第3話 苺100%【前編】

なんでわたしが?

それが率直な気持ちだった。


29年間、男にフラれたことはなかった。

だいたいわたしに好きな男ができ、わたしにフラれた男がストーカー化する。


それがテンプレだったのに。


3週間前、突然

「君が成長するまで距離を置きたい」


と彼氏の斎藤(33)から告げられた。


わたしの頭ははてなマークでいっぱいだった。

成長?距離?

「はんっ」思わず笑いがもれた。


斎藤に好きな女ができ、しかし、別れ話がもつれるのがめんどくさかったため

「距離」という言葉に逃げたにちがいない。


なんでわたしが。斎藤なんかに。


斎藤は福祉系の管理職だった。高卒ですぐに福祉業界へ入り、以来15年間、同じ会社に身を捧げ続けている。


正社員にもかかわらず、新卒並の給料、名ばかり管理職、サビ残祭りの彼を

わたしは心底では好きになれなかった。


彼にだまって、婚カツパーティーへ出席したり、相◯屋に出向くのもしょっちゅうだった。


完全に格下だと思っていた彼からの、不意討ち右ストレートだった。


距離 別れ 言い訳

元カレ より戻す


のワードで毎日Goo◯le先生にお尋ねしていたわたしは


あるとき

今すぐ復縁叶います の文字を見つけた。


すぐさまアクセスすると

「占い charisma」の文字と共に、いかにもといった装いの占い師たちのパネルが並んでいた。


電話占い 1分200円

メール占い1通1300円


料金は占い師ごとに違っていた。高額な占い師は、人気の証か。

「占いか・・・」

もともと占いは好きではあったが、女性誌の星座占いをチラ見する程度で


本格的な占いを見るのは初めてだった。


初回 3000円分ポイントプレゼント!!!

心が踊った。


1回200円の占い師なら、15分電話できるのか。


「電話してみようかな・・・」

わたしは早速占いサイトに登録し、愛恋(あいれん)という1分200円の占い師に電話をかけた。


ぷるる・・・ぷるる・・・


「はぁーい!こんばんわぁ!あいれんと申しますー!今日はご縁をありがとうございますぅー!」


とても柔らかい、年配の女性の声色だった。


「あ、あの悩みがありまして」


こういうとき、咄嗟になんと言えばよいのかわからず、少し口ごもった。

「はぁい。恋のお悩みですよね?彼氏さんと喧嘩しちゃいましたかぁ?」


「えっ?!?」

かなり、衝撃だった。なぜ、わたしが斎藤と喧嘩・・・というより、距離をとられたことを、あいれんは分かったのだろう。


「は、はい!そうなんですよ!!実は彼氏に・・・3週間前に距離をとりたい!と言われてしまって!!」


「うんうん。そのとき、彼氏さんから他になにか言われましたよねぇ?」


「はい!!君が成長するまで、距離を置きたい、と」


「うん・・・ちょっと霊視しますね」

それまで穏やかだったあいれんの口調が、少し、緊張をおびた。


「・・・・」沈黙が続く。


なにを言われるのだろうか。初めての経験に緊張が高まる。


「うん。わかりました。」

あいれんの声が戻る。

わたしは息をのんだ。

「彼は別れるつもりなんかないの。」


あいれんは続ける。


「あなたに、愛されていないと思い始めたのね、彼は。そして、あなたに愛してほしいと思い始めた。でも、今のままじゃ、きっとあなたは自分を見てくれない。だから、距離をとることによって、あなたが追いかけてくれることを、強く望んでいるのよ。」


・・・なーんだ。やっぱりか。

わたしは思わず、ほくそえんだ。


わたしがフラれるわけないもん。


全て合点がいった。わたしに対する態度が少しずつ素っ気なくなっていったのも、ドタキャンが多くなったのも、全部そういうことね。


かまちょか。案外、可愛いとこあんじゃん、斎藤のやつ。


「やっぱりそうなんですね!!いやー安心しました!!」

思わず安堵の声をもらした。


そこに、初回3000円分ポイントを、まもなく消費します、という音声が流れる。


「あ、すいません!ポイントなくなってしまうので、またお電話しますね!ありがとうございました!」


慌てて、電話をきったが、わたしの心は満足感で溢れかえっていた。


なんだか、今日はゆっくり眠れそうな気がした。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る