最終話 ババアの帰還!


 ブッピガン!


 成層圏を抜けて落下するアタシと新たな魔竜妃を包んだ水晶体を、空飛ぶ巨大な鉄の巨人が掴んだ。

 な、何事だい!?


 プシーーッ


 鉄の巨人の腹が開き、そこから顔をのぞかせたのは全身をぴっちりとしたゴム状のスーツに身を包んだ、乳のデカいエルフの美女だった。


「バイルさん! お帰りなさい! この千年間、ずっと待っていたのです!」


 エルフの美女はアタシを見て声を弾ませる。

 参ったねえ、エルフの巨乳美女に知り合いはいないんだけど……。

 いや、このしゃべり方。


「もしかして、チセかい?」

「はいなのです! 今はこのモビルアクトレスのプリマなので……って言っても分からないのですよね。ええっと、どこから説明したらいいのでしょう?」


 うーん。

 たしかにチセが成長したらこんな感じになるのかねえ。ってぐらいの面影がある。

 とりあえずこのエルフがチセだとして。


「なんか、世界観が変わってないかい? なんかこう、メカメカしいというか」

「そうですねえ。前の魔竜妃がいなくなって人類の脅威がなくなり平和になったのと、巨竜星の大暴れで王都が壊滅して王政がなくなったことで民主化が進んでから急に文明が発達していったのです」

「そ、そうかい」


 まぁ、地球でも中世から千年経ったら現代を追い越しちまいそうだし。

 ロボットがいてもおかしくないかねぇ。

 ハイテクだねぇ。

 ババアはついていけないよ。


「それで、バイルさん。千年の時を経てこの惑星エアルトに帰ってきたはずの巨竜星の姿が昨日から急になくなってバイルさんが落ちてきたのですけど……何かあったのですか?」

「あぁ、それね。とりあえず地上に着いたら話そうか。この新しい魔竜妃の話もあるしさ」

「ええっ!? それ、魔竜妃なんですかぁ? 前に見たのよりすっごくちっちゃいのです!」


 なんて話しながら、アタシはチセの操るロボットの手に掴まれながら、久しぶりのエアルトの地上に帰ってきた。




「おおっ、あれがチセ様の言っていた伝説のお方……!」

「我々のご先祖様か!」

「かっこいい! 英雄の歌の通りだ!」


 地上に着くと全身ぴったりの銀色のタイツのような服に身を包んだ人々がアタシとチセに手を振る。

 そこは巨大なビルが立ち並ぶ大都市で、人々は宙に浮くボードのようなもので行き交っていた。


「ちょいとチセ、こりゃどういう事なんだい?」

「はい? なにか気になることがあったのです?」

「聞きたいことはたくさんあるけど、アタシがここの人たちのご先祖さまだって?」

「はい! バイルさんが旅立った後にジルエットさんが生んだお子さんがそれはそれはプレイボーイで。そこらじゅうの女の人と子どもを作りまくったのです。世界を救った英雄の子どもという事もあり皆さん喜んでバイルさんのお孫さんを産みましたのです」

「な、なんだってぇ!?」

「……かくいう私も、19人ほど……。それからはもうバイルさんの家系は国中に広まって……」

「も、もういいもういい! ああまったく、なんてことだい」

「でも、ジルエットさんはとても幸せそうでしたよ。ものすごくたくさんの孫に囲まれて、みんなに愛されていました」

「あ……」


 そういえば。ジルエットには何も伝えていなかったね。

 急にいなくなっちまって、種だけ残して、アタシとしたことが悪い男になっちまったね。


 なんだか、時代に取り残されちまうってのは淋しいもんなんだね。

 チセがいてくれなかったら、アタシだってまたこの世界に受け入れてもらえていたかどうか。


「そういえば、魔竜妃の卵はどうするのです? 焼くのですか? 封印するのですか?」

「どっちもノーだよ。千年の間に色々あってね。アタシが育てたいんだ」

「……ええっ!? 魔竜妃を? ダメ、ダメなのですバイルさん! 危険すぎるのです!」

「そこを何とか頼めないかね。アンタが前の前の魔竜妃と因縁があったのは覚えてるけどさ」

「むむむぅ~~」

「ホラ、科学が進歩したこの世界なら小さい魔竜妃ぐらいならバリヤーで何とか抑え込んだり、さ」

「むむぅ~~。バイルさんの頼みなら、仕方ないのですけど。どうしてなのです? 千年かけて巨竜星をやっと倒したんじゃなかったのです?」

「それがさぁ、千年も一緒にいるうちに情が移っちまったっていうか。頼まれて約束しちまったからっていうか……アハハ」

「むぅ~。バイルさんがそういうのなら、いいのです。防壁が厚い区画の住居を申請してみるのです」

「すまないねぇ、手間をかけて」

「ホントですよぉ。……でも、こうしてまた会えたから良いのです」


 チセは赤く染まった頬を隠す様に銀色のバイザーをかける。

 耳まで真っ赤になっていたのは隠せていないけどね。


「バイルさん。私はバイルさんに頼まれた約束を果たしたのです。カンシャしてほしいのです。例えば、頭を撫でてくれるとか!」

「約束……?」

「あーっ! 覚えてないのですか!? バイルさんが巨竜星に旅立つ時に言われて、それで私はバイルさんの冒険を歌にして語り継いできたのに! なのです!」


 チセは両手をブンブンと振り回して抗議する。

 ぴっちりしたスーツごとたわわな胸が目の前で暴れて目のやり場に困ったよ。


「ふうん、歌ねぇ。ちょっと聞かせてくれるかい?」


 アタシが話を振ると、チセは毒気を抜かれたようにおとなしくなってもじもじと両手を胸の前てすり合わせ始めた。


「う……いいですけど、笑わないでほしいのです」


「もちろん」


「じゃあ、歌います。聞いてください。題名は……」


 ~Brave Beyond Anthem~


 終

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