case 2:“シンデレラ”というお話
「どんな話……? と言いますと?」
漠然とした質問の意図を掴めず、フレッドは首を傾げる。
「じゃあ、参考までに私の考えを言おう。私にとって“シンデレラ”という話は……まあ、ざっくばらんに言うと真実の愛を求める話だ」
「ほう……そうなのですか」
フレッドは思わず、『その口の悪さと思考回路からそんな乙女らしい考え方がでてくるとは』と言いそうになったが、流石に口に出す勇気はなかった。
そんな事は露知らず、“灰被り”の居る館を見て花菱はすらすらと続けた。
「実母を亡くしたことによって失った家族の愛。それを経て見たのは、実父の遠巻きに見守るような愛。義母や義姉の権力に溺れた愛だった」
「……そういった解釈をしているんですね」
「ああ。そうだな」
フレッドは前言を撤回したい気分だった。花菱の口から出てくる、そのさっぱりとした立ち振る舞いのままの
「そうではない、と思った彼女に訪れた転機が城での舞踏会だ。多くの人々在り方を見ると共に、国の王子であれば正しい愛の在り方を知っているのでは、と考えた」
「……成る程」
「それで、最後には王子とめでたく結ばれる。失った愛を自らの手で取り戻したって訳だ」
そこでふうっ、と一息を吐く。と、花菱は視線をフレッドに向けた。
「まあ、本人がそう思っていたかどうかは知らないが……私はそう感じたという話だ。さて、君はどうかな、フレッド」
「……そう、ですね」
顎に手を遣り、考える。その様を花菱はただただ見つめる。
「俺にとっては、幸せを掴む話だと思います。血の繋がりがなくとも、家族である者に虐げられる不遇。そこから運良く王子に見染められ、愛と幸せを掴む話ではないかと」
思ったまま、フレッドは一般的な“シンデレラ”に対するイメージを語った。勿論自分自身の考えとも一致するものである。
(思ってたよりも常識人だったな)
出会い頭に恐れられるわ号泣されるわで先行きが不安だった花菱だが、この答えには満足そうに満面の笑みで返す。
「よし、とりあえず大まかな概念的捉えからは合致しているな。第一段階クリアだ」
その言葉に、考える素振りを見せた後にフレッドは合点が入ったように顔を綻ばせた。
「……嗚呼、成る程! そういうことでしたか」
花菱が“シンデレラ”という話に対する概念について共有を求めたのは、物語の世界というだけあって、
「なんだ、気がついてなかったのか? これからも精進するように」
故に、求める結末や物語に対する概念が重要となる。もし、意見の相違や例えばの話、『私こそが“シンデレラ”にふさわしい』なんていう概念が混ざれば、
「ははは、耳が痛いですね……」
こればかりは、お互いに世間一般に近しい認識を持っていて良かったという話だ。
「さあて、次に必要なのは情報と道具、だな」
ぐーっと
「ミス・ハナビシ。情報とは、どういった内容のもので?」
泣くという行為をした
不思議そうに尋ねる彼は、呆れ混じりながらも花菱はしっかりと説明をする。
「そりゃ、この
「そうですね。とりあえずは様子を伺いつつ、一般的なものを基礎に立ち回るのが最適でしょうか」
「まあな。だが、もう少し手掛かりが欲しいところだ」
花菱が空を見ると、夕暮れまでまだ時間がある空の色合いだった。だが、現実世界と同じように時間が流れるとは限らない。
(出来る限り短い時間で、出来る限り多くの策を講じて置かなければならないな……)
下唇を軽く噛んだ。そして、花菱は次の布石を打つ。
「時にフレッド君。君は、どこまで絵本を読むことができた?」
「俺は確か……、シンデレラが魔法使いと出会う所まででした」
義母と義姉が舞踏会に出かけた後、あの優しさの権化のような魔法使いに出会うところで――フレッドは、ぱっくんちょされた。
しかし、そこまで読んでいたその内容で、花菱は確信する。ちゃんと上手く立ち回れば、この
「よくやったフレッド。これで残酷コースは選択外になったし、加えて私たちの立ち回りについても確信した」
「お役に立てて光栄、です?」
イマイチ自身が提供した話に有用性を見出せず、フレッドは疑問形で返す。すると。
「はあ……、説明しよーう」
一つ溜息を吐いた後に花菱は語り出した。
「因果応報の理を取り入れたグリム童話版の原作が、一番子どもには読み聞かせられないよ! な義母義姉の残酷エンド持ちだ。……だが、これには魔法使いは出てこない筈なんだ」
「しかし、ミス・ハナビシ。沢山の作品の中、魔法使いが追加されてリメイクされている可能性があるのでは?」
「――そこで重要なのは、
そこには、他の作品で魔法使い入りでリメイクされている可能性があるが、今回の
「どの年齢層に向けたかは分からないが、絵本なんだ。もし、大人向け残酷エンドにするならば、原作準拠にするのが妥当だろう」
花菱が言えた口ではないが、おとなになってまで魔法使いという曖昧な存在で、物語を進める必要がないからだ。
「と考えるとだ。我々を喰いやがった
終始理論的に自身の思考を言語化した花菱。その推理とも言える考えに、ただただフレッドは感服する他なかった。
初めて見るものだった。そして、魔術司書として有るべき最終形態を見せつけられた気分だった。
「流石。
「……いずれ、この位出来る様になってもらわねば困るぞ、フレッド君」
その素直な感嘆の言葉に、少し間を開けて花菱は告げた。ぐしゃぐしゃと頭を掻くと、彼女は独りでにこれから作るべき道具を脳内でリストアップする。
「じゃあ、日が暮れる前にさくっと道具作りといこうか」
「! 道具、というのは」
話している間にようやく勘を取り戻してきたのだろう、今度はフレッドも予想がついているようだった。
「かぼちゃの馬車に、白馬。美しいドレスにガラスの靴、ですね?」
「ああ、そうだとも」
ニヤリとした笑みを、花菱は浮かべた。
「我々に割り当てられた
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