第4話 事の経緯

ゴブリンどもは全部片付け、死体も残らないように燃やして塵と化したので問題ない。


回復ヒールで魔術師を治療したし、後はこいつの意識がハッキリしているかを確認するだけど...一応声はかけないとな。



「よぉ、大丈夫か?」



ん?何か驚いてるな。


何に驚いてるんだ?


自分の体を見て、頭を触って、頭を触った手を見て....


ん?


あぁ、なるほど


怪我が治ってることに驚いているのか。


...そんなに驚くことか?




「.....?」



何だこいつ、寝起きみたいな反応しやがって。

腹立つな



「……あなたは?」


「ん?……通りすがりの救世主」


「......」



何故黙る?間違ってること言ってないだろ?


これじゃあまるでスベってるみたいじゃないか。


なんだその目は やめろそんな目で俺を見るな



「冗談だよ」


「....」



何か言え



「あ...ありが…とうございます、助けて…くれて」


「....どういたしまして」



魔術師が落ち着いたようだから、事の経緯を聞いた


まぁ粗方予想通り、休んでいたところで襲われたらしい。


簡単な依頼を受けて、相手がゴブリンだと侮って、油断してやられた。


よくある事だと思う。



ここまで聞くのにだいぶ時間がかかった。


この事だけを聞くのに、長々とどうでもいい話を泣きながら聞かされた。


もうちょっと簡潔に話せなかったか?


まぁいいや



「うーん、ドンマイとしか言いようがない


今回、お前がこんなことになったのは

お前らの実力がその程度だったってこと


運が悪かったとかそう言う事じゃない


経験が足りなかった


もしくは未熟なお前たちの弱さが招いた結果」



弱肉強食の世界では、強い者が生き弱い者が死ぬ。


人と魔物は出会ってしまえば、普通に生活していても生き残るために命を奪い合う。


でもそれは人と魔物に限った事ではない。


戦う理由がなくとも、人は魔物のみならず自分の欲を満たすために人間同士でも争い合う。


人は戦わずにはいられない、争う事が大好きな生き物だ。


あーやだやだ、怖い怖い。



「そんな気を落とすなよ


今は失敗しても同じようにならないように考える時間がある


今日失敗をしたなら、同じ場面に出くわした時どう上手く動けるかを考えろ


「あの時こうすればよかった」なんて、そんな過去の事を考えても無駄だ


起きてしまった事はやり直せない


次失敗しないために何が最善かを考えろ」



…良い事を言ったと思ったんだけど、変わらず無反応…


大丈夫だとは思ったけど、もう心が折れてるのか?



「まぁ、考え方はひとそれぞれ


強くなるために努力をするか、田舎に帰って静かに暮らすか


残りの人生をどう過ごすかはお前次第


よく考えて行動するんだな」



これ以上、俺が言える事は何もない


じゃあ元気でやれよ


俺はさっさとここから離れて…



「わ…」


「わ?」


「わたしは…他と比べて特別なんだって思ってた


魔力の量も人一倍あったし、魔法もすぐに覚えられた


わたしはそこら辺の有象無象とは違う


国で1番の魔術師になれると思ってた」


「……」



いきなりどうした?口を開いたかと思えば、そんな事かよ


でもまぁ本当にそう思うよ。


見たところ魔力が少し多い


魔法の習得が早いのは魔術師の才能があるだけで、自分が強いわけではない。


戦闘の技術がなければただの勘違いしたバカヤロウだ。


大抵のやつは勘違いして、天狗になって、命を落とす。


コイツの場合失敗して学んだらしいけど

なら失敗の後に何をする?


何で?何でわたしがこんな目に合うの?


とか言い出すか?



「ホント…わたしのバカ


自分は特別だって勘違いして周りが見えていなかった


失敗して当然の結果よ


……本当に悔しい


もうこんな思いはしたくない


だから、助けてもらった身なんだけど失礼を承知でお願いしたい


わたしを…強くしてもらえないかな」


「……」


「周りを取り囲ってたゴブリンを一瞬で倒したのだから強いんでしょ?


私を一から鍛えて欲しいの」



なんで?

まぁ てっきり泣き弱って俺に八つ当たりでもするんじゃないかと思っていたが


まぁ、八つ当たりでもされたら容赦なく蹴り飛ば…


いかんいかんそうじゃない


説教でもしてやろ…


さっきしたか?あれは説教というのか?


でも強くして欲しいか…


うーん



「いいよ、ただ…

俺、厳しいよ?」


「厳しいのは当たり前

寧ろ望むところ」



目ぇキラキラしやがって ドM?


怖いわぁ



「…一週間


一週間で今とは比べられないくらい強くしてやろう


ただし地獄を見るからな


弱音吐くなよ?」


「わかってる

だからお願いします!

…えーっと?」


「…エル


一週間限定のお前の師匠の名前だ」



師匠は言い過ぎか?


調子に乗ったか?


まぁいい、面倒だとは思ってはいるけど


引き受けた手前、望み通り、お前を強くしてやろう



「泣いても、吐いても、漏らしても容赦しないからな」


「…え?」

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