五、

 翌日の午前九時。検死の結果が出たということで土屋班の面々は一堂に集められた。出勤したばかりの御伽もまた、眠そうに欠伸をこぼしながらホワイトボードを囲む。

「遺体の首の圧迫状態と骨折具合から見て縊頸いけい、つまり首吊りで間違いはない。ただ、科捜研の方から上がっている報告によると、衣服に付いた汗の量と質、体液の漏れ具合から、入浴と排泄は済ませていた可能性があるとのことだ」

 首吊りの現場だった割に、本来なら漂ってくる悪臭がそれほど酷くなかったことを御伽は思い出した。香水によって匂いが打ち消されたというだけではなさそうだ。

「胃の内容物には、夜食として口にしたと思われる海老が検出された。酒を飲んでいたようで血中のアルコール度数もかなりのものだ。意識レベルは相当低かったといえる。この件は他殺と見ていいだろう」

 争った形跡はないので、酔って意識が混濁している相手を促して首を吊らせた、と考えるのが妥当である。

「あと、被害者ガイシャは余所行きの格好をしていました。服装だけでなく髪も纏めてあったんで、一度入浴を済ませているなら、外出前か、誰かを招く予定だったんでしょう。夜食もその相手と一緒に取った可能性があります」

 手を挙げながら発言した御伽に、周囲の刑事達も神妙に頷いた。

「それから、昨日報告しましたが、オーデトワレの件を考えると、共犯者の可能性も視野に入れておいた方が良いかも知れません」

「共犯者がいるなら証言も互いに示し合わせているだろう。各自、相手を見極め、これまで以上に慎重に捜査に当たってくれ」

 そう言って土屋が号令を出すと、表情を改めた刑事達が一斉に返事をし、それぞれに割り振られた役目を持って執務室を出て行く。御伽も倣って外へ出ようとしたところで、土屋の引き留める声が掛かった。

「御伽。頼まれていた資料だ」

 手渡されたのは、月島姉妹が遭遇したという交通事故に関する報告書だった。

「俺も確認してみたが、お前の読み通り、どうもキナ臭いものを感じた。気付いたことがあれば報告しろ」

「了解っす」

 ファイルに目を通していた御伽は、トラック運転手の自供が記された部分を視界に入れると、僅かに口角を上げた。



 この後、資料を片手に御伽が真っ直ぐ向かったのは科捜研だった。デスクに着いた安藤の背後で、パソコンのモニター画面をじっと眺める。

「お前、こんなところにいたのか」

 自動扉の向こうから金森が厳めしい顔でやってきた。少し息が乱れているところから察するに、随分と探し回ったのかも知れない。

「月島君枝と伊吹菜々子の事情聴取に行くんだろ。何やってやがる」

「『ちょっと科捜研に寄ってから行くんで、車で待っておいて下さい』ってメッセージを送ったはずなんすけど」

「あ?」

 訝しんだ金森は懐からスマートフォンを取り出して画面を見る。明らかに表情が変わった様子から、メッセージが確認出来たようだ。

「こんなの気付く訳ねえだろ」

 金森は苛立たしげに吐き捨てた。頻繁に画面をチェックするタイプでもなければ、確かにメッセージが届いても見落としそうだ。御伽のような通信ツールに依存気味の若者とはやはり異なるのだろう。

 とはいえ、彼に合わせるのも面倒である。目を吊り上げて「大体お前は」と説教を始めようとする彼に溜息を吐き、適当に聞き流した御伽はモニター画面に視線を戻す。彼女の真剣な空気に何かを感じたようで、金森も怒鳴るのを止め、安藤の後ろに回った。

「何を見てるんだ?」

「大阪府警に協力を要請し、王地夫妻が宿泊していたホテルの監視カメラの映像を送って貰いました」

 いつの間に、と御伽の答えに驚愕を浮かべた金森が、齧りつくように画面を覗き込む。そこにはホテルのフロントが映り、大勢の宿泊客が行き来している様子が早送りで流れていた。

「どういうことだ? あの二人のどちらかがホテルを抜け出してたってことか?」

「それを今、確認してるんす」

 冷静に返した御伽であったが、次の瞬間には「少し巻き戻して」と鋭い声で注文した。数分巻き戻され、今度は通常再生で流れる映像を見て彼女は指を突き付ける。

「准ちゃん、これ」

 指差したものを安藤が拡大すると、ぼんやりとした人の顔が現れた。この状態で人相の判別は難しいが、明るい金色の髪は誤魔化しようもない。解析度を上げて明確化していけば、ほんの数秒ではっきりと幸成の顔が浮かび上がった。

「午後十時半。車なら何とか間に合うな」

 金森が緊迫した様子で言った。

 大阪から東京まで車を使えば六時間は掛かる。しかし、深夜を過ぎれば車の通りも少なくなり、スピードも上げやすい。休憩なしで走れば全くの不可能とはいえないはずだ。レンタカーを借りて現場まで急行し、紀和を殺害した後に真っ直ぐ戻れば帰りの飛行機の時刻に間に合う。

「と、思うでしょうが、よく見て下さい」

 金森の推理を予測した上で、御伽はまたも画面を指した。動き出した映像では、幸成であると判別された人影は確かに一度出口の方へ向かったが、すぐに戻ってきた。隣にはもう一人存在している。女性であるのは分かるが、背格好から見て美紀ではなさそうだ。

「拡大してみて」

 彼女の指示に合わせて安藤が拡大すると、その人物の顔が露わになった。

「どういうことだ。月島君枝だと?」

 ひっくり返ったような声を上げた金森は、唖然としてモニターを凝視する。

 再び動き出した映像の中で、二人は親密そうに寄り添い、エレベーターの方へ向かって行った。幸成が君枝の肩を抱き寄せ、頻りに耳元で何かを囁いている光景があった。これを見れば、二人がどういう関係なのかは一目瞭然であろう。

「早送りして」

 御伽に言われて安藤が操作し、再び掛かった「ストップ」の声に映像を止めた。

 時刻は翌日の五時十五分。幸成に寄りかかって歩く君枝の姿があった。君枝が証言した帰宅時間と明らかな差異がある。

「アリバイが崩れたのは幸成さんではなく、君枝さんになりますね。といっても、どちらにしろ犯行は不可能っすけど」

 思いもしなかった状況を見て呆気に取られている金森を放置し、御伽は指を鳴らして安藤の傍にあったタブレット端末を指差した。

「准ちゃん、それちょうだい」

「はいよ」

 渡されたタブレット端末を脇に抱えると、御伽は何処となく得意げな顔で振り返った。

「金森さん。そろそろこの事件の全貌が見えてきたんじゃないっすか?」

「は、え?」

 残念ながら全貌どころか一片も辿り着けていなかったらしい。ここまで来て察しの悪いことに、御伽は「マジっすか」と呆れた顔を金森に向ける。

「分かりました。取り敢えず現場へ行きましょう。今度こそ、彼らも全て話してくれると思いますよ」



 午前十一時。御伽達は今回で三度目となる月島の屋敷へ足を踏み入れた。

 昨日の今日ということもあり、君枝は仕事を休んでいたようで在宅だった。伊吹と揃って話を聞くにはちょうど良い。前回と同じように二人と向かい合う形で聞き込みを行うことになった。

「非常に残念なことに、君枝さん。そして伊吹さんも。以前の事情聴取で嘘を吐かれましたね」

 御伽がそう切り出すと、君枝は気まずそうに視線を逸らした。

「ホテルの監視カメラの映像を確認しました。幸成さんとの関係は察しています。改めて、本当のことを伺えますか?」

 決して強い言い方ではなかったが、御伽がじっと彼女を見つめると、君枝は観念したように俯いた。

「ほんの出来心でした。若い男から口説かれて調子に乗ってしまったんです。主人を裏切るつもりなんてなかったのに……」

 ぐっと堪えるように唇を噛み締めた君枝は、自身を落ち着かせるためか、深く息を吐いてから続きを口にした。

「幸成さんと初めて出会ったのは、彼がまだ学生だった頃です。営業で走り回っていた時に街中でぶつかってしまって、その際に履いていたパンプスのヒールが折れて、彼が弁償してくれました。綺麗な子だという印象はありましたが、学生相手に何かある訳でもなく、ただそれで終わる一度の出会いのはずでした」

 ところが、美紀の結婚が決まった際に、挨拶に訪れた幸成と思わぬ再会をしたらしい。

「彼は、あの日から私のことを探していたと言い、破棄したと思っていた靴を修理して持ってきました。跪く幸成さんにどうしてもと頼まれて、仕方なく昔のパンプスを手ずから履かせて貰いました。変わらずに自分の足がぴったりと入った時、幼い頃に読んだ童話を思い出して、不覚にもときめいてしまったんです」

 君枝は自嘲の笑みをこぼした。気の強そうな見た目をしているが、女性らしくロマンチックな場面に憧れるところがあるようだ。

「それから何度も愛を伝えられました。美紀とのことは自分の意思ではないと、目の前で泣き崩れることもあって。同情もあり、食事くらいなら、と軽い気持ちで応えるようになりました。それがいつしか雰囲気に呑まれて……」

 どう言い繕ったところで不貞を働いたことに違いはない。本人も理解しているのか、これ以上は誤魔化す様子もなかった。

「事件当日も幸成さんと会っていらっしゃいましたね」

「あの時、主人が殺されると分かっていたら行きませんでした!」

 君枝は悲鳴のような声で叫んだ。だが、すぐに我に返って「すみません」と謝罪する。よく見ると、両手を組んで震えている。何かに怯えているようにも思えた。

「帰宅時間について伊吹さんと口裏を合わせていましたが、それは何故っすか?」

 御伽の問い掛けに君枝は口籠って答えない。代わりに伊吹が口を開いた。

「旦那様が亡くなった日に奥様が朝帰りをしたなど、醜聞になってしまいかねない、と愚考して私が話を合わせるように進言しました」

「それで防犯カメラやドライブレコーダーにも細工を?」

「奥様のプライバシーを守るためです」

 白々しい。最初の事情聴取で君枝を疑わせるような発言をしていたのは伊吹自身である。それを忘れたかのように「奥様のため」と言って胸を張る伊吹は、素晴らしく面の皮が厚い。

「ついでに君枝さんに罪を擦り付けてしまおう、ということっすかね」

「まさか」伊吹が慌てて首を振る。

「奥様の帰宅時間は誤魔化しましたが、私が屋敷に入った時間は嘘ではありません」

「確かにそうでしょう。午前六時に出勤するまで屋敷に近寄ってすらいない。カメラにもしっかりと映っています」

 疑うようなことを言いながら、すぐに伊吹の発言に同意した御伽に拍子抜けしたらしい。伊吹はほんの一瞬言葉を詰まらせたが、ホッとした表情を浮かべた。

「え、ええ。そうでしょうとも」

 けれど、御伽がそれだけで追及の手を緩めるはずがなかった。平坦な声で付け加える。

「何故ならあなたはその時間、大阪にいましたからね」

「な、何を言って――」伊吹が目を見開いた。

「最近の科学技術はかなり発達していましてね。警察の捜査にも随分と便利になったんすよ」

 御伽は話しながらタブレット端末を取り出して画面を向けた。そこには任意で提供された伊吹の顔写真が映し出されている。

 何の真似かと眉を寄せる伊吹に、御伽の冷ややかな視線が突き刺さった。

「どれだけ化粧で誤魔化して変装しようと、素顔が明かされてしまうんすよ。伊吹さん。……いえ、桐山小百合さん?」

 指で画面をタップすると、写真の色調が変わり、人相が変化していった。画像処理によって化粧を落とした状態を予測しているのだ。

 見る見るうちに顔付きが変わっていく。地味めのメイクだと思えていたものは、随分と厚いマスクであったらしい。

 現れた顔は、伊吹とはまるで別人のものだった。どちらかといえば、化粧をしていない方が華やかな顔立ちだ。血の繋がりを証明するかのように、伏し目がちの目元が美紀に似ている気もする。

 女性の普段の顔とすっぴんが異なることは珍しいことではないが、特殊メイク並みの変貌を遂げれば誰でも驚くに違いない。

 ところが、化粧に詳しくない男性の金森だけであるならまだしも、なんと君枝までが絶句していた。いつも顔を合わせていながら気付かなかったようだ。恐らく亡くなった紀和も同様に。それだけ化粧に手が込んでいたということだろう。

「美紀さんの証言と、君枝さんから伺った話から、桐山小百合という女性に興味を持ったんす。それで、少しお話を伺えたらと思って足取りを探ってみたんすよ」

 隣で金森が驚くのが気配で分かった。何も相談せず勝手に行動したので当然といえば当然だ。きっと後でどやされるだろうが、御伽は気にすることなく、顔色を失くした伊吹を見据えて話を続ける。

「すると、どういうことか、解雇されてからの桐山さんの目撃情報が掴めませんでした。行方不明というのでもないらしく、捜索願も出されていません。国民年金や健康保険も毎月支払われている。さて、何処へ行ったのか。広域手配に切り替えようかと思ったところで、伊吹さん。あなたの人相と一致しましてね」

 とはいえ、聴取の時点で伊吹が変装している可能性に気付いていた御伽は、真っ先に科捜研で桐山との顔認証を依頼していた。足取りの調査は裏取りのためにしたようなものだ。敢えてそこまで説明する必要はないだろうと判断して詳しくは省いた。

「解雇された桐山さんが変装して君枝さん達の傍にいるというのは、あまりに怪し過ぎます。今回の事件の容疑者としてカメラの映像を徹底的に洗い直しました」

 御伽の声はいつも通り淡白ながらも、言い逃れを許さぬような迫力があった。それに怯んだ伊吹は身動ぎもせずに固まっている。

「証言通り、退勤してから翌日出勤されるまで伊吹さんが屋敷に近付いたところは映っていませんでした。映像に細工した様子もない。裏口も確認していますが、同様におかしなところはありません」

 そう。細工した痕跡が一つもなかったのだ。となると、ある一点において辻褄が合わなくなってしまう。金森がハッとして口を開いた。

「カメラが細工されていないとすると、防犯カメラに映っていた君枝さんの存在について説明がつかなくなる。ドライブレコーダーにも君枝さんの姿が映っていたが、本人ではありえない。彼女は大阪で幸成さんと会っていたからだ」

「そういうことっす」

 金森も漸く理解が追いついたらしい。

「カメラに映っていた君枝さんの姿は、伊吹さん……いや、桐山さんが変装していたってことか? だが、さっきお前は桐山さんが大阪にいたと……」

「はい。実はホテルのカメラに桐山さんの姿が映っていたんすよ」

 御伽はもう一度タブレット端末を操作して、別の画像を映し出した。監視カメラの一場面を切り取ったものだ。

 時間は午後八時十五分。幸成がフロントに現れるよりも前になる。スライドさせると、その中の一人を拡大したものが表示される。

「は?」金森が声を上げた。「ちょっと待て、御伽」

 画面を見つめていた彼は困惑したように御伽を制止する。

「これは桐山さんじゃない。美紀さんだ」

 金森の言う通り、拡大された人相は確かに王地美紀のものであった。これを桐山と称した御伽に戸惑っているらしい。

「いいえ、金森さん。これは桐山さんで合っています」

 再度、タブレット端末の画面を操作すると、写真が左にずれ、新たにもう一つの写真が右側に並んだ。同じく美紀の顔である。

「こちらが本来の美紀さんっす。二つの写真を認証した結果、残念ながら一致することはありませんでした」

 実際に横に並べると、二つが全く異なることが肉眼でも確認出来る。雰囲気が似ていてパッと見では騙されそうだが、見比べると違いは明らかだ。別人がメイクでそう見せているだけだと分かる。

「どういうことだ。桐山さんがどうして美紀さんの姿でここに――」

 疑問を口にする途中で金森は理解したようだった。ハッとして顔を上げ、桐山を凝視する。

「入れ替わりか!」

 ついに彼が答えに辿り着いたのを見て、御伽は口角を上げた。

 桐山が美紀の格好をして大阪のホテルにいるのであれば、本物の美紀は何処にいるのか。考えられるのは東京、実家となる屋敷だ。

「カメラに映っていた君枝さんの映像も改めて確認しました」

 御伽はタブレット端末の画面に、防犯カメラに映っていた君枝の姿を映し出す。本人と見比べると、違いは一目瞭然だ。顔付きも確かに異なるが、体型が明らかに別人だった。凹凸のはっきりした君枝と、写真に映るスレンダーな女性とでは、同一人物と考えることは不可能だろう。

「桐山さんと入れ替わるように大阪を発った美紀さんは、東京へ着くと、君枝さんに変装して実家へ戻った。紀和さんの身なりから考えて、事前に会う約束をしていたのかも知れません。家族の前で着飾る必要はありませんから、恐らくは別人として」

 予想では愛人か風俗嬢コールガールでも装っていたのではないかと考えている。深夜遅くに妻のいない家に呼ぶとなると、そういう相手の可能性が高い。

 君枝がいる手前、はっきりと口にはしないものの、御伽は内心溜息を吐いた。パートナーがいながら他で発散しようとする男の気が知れない。とはいえ、君枝も不倫をしていたことを思えばお互い様だ。似たもの夫婦といえる。

「争った痕跡がないことから、泥酔させて意識レベルが低くなっている紀和さんを誘導して、首を吊らせ、殺害。朝方出勤してきた桐山さんと入れ替わるように、再び君枝さんのふりをして屋敷を出た」

 顔色を失くして俯いている桐山を見据えながら御伽は淡々と語る。

「出勤後、桐山さんは寝室に残った美紀さんの痕跡を消すために掃除をしていますね」

 不自然なくらい綺麗に整えられたベッドも、首吊りした遺体から垂れ流れるはずの体液から漂う異臭が少なかったのも、誰かによって手を加えられたのだと考える方が違和感もない。

「二重にオーデトワレを噴き掛けたのも、美紀さんの残り香がご遺体に移っていたからではないでしょうか。残念ながらそのせいで第三者の関与を裏付けることになりましたが」

 桐山は反論することなく、項垂れたように頷いた。これ以上は誤魔化せないと悟ったようだ。

「そんな、美紀が……ずっと伊吹が殺したのだとばかり……」

 唖然と呟く君枝に視線を向ける。

「自身が疑われることになると分かっていて彼女に口裏を合わせたのは、脅されていたからっすか?」

 我に返った君枝はちらりと桐山を窺うと、苦々しい顔で肯定した。

「幸成さんのことを問い詰められ、『黙っていて欲しければ警察には指定した通りに答えるように』と言われました。主人を殺した相手だと思っていたので、怖くて逆らえず……」

 彼女が桐山に怯えた様子を見せていたのもそれが原因だろう。御伽は納得して頷いた。

「なんてことだ。御伽、すぐに美紀さんの確保に――」

「ご心配なく。警部達が向かっています」

 立ち上がろうとした金森に対して、御伽はいつも通り冷静に返すと、スマートフォンを掲げ、土屋とのやり取りを見せる。そこには御伽の推理に納得したらしい土屋が王地金融まで急行し、確保までの流れが記されていた。

「俺だけ除け者かよ!」

 不満そうな金森を前に、御伽は首を傾げる。

「いや、これうちの班のグループメッセージっすから。寧ろ、なんで金森さんだけ読んでないんすか」

 御伽の問い掛けに目を見開いた金森が急いで取り出した自身のスマートフォンを確認する。画面にいくつもの通知が届いているのが御伽からも見えた。彼はメッセージをざっと読み返すなり、力なく肩を落とす。何処となく打ちひしがれているようでもあった。

「金森さん。もうちょっと現代のツールに慣れておいた方がいいっすよ」

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