お家に帰るまでが冒険です。

第40話 王都にて。




「ねぇ、本当にスルーとかしちゃうわけ?」


「そう思うだろ?実際ずっとスルーだったし、今回も言った通りだったろ?」



 ちょっとだけ…うとうとしただけのつもりが、すでに王都の中である。

 王都まで護衛してくれてた騎士団の人も、衛兵の検閲になんの疑問も持たずに、爽やかに別れていった。


 一般的な街でも街の入り口と、貴族街への入り口には衛兵の詰所があって持ち込まれる荷物や為人ひととなりなんかを軽く確認するんだ。

 だって貴族街とか城門前を為体えたいのしれない人物がうろうろ…とかマズイでしょ?



「本当だったね…疑ってごめん。でも凄いね、この中に禁制のものを運び込んでたら、警備とかどうするんだろうね?」


「てゆーか、僕達がすでにヤバイものじゃん?人攫いと違法奴隷だろ?」



 私はともかくとして、レイとエルネストは実際の5歳か6歳くらいでしょう?

 いくら、こっち子達が成長が速めとか、ませてるとか言ってもさ……。

 それくらいの子たちが話す内容じゃないと思うの。



 王都に入ると、さすが城下町と言うべきか、きれいに整備されていた街道以上に踏み慣らされているのか、この粗末な作りの奴隷運搬用の荷馬車でも揺れが少ない。

 日はずいぶん高くなっていて、この荷馬車に日よけがわりにかぶせられた麻布から漏れる日差しもかなり強くなっていて、室内がよく見渡せるようになってきていた。



 ちなみにだけど私のひざの上には小さな女の子2人…て言いたいんだけどさすがにそんなことができるわけもなく、いや、だって同じ体格だからね?

 両サイドに寄りかかられる様に、ぺたりとくっつかれてる。


 ミアとリリィという双子の姉妹らしい。

 めちゃくちゃ可愛い。とにかく可愛い。まさに両手に花!


 前世でくらいしか、私は子供に恵まれなかったけど、その子供はどれも男の子で、孫まで見事に男の子だった。

 だから、息子たちが年頃になって、恋人やら嫁さんだと女の子を連れてくるようになって、本当に嬉しかったりもした。


 でも、やっぱり自分の娘ではないし、あまりズケズケ言っても相手はいくら息子と同世代で私より年下といっても、もう立派な大人だから、お世話するなんてあったもんじゃないし。

 まぁ産後のお手伝いと言う意味ではお世話頑張ったけどね。


 何が言いたいかと言うと、こんなに小さい女の子久しぶりだぁ。

 なんか…いろいろ、もう…尊いです。やばいです。可愛すぎです。ニヤニヤが止まりません。


 現世こんかいの家族では、どうやら私が一番下、そう、末っ子!

 私が欲しかった…妹が…。自分が妹の立場になっちゃってるんだよね。

 まぁ、それはそれで実は初めての体験だから、貴重ではあるんだけどね。

 ここはひとつ、両親にがんばってもらうしかないかしら?


 そう思いつつ双子の姉妹を愛でる。あぁ、幸せすぎて、もう…。



「こんなに外の音はクリアに聞こえるのにね」


「こっちの音が全く聞こえないってのが痛いよな」



 さすが城下町であって屋台がたくさん出ているんだろう、売り子さんの客寄せのための掛け声が、とてもおいしそうな香りがこの奴隷運搬用の荷馬車の中にも漏れ聞こえてくる。


 うん、こんな状況でなければきっととても楽しい散策ができたに違いない、そんな日和りである。



 檻の中でレイが凄い勢いで「気づけよ!見ろよ!」とツッコミを入れては、エルネストが「ほら言った通りだろ?」とからからと笑い転げる。何が面白いのか、これをずっと繰り返してる。


 レイと楽しそうに喋ってるエルネストは、ふんわりとした藤色の髪に、少しツリ目気味のオレンジのような明るい茶色の瞳をしていた。朝方までは室内が真っ暗でほとんどそういう色彩的なものが見えなかったんだよね。少し皮肉気味に笑う癖があるみたいだけど、もともと端正な顔立ちなので嫌味には見えない。



「王都の商業区であれば、もう一箇所詰所を通るはずなんだけど…」


「そこもスルーだろ」


「……そんな気がしてきたよ」



 レイがふわりと苦笑とも取れるような薄い笑みを浮かべ、肩をすくめる。


 そうそう落ち着いて周りが見れるようになってから気づいたんだけど、エルネストって多分、獣人なんだと思う。何度か荷馬車が激しく揺れて、バランスを崩した小さな子達をキャッチしたときに、とっさにしっぽが見えた気がしたんだ。


 獣人というのは、人の身体に獣の一部が混ざってると言われている種族で、前前世むかしの職場にも何人かいたけど、普段はほとんど人と変わらないんだ。意識してその獣の部分を隠すことができるから。ちょっと個人的には、どのようにしまっているのか気になるところではある。

 ただある程度の個体差があって、完全に人間のように隠し切れない人も中にはいた。

 エルネストは全部ちゃんと隠せるタイプなんだろうな。

 隠さなくてもいいんだけどなぁ。


 獣人は一部では迫害されている一方で、一般の人間の身体能力をはるかに凌駕する者が多く、軍人や肉体労働ではとても重宝されている。人間より秀でている部分があると一般的に知られているのに、蔑む意味がわからない。仲良くできればいいのにね。

 やっぱり無い物ねだりなのか、そういう迫害は差別意識はなかなかなくならないんだ。


 馬車が止まって商人の声が響き渡り、檻の扉が開く。


 室内に光が広がり始めたところで、パン!という音と頰に痛みを感じた。


 扉からの光が差し込んできたと同時に、ダッシュで近づいてきたレイに叩かれた音だった。



「いってぇ…!」



 レイの影になってよく見えないけど、エルネストも叩かれたっぽい。

 何が起きたのかと、頰のあまりの痛さに涙目になりながらレイを見上げて…凄い違和感。


 レイの髪と瞳の色が、変わっていた。柔らかい色合いだった金髪が、明るめの茶髪に。アクアマリンのように煌めいていた青い瞳は、明るめのグレイに。

 視界に入った私の髪も、明るめの茶髪になって開きかけた扉から入る光を受けていた。


 外から聞こえてくる大人達の声より、レイの外見の変化に唖然としてしまっていた。



「おい、そこの双子と、奥の小さいの2人だ」



 奴隷運搬用の荷馬車の一番奥で寝てる2人。

 ここに乗せられてる子達の中で一番幼い。盗賊襲撃のパニックで激しく泣き叫び、泣き疲れて眠っていたんだ。

 片言の単語のみ話して、勿論だけど自分の名前は喋れない。

 多分、2歳か1歳後半くらいの子達。



「2人は…寝てるな。あとこの双子か」



 その声とともに、比較的身なりの良い、冒険者というよりは商人風の男が、小さな子供達を抱えて連れて行ってしまった。


 ドア部分に近づいたエルネストに気づいた大人はニヤリと笑いドアを閉めていく。



「お前達はこの次だ」



「次ってどこだよ…」


「さっきのは、たしか商業区だったな…商業区前の積荷の検査までスルーしちゃってたって事だよね」


「あのこたち、だいじょうぶかな…」


「大丈夫だ、僕の行き先が奴隷じゃなけりゃ、アイツらを助けに行ける…!」



 エルネストの強い、思いのこもった声にびっくりして見上げると、彼も髪色が変わっていた。柔らかそうな色合いだった藤色の髪とオレンジに近い茶色の瞳から全体に色が濃くなって、濃い青の髪に、意思の強そうな黒い瞳。



 完全にドアが閉まるのを確認すると、レイがこちらを振り返り、自分の顔をや髪を指さしながら優しげな美貌にいたずらっぽい笑みを浮かべて、ぽんぽんと頭を撫でる。



「これ、面白いでしょ?変える時にちょっと目とか頭とか痛くなるから、ほっぺを叩いてから変えるんだ。ほら、ほっぺ痛くて他の痛みに気づかなかったでしょ?」


「痛かったけど…すげえな!ってことは俺も変わってるのか」



「ドアが開いた瞬間、魔法が使えたから」と笑って話す。閉まった今は、また使えなくなってしまったらしい。

 エルネストは自分の髪をつんつんと引っ張っては、確認していて、なんか楽しそうだった。



「うん、エルも僕も王都では珍しい髪色だからね。少し地味な方がいいと思ったんだ。セシリアも念のため、ね?」


「うん」


(昨日みたいに一人で囚われるよりは、ずっといい。でも、さっきの屋敷といい、子供をこんなに必要とするのって何だろう?)



 昨日の朝、だったと思う。就寝後に攫われたようで、目覚めたら自宅のベッドではなく、まだ新しい血のついた寝間着を着て、教会の個室で目を覚まして。


 そのあと、ゼンと合流して、ユージアと出会って…セグシュ兄様が怪我をしたことも知って……みんな無事かな?



(──私は王都まで帰ってきたよ。)



 父様、母様、心配してるよね…。ここの所ずっと、心配ばかりさせてごめんなさい。

 セグシュ兄様も、私を守ろうとして怪我を負ったと聞いた。

 無事で…いてください。


 小さな子供達が減って、少し広くなった奴隷運搬用の荷台を見渡す。

 家族、そして知り合えた人達の事を考えだすと感情が止まらなくなって、涙が溢れてくる。


 ヤバい、我慢、我慢だー!と思考ではストップをかけているのに3歳児わたしの感情が限界なのか涙は止まらなくて、その様子に気づいたレイに抱き寄せられる。

 耳元で優しく囁いて、安心させるかのように背中をぽんぽんとされる。



「大丈夫、ユージアもきてる。絶対に守るから、大丈夫」



 そうやってなだめられている間に、奴隷運搬用の荷馬車の揺れはおさまり、かちゃり、と扉に付けられた鍵が外される音が聞こえた。



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