第11話 来ない助け
座っている間は見える情報からこの家が置かれている状況を理解しようとした。けれど、情報が少なすぎて化け物の行動理念や周りの人がうつむいたまま座っている理由は分からなかった。決まったことと言えば、どうしても化け物と戦うことになってしまった場合、座っているイスの足で気持ちが悪い両目を同時に一突きにしてやろうということだけだ。
サイズがでかいということで力だけで勝てるイメージが湧かないし、化け物は同じ姿勢で座っているのが辛くなり、少しけつを浮かせて座る態勢を変えただけでギョロリと顔をこちらに向けてきた。そして、最後は人間の言葉を喋って出て行った――。知能が低そうな化け物から意味のある言葉を聞いた時は鳥肌が立ち、先走って何か試すことはせず黙って耐えて正解だったと心から思った。奴はたぶん一筋縄ではいかない。
化け物が出て行くのを見送った後は重い移動音が上に遠ざかっていくのが聞こえた。二階へ行って、ナオキの真上ぐらいで移動音は止まりそこから聞こえなくなった。
「ふう。お前がちゃんと座ってくれていてよかった。まだ気を抜くなよ。またすぐ降りてくるかもしれん。だがまあ、小声でなら話の続きはできる」
男が顔を寄せて、小声で語りかけてきた。
「……あれは何ですか?」
「あれが何なのかはまだ俺にも分からん。そういえば、自己紹介がまだだったな。俺はカズオ。お前と同じで100億円に目がくらんでこんなところに何日も閉じ込められている」
「……ナオキです」
ん?何日も?ナオキは引っかかったが様子を見ることにした。カズオと名乗ったこの男をしっかり見定めよう。
「まずは俺がここにいる間に分かったことを簡単に説明してやろう。まずこの家からは出られない。霊的な力ってやつなのか窓もドアも開かない――そして脱出しようとしたことがさっきの化け物にバレたら殺される。化け物は日が暮れると活動が活発になる。今日は少し動き出すのが早かったなあ。奴が活発に動いている間はじっとここに座っておかないといけない。ここまでいいか?」
「はい」
ナオキはいくつか疑問に思っていることを置いといて、言われたことを機械的に頭に取り込んだ。
「そんな状況の中でこの家――というか空間というか、脱出して十の部屋がある空間に戻ることが俺たち2人の目的だ。俺は何日も脱出の糸口が見つけられてないが1人ゆえに調べたいが調べられてないことがある。そこでお前と協力したい」
話しているときに言葉が詰まることはなく、要点だけをさらさらと述べていく様からカズオはバカではなさそうだと思った。しっかり自分の目を見ているし、頭の中の思考を整理する動きとともにカズオの手が動いているのでたぶん嘘もついていない。
「やっぱりここは家と呼べるようなところなんですね。ここに来る前の場所から空間がめちゃくちゃだ」
「強い霊は空間をも支配する……何かのオカルト本でそんな言葉を目にしたことがあるな」
「僕がここに入ってきたのは何時頃でしたか?」
「17時30分くらいだ。暗くてよく見えないだろうがそこに時計がある」
「さっきも聞きましたが、一緒に洋館に来た茶髪の女性を知ってますよね」
「いたなあ。あいつはなぜいつまでも部屋に入ってこない?別の部屋から奥の部屋から挑戦でもしてるのか?」
ちゃんとユミコのことを知っている。何日も部屋の中、俺が入ってきた時間は体感だが正午を過ぎたあたりのはず。強い霊は空間をも支配するか……時間も支配、いや別世界にでも移動させられたのか。
カズオもまだそれに気づいてないだろう。あとから入ってきた自分にしか分からないことだ。
「彼女は恐怖で一つも部屋に入ってません。あなたを信じるので協力の内容を教えてください」
「そうか。あの子も誰も助けに来ないからイチかバチか1人で挑戦しようとしていたところお前が来てくれて良かったよ。……いいか、少し気になることがあって、夜の間、化け物が動いてる間に調べたいことがある。そこでお前に化け物と鬼ごっこしてもらって一秒でも長く時間を稼いでほしい」
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