っ直ぐ受付へと向かう。


その間、ただ待っているのもなんだし壁に貼られている紙を眺めていた。


紙というか依頼書クエスト


よくわからん



「……お久しぶりです」


「ローナさん!!

無事だったんですか!?」



依頼書クエストを眺めていると、受付の女の人がローナを見て驚いていた。


何あの驚き、まるで死人が生きていたみたいな反応をしているな。


まさかローナがゴブリンにやられて死んだってことにされた訳でもあるまいし驚きすぎでしょ。



「えぇ、お陰様で」


「よかった…本当によかったです

カリオさんから報告を受けた時にはもう諦めていましたから」


「…あいつ、何て言って報告したの?」



ローナのあの反応…そのまさかみたいだった。


ゴブリンに襲われてローナを置いて逃げた奴らが、依頼クエストに失敗してローナが死んだって報告をしたみたいだった。


可哀想な我が弟子…


相当ショックを受けたに違いない


後で頭を撫でてやろう




「おい」


なんて事を考えてたら、なんかむさ苦しい男達の集団に絡まれた。


面倒ごとはごめんだ


無視しよう



「おい、お前無視してんじゃねぇよ」


「……」


「お前だよ!気持ち悪い仮面つけたお前!」


「……」


「聞いてんのか!おい!」



うるさいなぁ…


仕方がない、少し痛い目を…お?



「ちょっと…」


「あ?」



いつの間にかローナが受付から戻り、俺に絡んでいた大柄の男の後ろに立っていたかと思えば


男が振り返った瞬間に顔面目掛けて蹴りを入れ、その衝撃で壁を突き破って外まで飛んでいった。



いい蹴り



ローナの倍以上ある体格の男が吹っ飛び、男は白目をむいて完全に気を失っている。


取り囲んでいた他の奴らは固まった


そしてあんなに騒いでいた周囲の者は呆然とし、さっきまでローナと話していた受付の人は両手で口元を覆い青ざめていた。



「……クズが」



…気絶してる奴に追い討ちをかける様に毒を吐き捨てたよ


気を失ってるから聞こえてないだろうけど



「……行きましょう」



うんうん そうだね


早くここから出よう


変に注目されてるから、また何か面倒な事に巻き込まれそうだ。


視線が集まってる事に不快に感じていたことが顔に出てしまったのか、ローナは察してしまったらしい。


そしてグルンと首を回し周囲にいる冒険者たちを睨むと



「何見てんだ」


 

と言い放った


こわっ…


睨まれた冒険者たちは全員視線を逸らす。

下を向いたり、上を向いたり


文句を言おうにも、あの蹴りを見てしまっては何も言えない



「クククッ、

目を赤くして泣きじゃくっていた時と随分と変わっちゃったな」


「やめてください」



ローナにとってあの時の出来事は今では黒歴史かな?


少しからかったらムスッとして俺の前を歩くその姿からは少し子供っぽさが出ていた。

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