ヘルメス2
最敬礼を見届けたあとヘルメスはすたすたと歩き始めてしまった。私も無言で後について行く。
「おい、ここ危ないから捕まれ。」
「分かった。」
先程と同じように腕を組み体を寄せ付けるようにする。
「ヘルメス?」
「あ、あぁ。しっかり掴まれよ。」
ヘルメスは私を近づけると肩に掛けてしまった。
「へっ!?う"っ、わあぁぁぁっ!」
次の瞬間、ヘルメスは跳んだ。いや飛んだの方が近いだろう。
「う"ぅ。」
あ、ヤバい。
「ヘルメス。」
「あ"?」
「吐く」
・・・
「いや、ちょっと待てーーーー!!!!!」
「もう無理限界‥‥‥。」
「あと10秒で着く!あと10秒!!!!!なんとかもってくれー!!!!!」
なんとか吐かなかったがヘルメスは完全に萎えている。その様はまるで
「萎びかえった胡瓜にそっくりだな。」
「くっそぉぉ~~~!この不信心者~~~!」
「お前を信仰していないだけだ。それにギリシャ神の中だったら一柱だけ信仰しても良いって神は居る。」
ヘルメスはぐちぐち言いながらも手を引いて行った。多分20分は歩いたであろうそこには今だかつてないほど大きな穴があった。いや、穴と言うよりブラックホールに近い。
「おい、ここに入れとでも言うつもりか?」
「ここ以外に何かあると思っているのか?」
質問に質問で返されたがそのときは全く気が付かなかった。
「いや、死ぬ。かなり確実に死ぬ。」
「死なない死なない。大丈夫。ここはすべての時、場所、可能性が集まる所。ここに入っても死ぬことはない。どれかに入り生まれ変わるだけだ。」
「絶対か?」
「100%。それは保証する。それでも信じられないならそうだな……。これを。」
ヘルメスは腰につけた旅行鞄から何かを取り出し、私の首からたらした。
「イーブルアイ。ギリシャのお守りだな。」
「旅人の守護神からの贈り物だ。モイライに導かれてそこにつくまでこれが守ってくれる。だからほら恐れるな。飛び込め。旅の守護神であるこの僕が守ってやる。」
「傲慢なことだな。だが、私はお前みたいな奴結構好きだぞ。」
「はっ!物好きだな。じゃあな。」
「あぁ、じゃあな!」
私は穴に背を向け倒れるように落ちた。風は私の肌を切り裂くように流れ、体は少しずつ削れていくように小さくなっていく。
目を瞑れば思い出せる。友人、家族、そして‥‥
「凰ちゃん。」
目も眩むような恋人の微笑み。
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