第2話 転生ババアの幼馴染!?
「バイルーっ! まだ寝てるの!?」
アタシが汚れてガビガビになったパンツを洗っていると、家の外から大きな声で呼ぶ女の子の声がした。
バイルとしての記憶をさぐるとすぐに思い当たる。
あれはきっと幼馴染のジルエットだね。
冒険者になると意気込むバイルをなにかと冷やかしてからかってくるようだけど……。
「バイル! いるんでしょ、返事ぐらい……って、キャーーーー!」
家の中まで上がり込んできたのは、ツインテールにまとめた赤毛と気の強そうなつり目が似合う可愛い女の子。
バイルの記憶によると、名前は……ジルエット。
ジルエットは下半身丸出しでパンツを洗うアタシを見て顔を真っ赤に叫んだ。
男の子のハダカぐらいで……と思ったけれど、同い年の女の子には刺激が強すぎたかもしれないねえ。
「おやおや、ジルエット。ダメじゃないか急に上がり込んできちゃ」
「あっ、ご、ごめ……。じゃなくて、このっ変態っ!」
「なんだって? 困った子だねえ。勝手に来たのはそっちじゃないかい。アタシの都合の考えておくれよ」
「な、なによ。随分と余裕じゃない。……でも、そうよね。ごめんなさい。私が悪かったわ」
「ふふ、素直に謝れる子は好きだよ」
「す、好きっ!? ~~~~~っ!?」
ジルエットは真っ赤になった顔を手で覆う……けれど指の間からしっかりとアタシの体を見ている。
さてさて、いつまでも下半身丸出しでは風邪を引いちまいそうだよ。
「ジルエットや、外で待っていてくれるかい? そんなに見られたら恥ずかしいよ」
「さっきから何、その変な喋り方……。わかったわよ、家の外で待っているから早く出てきなさいよね!」
ジルエットは顔を背けて後ずさる様に部屋を出ていった。
記憶ではジルエットはバイルの幼馴染で同い年の魔法使いの家系で……バイルよりも一足先に冒険者になったみたいだね。
この年頃だと女の子の方が成長は早いし、家柄の都合で親の期待に応えるために冒険者になったみたいだけど……。
それでバイルの冒険心に火がついてしまったみたいだねぇ。
幼馴染の女の子が憧れの冒険者に自分より早くなってしまって、焦っていたんだね。
それをジルエットにからかわれて……。
あぁ、アタシにはわかるよ。ジルエットはバイルに危険な目にあって欲しくないんだね。
だから冒険者を目指すのをやめさせようと意地悪をしてくるんだね。
マァ、バイルはジルエットの意図なんて分からないから結構本気で嫌がって対抗心を燃やしていたみたいだねぇ。
そのせいでさっきみたいにいがみ合う会話が当たり前になっていたんだね。
ふぅん。
なんだか孫の恋愛模様を見守っているようでほっこりするねえ。
でもねえ、アタシはどうやらこの世界でやらなきゃいけないことがあるから、冒険者をこのまま目指していきたいんだよ。
アタシは洗った下着を干して代わりの服を着て、愛剣のショートソードを脇にさして家を出た。
冒険者ギルドから見習い用の簡単なクエストを貰うことになっているんだったね。
経験値を積んで、早く世界中を旅できるほどの冒険者にならないと。
アタシはジルエットに冷やかされながらも守ってもらい、いくつものクエストをこなしていった。
それから月日が流れ、アタシは戦士として成長していった。
***
「15歳の誕生日おめでとう、バイル!」
「ありがとう、ジルエット」
この新しい世界エアルトに生まれついて15年、ババアとしての記憶を思い出してからは3年が経った。
数々のクエストをこなしていくうちにこの世界の事も分かってきた。
この世界では何年かに一度、大きな災害に見舞われる。その周期はだいたい千年。
天から災いが降ってくるとも言われ、その度に活性化するモンスターたちに人々の住む領域が脅かされているのだとか。
この世界の若者は皆、人々の暮らしを守るために冒険者になって日夜を問わずモンスター狩りに励んでいる。
バイルとジルエットが住む田舎の町でもそれは同じこと。
若者は早ければ10歳、遅くても15歳には冒険者として地元の冒険者ギルドに属して町を守るか、世界各地の冒険者ギルドを巡って旅に出るのだ。
アタシはこの世界の事をもっとよく知りたくて15歳になったら旅に出ると決めていた。
その事を前々から言っていたのでジルエットもすっかりその気で、どうやらアタシの旅についてくるらしい。
ジルエットにはこれまでずっと助けてもらっていたからねぇ。
それにジルエットの心配を押し切って冒険者になったんだ、今更ジルエットの身の上を心配して彼女だけを地元に置き去りにはできなかったよ。
「ねえ……バイル。明日には旅に出るのよね」
旅に出る前夜。町の馬車駅に近い宿屋にアタシとジルエットの二人で泊まって小さなお祝いをした。
明日の朝はもう早い。馬車で何日もかかる隣町への出発は日の出と同時になる予定だった。
「ああ、そうだねえ。世界を一通り見て回る、長い旅になるね」
「……正直に言うと不安だわ。説得に苦労したお父様もお母様も最後には納得してくれたけれど」
お祝いのパイを乗せたテーブルを囲んで、ジルエットは弱弱しくため息をついている。
「大事な娘だもの。親は子供が何歳になったって心配するけど、子供のやりたいことを信じて応援するのも親心ってやつさ」
「もう、そうやって茶化して!」
「茶化しているわけじゃないんだけどねえ」
「達観して見透かされているようで気恥ずかしいわ」
ジルエットのまなざしがアタシの……バイルの中のババアの事まで目を凝らすような視線にたじろぐ。
これが、恋をする少女の瞳なのかもねえ。
「……歳相応の意見を言っているだけさ」
「バイルは不安じゃないの? 冒険をしてモンスターと戦っていたらいつか死ぬかもしれないのよ」
「死にに行くために旅をするわけじゃないからね。世界を見て回ったら生きて帰ってくる、それまでの事さ」
アタシは呑気を装って軽く答える。
ジルエットには申し訳ないけれど、アタシはモンスターとの戦いで死ぬことはない。
これまでの簡単なクエストの中でわざとモンスターにやられてみたこともあるけれど、どんなに傷ついても転生ボーナスの効果で死ぬことがないし、首がもげてもスライムに全身を解かされても生き返れることはわかっていた。
こんなチート能力、悟られるわけにはいかない。
アタシの為に命を懸けて守ってくれる女の子がいるんだからね。
でも、この能力では自分の身は守れてもジルエットの事は守れない。
だからこの世界の事をもっと深く知って試練の謎を突き止めるまでは危険なことはしないつもりだよ。
そういう意味で、生きて帰ってくるというのは本当に願っている事さ。
「お気楽ね。あんた一人じゃ心配だから、仕方なくついて行ってあげるわ!」
「荷物がしっかり揃っているのに、今さら言う事かい?」
「んもう! 意地悪ね」
アタシのお気楽な態度に気分が紛れたようで、ジルエットはもりもりとお祝いのパイをほおばり始めた。
それ、アタシのお祝いなンだけどねぇ。
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