第3話「水滴」

 手洗いを借りるという口実で応接間を出て、軽く探検するつもりで邸内を歩き回った。つややかに磨かれた長い廊下を、ゆっくり進む。

「おや」

 これはうぐいすりならぬ水琴窟すいきんくつ


 コン、カン、カロン、ピチッ、カラ、コロロン……。


 底に穴を開けた素焼きの甕を逆さにして地中に埋め、狭い隙間を通って落ちた水滴が下に置かれた盆に当たると、ポロポロと音色を奏でる仕掛け。うんと繊細で儚げな、か細く、たどたどしいグロッケンシュピールのような音がする。他に誰もいないので、床に伏せて耳を押し当て、聴き入った。

 心地よさに、しばらくまどろんでいたらしい。起き上って元の部屋へ戻ろうときびすを返した。


 チリン、シャラン、リリン……。


 しかし、どこから水が流れてくるのか、まったく見当がつかない。


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