第7話 ババアもやるときゃやるんだよ!

 バクリ!


 飛びかかってきた鳥型の魔物はアタシの上半身を噛み千切った。

 ババアは死んだ。


「なんてね、そんなんじゃ死なないんだよォ!」


 この世界に転生してきた時にもらった不死と再生のスキルのおかげで、アタシは上半身と下半身が真っ二つになっても死にはしなかった。

 アタシを食べて飛び上がった鳥型の魔物を体の内側からメッタ切りにしてアタシは脱出、落下。

 アタシの下半身が追いかけて来てジャンプ。空中で合体した。


「バ……バイルさん?」

「アタシのことは気にせずにアンタは呪文唱えてな! でっかいヤツぶっぱなすんだろ?」

「は、はいっ!」


 チセは簡単に張った結界の中で改めて魔法を構築していく。

 アタシが時間を稼いで魔物を引き付ける間にチセが魔法を撃つ。そういう作戦さ。

 そうこうしている間にもアタシに向かってくる魔物を処理する。


「まったく、食い意地が張った奴らだねえ! そんなにこのババアを食いたいのかい!?」


 イノシシのような獣型の魔物が飛びかかってくる。魔竜妃の肉を食いまくったせいか、ふさふさの毛皮を突き破る様に背中からドラゴンの羽根が生えかけたヤツだった。


「動きが単調なんだよォ!」


 突進を真上に交わしながら剣を振り下ろすと、そいつは剣に頭からぶち当たって勝手に縦に真っ二つになった。

 体が左右に分かれながらも走るのをやめず、内臓をまき散らして中身が空っぽになったらバランスを崩して倒れた。

 胃袋の中身もあたりにばら撒かれる。見たかないけど、エルフの残骸みたいなのもあったね。


「……気分が悪いねぇ」


 チセは魔法に集中しているから気付かないようでよかったよ。

 アタシは大きな動作で魔物の気を引きながら近づいてくるやつを切り伏せる。

 でも、だんだん手数が足りなくなって気付いた頃には両肩と足に魔物が噛みついていたよ。


「バイルさんっ……!」

「チセ! アタシごと撃ちな!」

「ふえっ? そんなこと」

「さっきの見たろ? ちょっとやそっとじゃアタシは死なないから安心しな!」

「は、はい!」


 アタシは魔物を抱え込みながらチセと魔竜妃の射線上に交差する。

 魔力を込め終えたチセが結界を解除して魔法を放つ。

 宙に浮いた魔法陣がひときわ赤く輝いた。


「ファイヤーボール!」


 ゴオオ


 周りの空気を焦がしながら炎の塊が飛んだ。

 こっちに向かってくる。


「オラッ、逃げんじゃないよ!」


 さすがに炎が迫ってきて魔物は逃げようとするけど、魔物の頭とアタシの体を剣で串刺しにしてつなぎとめる。

 やれやれ、焼き鳥にでもなった気分だよ。

 なんて自重している間に、


 シュボッ


 アタシの体は炎に包まれて黒こげになった。

 噛みついていた魔物は体の表面が炭になって地面に落ちる。

 アタシはすぐに再生して、炭化した自分の体の内側から脱皮でもするかのように無傷で生還した。


「キッ、キャアア!」


 アタシの姿を見てチセが悲鳴を上げる。

 なんだい、そんなに不死が珍しいかい?

 と思ったけど叫んだ理由はそれじゃないらしい。

 チセの魔法でアタシの服はものの見事に焼失していた。

 つまりアタシは全裸になっていた。


「ハァ。こんなことなら鉄のパンツでも穿いておくんだったよ」


 アタシは地面に落ちている鳥型の魔物の羽根をもぎ取って腰に巻き付ける。

 そのまま魔竜妃に向き直るけど、どうやら作戦を変えた方が良いみたいだねぇ。

 せっかくチセが撃った魔法も、魔竜妃の周りにいた魔物を少し減らすことはできたみたいだけど魔竜妃そのものにはダメージが行っていないみたいだったよ。



 ***


「クソッ、キリがないね!」


 かれこれ30分は戦っていただろうか。

 魔竜妃を追いかけながらチセが魔法を撃ち、魔力をためるまでの露払いをアタシがする。

 何度やっても魔物は一向に減らないし、魔竜妃もチセの魔法なんて気にしていないかのようにまっすぐ這いずるだけだった。


「チセ、どうする? ここらで手を引くかい?」


 一旦魔竜妃から距離を取って作戦を立て直すことにしたよ。

 チセの魔法は弱いわけじゃない。その威力はアタシが身をもって知ってる。

 それでも全然足りない。格が違うって奴だった。さすが魔物の親玉だねぇ。

 周りの魔物だって、倒しても倒しても周りから集まってきてちっとも数が減りゃしない。


「手を尽くしてきて、落ち着いてきただろう?」

「……まだ、諦めたくありません!」

「そうは言ってもねえ。そろそろ町に戻ったジルエットから話を聞いてギルドのやつらがこっちに来るよ。そいつらに任せた方が良いんじゃないかい?」

「……」


 チセは黙ってしまう。

 でもその目は全く諦めていない。

 考えているんだね、他の手を。

 アタシが見守っているとチセは瞳に決意を灯して顔を上げたよ。


「あります、手は。バイルさんを危険な目に遭わせてしまいますが」

「いいね、やろうか」

「えっ、いいんですか……? 私まだ何も」

「さっきから散々その魔法で魔物ごとアタシを殺してたろ? 次は何をすればいいってんだい?」

「バイルさん……」


 チセはハッと目をこちらに向ける。

 色白の肌だけに頬が紅潮しているのがまる分かりだ。


「あー、なんだ。とりあえず言うだけ言ってみなよ。できる限りの事はするさ」

「はい……実は」


 チセが提案した最後の作戦。そりゃもうブッとんだものだったよ。


「自爆ぅ!?」

「はい……私の全魔力を込めたブレスレットを魔竜妃の腹の中で解き放てば……内側から爆破できるのかと」

「一度食われろってことかい!?」

「はい、そういうことに……」

「ひょええ……恐ろしいねぇ。この子。恐ろしいことを平気で言うね」

「お願いします! バイルさんならあいつの腹の中に飛び込めると思うんです!」

「そりゃそうだけど……アタシが逃げる時間はあるのかい?」

「ないです。ブレスレットを引きちぎった瞬間に魔力が暴走してすべてを吹き飛ばします」

「とんでもない、恐ろしいねぇぇぇぇ!」


 アタシが若干引いていてもブレスレットを差し出してくるチセ。

 この子もしかして倫理観ってもんがないのかねぇ。

 まあ、人間とエルフだし、知り合ったばかりだからねえ。

 仕方ない。捨て駒になりますよアタシゃ。


「お願いします! 両親の、村の皆のかたきを取りたいんです!」

「わかったわかった。ババアもやるときゃやるんだって所を見せてやろうじゃないのさ」


 アタシはチセのブレスレットを受け取って左手首につける。

 チセの全魔力を込めたそのブレスレットは青白い光を放って今にもはじけそうだったよ。


「ありがとうございます。貴方に私の想いを託します」

「仕方ないねえ。確かに預かったよ」


 アタシたちはあらためて魔竜妃に向き直る。

 距離にして200メートル。

 自爆魔法の為に魔力を使い果たしたチセを置いて、アタシは魔竜妃の口に向かって回り込むように走り出した。



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