1章

第3話 通りすがりの救世主

あぁ、なんでこうなったのかしら。


理由はわかってる。


簡単な依頼だと思って油断したから。


冒険者に成り立てでにも関わらず簡単な依頼だと思ったゴブリン退治



その依頼を私は一人の男に誘われてその4人の仲間達と一緒に受けた。


前衛2人、後衛2人のパーティ。


それに加わり魔術師の私は後衛を務めていた。



中々バランスの良いパーティだと思う。



でも私達は失敗をした。


敵はゴブリンだと侮り、呑気に休んでいると奇襲を受けた。


そして連携が取れずに混乱している隙をつかれ、私は攻撃を腹部に受ける。


私は両膝を地面につき動けなくなった。


更に連携が崩れると、仲間達は手負いの私を置いて逃げて行った。


私を置いて逃げるその仲間達の後ろ姿を見ていると、私の周りに群がるゴブリンに笑われながらこれでもかと抵抗できなくなるまで暴行を受け続けた。


容赦ない暴行から逃れようと抵抗しようとした時、後頭部に強烈な打撃を受け勢いよく頭から倒れた。


視界は歪み、私の意識は薄れていくと走馬灯が頭の中で駆け巡る。



私はこれからゴブリンの巣に連れて行かれてからは

嬲られ、陵辱され続ける。



そう考えるとつまらない人生だったと心底思う。


こんな事になるなら下賤な視線を向けてきたリーダーにでも初めてをあげたほうが良かったかな。


初対面だと言うのに馴れ馴れしく話しかけられ、夜には布団に潜り込もうとしてきた。


本当に気持ち悪かった。


その度に仲間の女性たちからは冷たい目で見られていた


でも、こんな事になるなら…


なんて今思ってもしょうがないけどね。



私の人生…こんな形で終わるのかぁ







……







いやぁ…いやだ…



たすけて…しにたくない



まだ生きたい。


まだこんなところで死にたくない。


そう思えば思うほど、堰を切ったように涙が溢れ出て止まらない。



だれか…たすけて…




「あらら、これはこれは大変な事になってるじゃないの」




私の周りを囲っているゴブリンは動きを止め、見上げる。


ゴブリンは下賤な笑みから表情を変え、警戒をし始める。


人の声が上から聞こえてきているのは辛うじてわかった。


この時、顔を上げてその姿を確認する気力は残っていない。


でも私はこの声を聞いただけで私は助かったと安堵してしまっていた。


味方じゃないかもしれない、身体目当てで助けに来たような人かもしれない。


でも安心せずにはいられなかった。



男の冒険者達から下賤な視線を向けられていたからか、人の視線に敏感になっていたけどその人達とはまるで違った感覚だった


そしてゴブリンが見上げている先に木の上にいる人からこちらを見下ろしてこちらの様子を伺っている人を見て、私は意識を失った。






ーーーーーーーー






ここか


この血生臭い匂いの素


一眼で何が起こったかわかるような惨状


血を流しながら倒れている女が周囲に群がるゴブリンに陵辱されかかっていた。





ふむ、こういう時女ってなんて言うんっだっけな?



くっ…殺せ、だっけ?




違う違うそうじゃない。


それは女騎士が言うことか。


何度聞いたことか ハハハッ





状況を見るに


ゴブリンに女の魔術師が襲われているが、そんなことじゃない


なーんで低レベルの魔術師が一人でいるんだ?


野営の跡がある感じ、こいつは一人じゃなかった


それにしてはゴブリンに奇襲を受けたが、戦わずに逃げて置いてかれたって感じだけど。


上位種でも出たか?

それにしても普通ならこんな事にはならないと思うが


うーん…わからん



詳しいことは後で聞けば良いか。



魔術師はというと、状況から見て


怪我の具合、頭部からの出血の量、見た感じ意識を保つのもやっとっていう感じか。


まぁ、直ぐには死なない状態ではあるけど、何が起こるかわからない


早急に救出したほうが良さそうか。



コイツを襲ったゴブリンは…

1、2、3、4、5…

全部で37




念のため魔術師の周囲にいるゴブリンの数を目視で確認をし、更に〈索敵〉で近辺にいるゴブリン以外の生物の存在を認知しておく


ゴブリンがどんな手を使ってくるか、ゴブリンを倒した後の事、あらゆる可能性を想定すると、木の上から地へ飛び降りる。



「やりますか 〈錬成〉」






……






この時、ゴブリンからはどう見えただろうか。


一人の男が上から降ってきたかと思うと着地したところの地面が陥没し


武器を装備していない状態なのに、何もない所から一本の武器を出現させ装備しているのを見てどう思うか。



「…〜♪、〜♪♪」



それはゴブリンにとって一瞬の出来事だっただろう


口笛を吹いていると思ったら、一回の瞬きの間に一瞬にしてその姿が消えた。


消えた場所から視線を外し、その姿を探そうとした時



ゴブリンの視点は天地が逆さまになった。



何が起こっているのか理解できずに困惑していると、目の前から消えたそいつの姿が瞳に映った。




その姿を見つけたゴブリンはそいつを己が握っているナイフで襲い掛かろうとした。



しかしゴブリンの体は動かない。



というか感覚がない。



この頭だけが宙に浮いているような感覚


何秒たったか分からない


自分の体に異常を感じたゴブリンは己の体を見ると、そこには自分の首から下の体が無かった。



その時初めて理解した時には遅かった。



天地が逆さまになった時、斬られていたのだ。



死ぬ直前にスローモーションのように時が流れ、死を回避できるか否かを選択できる時間というものがある。


このゴブリンは何度もその場面に出会し何度も修羅場を潜ってきた。


しかし今回それが無かった。



そいつの攻撃が速すぎてそれを感じることのできる時間が無かった。



気づいたら斬られていた。



それに気づいた時、自分の首の切断面から少しづつ血が流れ始めると魔物である自分にあるはずのない感情


恐怖を感じた。


逃げ出したい


でもそれができる体がない


ならばいっその事早く殺して欲しいが、もう既に切られているので死ぬまでの時間を待つことしかできない



そしてそいつは魔術師の周りを囲む37体のゴブリンの首を全て切り落とした


首から噴水のように血が吹き出ると胴体と首の傷口からパチパチ少量の火花が出ると


ゴブリンの体が発火し、ゴブリンの体は炎に包まれ跡形も無く塵と化して消えた。



「暇潰しにもならないな 〈錬成・解除〉」



右手に持つ剣は砂と化して消えた。


何もない所から一本の剣を出現させたように見えたのは〈錬成〉で創作した剣

地面から砂に含まれる粒子そして砂鉄が一点に集まり剣を作り出した。



武器を装備していなくても周りに素材があれば武器なんて作ることができる。


その常識はずれの光景を見たものは誰一人としていなかった。



それにたかが相手はゴブリン、屑鉄並みの武器で充分だった。




「やれやれ、魔術師の方は…

まだ大丈夫そうだな〈回復ヒール〉」



瀕死の魔術師へ歩み寄り、回復魔法をかけると身体中を襲っていた痛みが和らぎ魔術師の意識が少しづつ回復していく。



「よぉ、大丈夫か?」



声をかけて魔術師の意識がハッキリしているかを確認する。


魔術師は意識が戻ると顔を上げて、自分を救ってくれた人物へ視線を向けた。



「……あなたは?」

「通りすがりの救世主」

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