らのちゃんと鈴ちゃんが王女様に絡まれる話
七条ミル
らのちゃんと鈴ちゃんが王女様に絡まれる話
とある昼下がり、どこかの図書館に二人の女の子がいました。一人はその図書館の司書で、もう一人の女の子に、楽しそうにらのべの話をしています。もう一人の女の子は、頭にきつねのお耳をぴょこぴょこさせて、楽しそうに話を聞いています。
司書の女の子は鈴ちゃん、きつね耳の女の子はらのちゃんと言います。
今度はらのちゃんの番です。らのちゃんも、一生懸命に鈴ちゃんにそのラノベの魅力を伝えます。
と、壊れかけたと思ったら直っていたiPhoneを持った女の子が二人が話し合う向かいに座りました。名前を、リイエルちゃんと言います。リイエルちゃんは、壊れかけたと思ったら直っていたiPhoneを巧みに使い、お気に入りのネット小説をプレゼンします。その周りには――と言っても図書館全体なのですが――きっと見覚えのある赤髪の先輩とか、あとは透過を失敗したのかな、と思ったらインナーカラーだった作家の女の子、どれがメイン腕なのか分からないラノベ作家の右腕が千切れてそうなったらしいサメっぽい何かとか、足の短い犬とか、とにかく色んなのがいます。
「ちょっと待ちなさい! なんであたしが居ないのよ!?」
図書館に突如として、けたたまし――失礼しました。とても大きな声が響きました。それはたぶん、とってもとっても優雅な声でしょう。
一斉に、視線が声の発せられたほうに、入口の方に向きました。
そして、らのちゃんが代表して声を上げました。
「ラノベの王女様!?」
気づいたら、らのちゃんと鈴ちゃん以外すすっと消えてしまいました。まるでゲームからログアウトしたかのようにです。
らのちゃんも鈴ちゃんも、困ってしまいました。王女様がそのまま帰るとはとてもじゃないけど思えません。
「とりあえず、図書館で騒がしくしちゃダメなので、どこか場所を移しましょうか」
らのちゃんが言います。でも、鈴ちゃんは司書、お仕事中です。
鈴ちゃんが手を挙げようとしたそのときです。らのちゃんが、その手を掴みました。
「一緒に行こう! ……えへへ」
「らのちゃん……!」
「そういうところよ本山らの!!!!!」
らのちゃんと鈴ちゃんには、そこには存在しえない赤いバカでかい文字を見た気が、多分気のせいです。
「バカでかいってなんなのよ!?!?」
場所は変わってここはとある神社です。扁額には当然、「羅野神社」と書かれています。
石畳の上で、美少女三人の鼎談の始まりです。
「あ、本山らの、パンツ見えてるわよ」
らのちゃんが、懐に手を入れました。指が半分見えるくらいまで手を出して、そして王女様はその奥にきらりと光るメタル栞を見ました。
鈴ちゃんがふふ、と笑いながらそのメタル栞を押し込みます。
「それにしても! あたしもとうとう企業案件よ!」
今はそういう話しないでください。
「うるさいわね!」
「王女様誰と話してるんですかね?」
「さあ」
らのちゃんがふーふーふふーふっとふわふわな鼻歌を歌います。ふわふわな歌に乗せられて、ついつい王女様もふわふわです。まるでメロンパンの中にメロンが入ったよう。
「はっ! 騙されちゃダメ!」
「どうしたんですか?」
「本山らの! そのメロンみたいな——」
「メロンパンみたいな、なんですか?」
「ふんっ、やめておいてあげるわ!」
もう王女様、何が何だかわかりません。これはどちらかと言うとマンゴーの入ったメロンパンです。
「メロンパン引き合いに出せばいいとか思ってないわよね?」
思ってないです。
「王女様誰と話してるんですか?」
鈴ちゃんが不思議そうな顔をします。
「知らないわよ」
「知らない?」
王女様はそうよと吐き捨てて立ち上がって、座りました。
「行かないんですか?」
らのちゃんが問います。王女様は、黙ったままです。
「…………もしかして」
鈴ちゃんが呟きました。
「何よ」
「いやー、王女様ってらのちゃんだいすきなんだなあって」
「ッ」
声にならない小さなカタカナの「つ」が漏れます。らのちゃんが、少しだけニヤリとします。
「そんなんじゃないわよ!!」
王女様は、あっという間に走り去ってしまいました。
らのちゃんと鈴ちゃんが王女様に絡まれる話 七条ミル @Shichijo_Miru
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