第2話 助けを求める声

「…やっと溜まったか」



眠ってからどれくらいの時間が経ったのだろう

目が覚めるともう朝になっていた。


あの後、結構長い時間寝ていたようで魔力も完全に回復した。


治癒魔法をかけ、あの激痛からようやく解放され全快すると体を起こし遠くを見る。



「はぁ」



何だろう、この虚無感は

全てを諦めたからか何もやる気が起きない。


はぁ ボーッとしてもしょうがない、とりあえず何かしよう

でもこの後どうするかは全く考えていない

ノープラン。



何をしようと思っても、周囲には何もないし


何もないというか、周囲が破壊され尽くしていて何も無くなっている。


抉れた地面に木々が全て折れていて凶暴な魔物が暴れた後みたいになり、生き物がいない。


この光景を誰かが見たら間違いなく魔物やったと思う。


思うかな?思うといいな



だがこれを誰かが見た場合、冒険者ギルドかどこかに報告をして


十中八九、調査隊がここへ向かってくる。



凶暴な魔物がいると報告を受けた場所に誰かがいれば…



……ちょっと自分の置かれている状況を理解した


あれ?

もしかしてこのままココにいたらヤバイ感じ?


まさか俺を見て魔物が人に化けてるとか、人型の化け物とか流石に思わないよな?


そこまでバカじゃないか。


ハハハッ


…不安になってきた


これを見てそんなバカなことを思う奴はいないと思うけど


ただ、これを見て「ここで何があった?」って質問されるだけだろう。


それで終わるかわからないけど。


…面倒だな。

一応この場から離れよう。


そうなると先ず…どうするか


何も目的がない、目的がなければ行くところがない、つまり何をしたらいいかわからない。


自由に生きるって言っても何をすれば良いのだろうか


暫く考えても一向に目的が見つからない。


……


取り敢えず立ち上がって適当に歩いてみよう。

今は自由だ


でもここは何もないから、せめて何かあるところまで目指してみる。


何も考えず無心で足を動かす。


…と気付いたら森みたいなところの前で止まる



「ふむ」



何も目的がない状況で、何をするか目的を決め、何かあるところまで歩き、そして今立ち止まる。



「〈索敵〉」



うーん


この森、魔物がうじゃうじゃいやがる。

正直、入りたくない。


虫が多いし、魔物が森の中でギャーギャーギャーギャーうるせんだ。



あー、鬱陶しい



この森一帯を消し…てもしょうがない


深呼吸して落ち着こう。


俺は「冒険バンザイ!!」って喜ぶようなやつじゃない。


こんな森に入って面倒ごとに巻き込まれても厄介だ


回れ右してどっか行こう。



だ……た…けて

…に……い




〈索敵〉を解こうとした時、微かな音が聞こえて来た。


音の発信源は、この森の奥。


魔物の鳴き声に混じって〈索敵〉に反応している微かな音というか、救済を求める声。



そして血の匂い。



「少し広げてみるか 〈索敵・中〉」



音の出所を鮮明に把握できるように〈索敵〉の効果を強める。


微かな音が鮮明に聞こえるように



(…たすけて、しにたくない)



……



人助けなんて何の得にもならない。


助けに行ったところで自分も死ぬかもしれないようなところに好き好んで行ったりはしない。


どんな状況でも困ってる人を助けるという正義の心など俺は持っていない。


負けたらそいつが弱かっただけで、命を落としたらそれがそいつの運命だっただけ。



あの時こうすればよかった。

こう動いていればこんなことにはならなかった。



こんな風に言い訳をする意味がわからない。

なら初めからそうすればよかっただろうに…


まぁ、失敗するなという方が無理だけどな


過去に俺も似たようなことを言われた



「 言い訳を探すな、そうなった原因を探せ 」



過去に言われたこの言葉が呪いみたいに脳に焼き付いている。

何故、今この言葉が浮かんだのか。



理由はわかっている。



何故、近くにいたのになぜ助けに行かなかった。

そう聞かれた時の理由を、言い訳を探しているからだろう。



わかってる、今俺は困っている人を助けることから逃げてちる

俺自身、逃げても良い理由を言い訳を探している。


言い訳を探し、自分の行動を正当化しようとしている。



だからと言って誰も逃げてはいけないとは言っていない。


俺は決して善人では無い、勝ち目がなければ直ぐに逃げる


でも一度逃げてしまったらそれが癖になり、何度でも同じように逃げてしまう。


その度にブッ飛ばされた


苦い思い出


だからどんな時でも逃げは最善の選択ではない


何て言ってるけど、俺は普通に逃げる。

て言うか全力で逃げたい。


でも逃げた時のあの拳骨が忘れられない


本当なら面倒事は極力関わりたくない、嫌な事は避けたい。


誰だってそう思う。


めんどくさい、行きたくない。


行ったところで何かあるわけでもない、助けてくれてありがとうと言われて終わり。


何も得しない

かと言って見捨てようにも罪悪感がある。


この感情がうざったい。



でもグダグダ言ったところで他にやる事がない。

暇だ。



はぁ…しょうがないなぁ



気乗りはしないけど森の中で助けを求める声のする方へ向かうことにした。

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