第21話 ババア大勝利! 希望の未来へ?
「フシュルルルルル!」
「ギイーッ! ギイーッ!」
羽根がある異形の騎士たちは空を舞う。
羽根が無い異形の騎士たちは赤いピラミッドと化した異形の騎士が作った逆三角形の足場から足場へ飛び移る様にして巨竜星の頭部へ向かった。
「うぅ……高いねぇ、怖いねぇ。恐ろしいねぇ……」
アタシを乗せたフリッツも食欲に駆られるまま巨竜星に向かって突き進み、地表を離れていく。
異形と化したフリッツには関係ないのかもしれないけれど、生身のアタシはどんどん体の表面が凍り付いていった。
「さ、さむ……やば……」
寒さへの身支度を何もしていなかったせいで、うっかり呼吸をしたら鼻から肺から全部凍っちまったよ。
もう声も出せないねぇ。
いっそ全身凍っちまった方がいいんじゃないかって思ったところで、
パンッ!
隣を飛んでいた鳥型の異形の騎士が気圧の変化に耐えきれずに破裂した。
ひええ……おっかないねえ。
なんなんだいこれは。
戦うどころじゃないじゃないか。
アタシは軽率に巨竜星討伐に乗り出しちまったことを後悔したよ。
そんなアタシたちに助け舟を出すつもりではないだろうけど、アタシたちの接近に気付いた巨竜星がわざわざ頭を垂れてこちらに近づいてきてくれたよ。
あぁ、ありがたいねぇ。
バクンッ!
……え?
食われた?
アタシたちのすぐ隣を飛んでいた緑色の牛頭巨人が、岩の塊のような巨竜星にあたりの空間ごと食われた。
こいつ、デカいのに速いね!
巨竜星は何度も首を振ってあたりの空間を何度もバクバクと噛みつくように食っていった。
もしかしたらアタシたちの姿はコイツには見えてないのかもしれないねぇ。
なにせ巨竜星は全長1000キロメートル。
対するアタシたちは大きくても12メートル程度。
宙に舞う小虫程度にしか思われていないかもしれない。
それでも巨竜星の子である魔竜妃を殺された恨みはしっかりと刻まれているようで、アタシたちが発する魔竜妃のオーラを頼りにあたりをがむしゃらに攻撃してくる。
こんなヤツにどうやって勝てって言うんだよォ。
アタシはフリッツの上で凍りついたまま弱腰になった。
でもフリッツは身の危険よりも食欲が勝ったようで、巨竜星の中でも一番柔らかそうな眼の部分を見つけて飛びつくことに成功した。
おお! やるじゃないかフリッツ!
食欲の執念が掴んだチャンス、無駄にはしないよ!
***
巨竜星に張り付いたフリッツは目玉を食い破ろうと必死に牙を立てている。
異形化したフリッツの体長10メートルに対して巨竜星の目は直径3キロメートルはある。
そうなるともう、だだっ広いガラス張りのドームの隅っこに針で細かく傷をつけるようなものだ。
まるで歯が立たないのにフリッツはただ食欲に突き動かされて噛みつき続けている。
そこへ更なる幸運か、なんと巨竜星が自らの爪で目を引っ掻いた。
フリッツを倒すために巨竜星は目のあたりを何度も掻き毟り、ようやく巨竜星の爪はフリッツを捕えた。
巨竜星の爪はアタシを乗せたフリッツごと目の中に突き入れられた。
フリッツは体の半分をぐちゃぐちゃにされながらも、ついに巨竜星の体の一部である目の水晶体を食べることに成功した。
バギバギバギ、メギメギ
フリッツの体が急に大きくなる。
内側から新しい魔物がフリッツの体を引き裂いて出てきたようにも見えるけれど、ついにフリッツは悲願であった巨竜星食いを達成したのだ。
フリッツは巨竜星の力を取り込んで更なる変異を遂げた。
巨竜星は眼球の中から突然巨大な魔物が生まれたことに驚く。
巨大化したフリッツは更なる肉を求めて暴れた。
フリッツだったモノは巨竜星の目玉や顔半分を内側から食い荒らす様に飛び出して、さらにさらに巨大になっていく。
ついには全長10キロメートルに達しようかというところで、巨竜星から思わぬ反撃を喰らう。
苦しみから逃れようと、巨竜星はエアルトの大地から宇宙へがむしゃらに飛び去る。
そして巨竜星は眼球の中で暴れるフリッツを鷲掴みにして、頭部を握りつぶした。
巨竜星の肉を食べるために異形化したフリッツは最期に願いをわずかに叶えた後、巨竜星に葬られ肉塊と化して宇宙空間に弾き飛ばされてしまった。
一方のアタシはというと、フリッツが眼球に押し込まれたときに巨竜星側に引っかかってフリッツから引きはがされていた。
巨竜星の体温のおかげか、アタシの体を覆っていた氷も解けて何とか動けるようになっていた。
人体としては死んでいるけれど、魔竜妃から得た魔力と転生ボーナスの超再生能力で動いているだけなんだけどね。
アタシは巨竜星の目の中で、どうしたものかと思案する。
すると、あたりに異変が起きたのに気付く。
巨竜星は魔竜討伐隊が奪った魔竜妃のオーラがあたりから消えたことに安堵したのか、復讐は果たしたと言わんばかりに活動を休止する。
既にエアルトから飛び去った巨竜星は、また元の軌道に乗ってゆったりと宇宙を漂い始めた。
アタシは巨大な眼球の中に寄生しながら、巨竜星の遥かな千年の旅に付き合う事になったと気付いた。
もちろんアタシは元から覚悟を決めていたよ。
思っていたのとは違うけれど、計画通りだね。
実はこうなることを想定してチセには頼みごとをしていたんだ。
エルフなら危険な目に遭わない限り千年後にも平気で生きているだろうからね。
アタシが巨竜星をなんとかして帰ってくるまで、アタシたちが住んでいた惑星エアルトの事をよろしく頼むと。
宇宙へと飛び立った巨竜星の中で、アタシは巨竜星に語り掛けた。
「さて。やっと二人っきりになれたね、巨竜星。アンタの事は全部聞いたよ。またエアルトにたどり着くまで千年。先は長いんだ、仲良くやっていこうじゃないか」
ってね。
返事は返ってこなかったけど、眼球ごとほじくり出されるのだけはまぬがれたみたいだった。
返事が返ってこなくても、アタシはゆっくりと腰を据えて巨竜星に語り掛ける。
長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い千年の旅が、ここから始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます