第2話「黒鍵(こっけん)」

 その屋敷の応接間にはアップライトのピアノがあった。あるじの孫か、それとも曾孫か、レトロな坊ちゃん刈りの少年が視線も合わせず会釈して椅子に腰掛け、背筋を伸ばして鍵盤蓋を開けた。すると、どうしたことか、まるで。しばし我が目を疑った。すべての鍵盤が黒一色。

 しかし、少年は何食わぬ顔でショパンの練習曲を弾き始めた。細流がキラキラと陽光を反射しては時折弾けて飛沫しぶきを上げるかのような音色。滑らかなゆびさばきの、素晴らしい黒鍵こっけんのエチュードだった。




*雰囲気画⇒https://cdn-static.kakuyomu.jp/image/4dzJlvsR


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