SF
お題:サイコロ、種実、狩人
天のルビコン川
無数の星々が輝いて
「
「
事実上の宣戦布告。
それでも軍隊を連れて
それが
「
しかし
宇宙で
ふわふわとどこかに飛んでいってしまって、1分もたたないうちにどこに行ってしまったのかわからなくなった。
「カエサル将軍、それはいったいどういう意味なのでしょう」
ブルータスといってもデキムスの方でマルクスの方ではない。マルクスの方と言ったら
「もう後戻りはできないということだ。結果はいずれ出てしまう」
地球なら誰もが納得したに違いなかった。しかしここは宇宙だ。
「
これには
「ではこういうことにしよう。もう投げてしまったのだから進むしかないという意味だ」
「しかし無限に進むならいつまでも私たちの進軍の勝利は定まらないことに」
それもこれも、
「お気付きでないかもしれませんが、だいたい8億と4千万年は
「なぜわかる」
「
「
「ローマが燃えている」
「赤方偏移です」
「スペクトルの
「頭がおかしくなったか、ブルータス」
「つまりまとめると、現在もローマは遠ざかり続けています」
「なんと」
遥かなる宇宙の膨張が
「追いつくにはどれほどの速度がいる」
「およそ光速の65%ほど」
「馬で出せるか」
「無理です」
万事休す。
「諦めよう、ブルータス。ここで畑でも作ろう。そうして兵たちとともに生きよう」
「良い考えかと」
兵の一人が糧食からタネを選り分ける。
しかし
宇宙には大地がないのである。
「これでは兵糧が尽きてしまう」
「しかしすでに8億と4千万年はもちました」
精強な1万の軍勢の1日の消費カロリーはだいたい3千万キロカロリーで、つまり1年では200億キロカロリー。それが8億年で1600京キロカロリーに達する。
ライ麦パン7京個分のカロリーを消費したはずだ。いつのまにそんな量のパンを運んだのだろうか。ガリアにそんな数のパンがあったとも思えない。
「やむなし、動物を狩ろう」
なるほど星空にはたくさんの動物たちがいた。クマとかワシとかカニとかとにかくいろいろな動物がいた。
むろん星座の姿をしていたが。
「
「
神をも恐れぬ
「将軍お待ちください」
「なんだブルータス」
「いま矢を放ったとして、あの牛を射止めるのに何万年もかかります。ともすれば……」
「また赤方偏移か」
しかし
「あの巨体を1本では倒せまいな」
将軍が腕をあげると、1万の兵が素早く弓を構えた。
「放て!!」
振り下ろした腕の先に、矢の壁が突き進んでゆく。いくらか離れるとそれは雲のようにも見え、やがて一つに集まって点となり、そして消えていった。
「……私は
「将軍、時間が失われているのです。
たしかに星々の輝きは流れを失っていた。
ルビコン川を渡ることはできたが、ローマにたどり着くことはできない。
「私は星座にでもなってしまったのか? あるいは神にでも?」
「いえ、強いて言えば『場』になりました。カエサル場とでもいいますか」
「カエサルがルビコン川を渡って『賽は投げられた』と言ったというエネルギー場になりました」
「しかし将軍、量子化しているなら光速に近づけるかもしれません」
「そうなのか」
しかし「カエサルがルビコン川を渡って『賽は投げられた』と言ったというエネルギー場」を加速して天のローマ方面に射出する実験の計画書は時の権威によって突っぱねられた。
「神はサイコロを振らない」
——アルバート・アインシュタイン
カエサルは後悔した。
なぜ賽を投げてしまったのか。
コインにしておけばよかった。
なぜ神になったなどと口走ったのか。
独裁官くらいに留めておけばよかった。
まるで星座を読むように、書物を読むように、石碑を見るように、その事実は永久の時の中で観測され続ける。
もはや後戻りはできない。
賽は投げられてしまったのだから。
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