二二六一日目

目を瞑って、心を無にする。ゆっくりと息を吐いて、止めて、自分の中にいるその気配に意識を集中させる。

わたしの持つストップの陣をアルバに貸し与えて、さらに数年が経った。

彼は今、座禅を組んで、目を瞑っている。

なんで、こんなこと続けてるんだっけ?

彼を見守りながら、不意にそんな疑問が頭に浮かんだ。

そう自問自答するたびにたどり着く回答は、いつも同じだ。

ただ現実逃避してるだけだ、って。

だってそうだろ。

わたしとアルバに、明るい未来はない。

被害者と、加害者の関係だ。

それがわかってるのに、もう彼とここで暮らし始めて、六年ほど経った。

状況は、芳しくない。

「お?」

突然アルバの両目がぱっちり開いた。

「どうだった先生?」

興奮した様子でわたしに駆け寄ってくる。

そんな子供みたいにはっちゃける彼を前に、わたしはため息交じりに言った。

「うん、ちゃんとできてたよ」

彼の表情がみるみる笑顔になっていった。

「いよっしゃああああ!」

突然大声を出したかと思えば、わたしの手を掴んで振り回す。彼は涙目だった。

「ありがとう……! 成功したんだなっ!」

泣いて、喜ぶほどのことなのか。

大げさだなと思ったけれど、彼のあまりにも嬉しそうな顔を見て、だんだんわたしまで可笑しくなってきてしまった。

「良かったね」

笑ってやると、彼はまんざらでもなさそうな顔で頬を掻いた。

憎まれ役が聞いて呆れる。

すっかり、彼に殺されるなんて目的は薄まっていた。

でもこういう風に熱が冷めてしまうことは過去にもあった。

熱心にこの呪いの解除方法を解き明かそうとしていた頃、わたしはかつてないほど情熱を注いで魔術の研究に没頭していた。たった一人で、何十年も、何百年も考えて、苦悩し続けてきた。

情熱はいずれ鎮火する。時間は人を堕落させる。

彼を痛めつけるって行為が、思ったほど面白くなくてすぐに飽きてしまった。

これからどうしよう、と考えていた頃、魔法を学んでいく中でアルバの成長と共に、彼の喜ぶ姿を見てきた。

悪くない気分だった。

次はこれにするか、と思った。

また飽きるまで、アルバを相手に教鞭を執るのも悪くない。

だからきっと、わたしはまだ先生をしている。

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