エピローグ 英雄は賛歌を越えて


「いよいよ……魔竜妃の卵が孵るのです」


 千年ぶりに帰った地上で新しい生活にも慣れた頃、巨竜星から託された卵の孵化が始まった。


 研究院のセンサーに囲まれて慎重に温められた卵は、一つ問題があった。


 殻の中身がこの時代の科学をもってしても解析できなかったのだ。


 万が一に備えて電子銃なんかで武装した機械兵に囲まれながら、アタシの目の前で小さなヒビがどんどん大きくなっていく。


 チセを含め研究員たちは強化樹脂ガラスの向こう側で固唾をのんで見守っている。


 パキッ パリパリ


 ついに卵のヒビが殻の破片を落とすほどまでに広がり、その中から粘液にまみれた腕が出てきた。


 ……腕?


 どう見ても人間の、子どものような、生っ白い腕だ。


「……うー、ん」


 背伸びをするように殻の中から出て全身を現したのは、まるで人間の少女のようだった。


「……! パパ!」


 ダッ


 卵から出てきた少女はアタシを見るなり飛びついてきた。


「ど、どうなっているのです?」

「アタシにも分からないよ! 何で魔竜妃の卵から人間の女の子が!?」


 一体何が起きているのか。

 アタシにはサッパリわからない。

 でも、わかるのは……。

 これからもっと忙しくなりそうだって事と、

 あの人に会うのはもうちょっと先になりそうだって事だ。


 世界の命運と引き換えに頼まれた、この魔竜妃の卵。その中から出てきた少女。

 どうなるか最後まで見届けるまでは、死ねそうにないね。


 それからどうなったか? いつか機会があれば話すとしようかね。


 それじゃ、ババアの長話に付き合ってくれてありがとうね。

 またいつか、どこかで。


 完

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ババア転生 Brave Beyond Anthem 雪下淡花 @u3game

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