第39話 合流したい。




「えっ!うそ~…なんなのこれ…」


 さっきから、この言葉しか口から出てこない。リアルで頭を抱えてしまった。


 ゼンにも王家側としても「色々と考えがある」とのことだから、セシリアが怪我をしない程度であれば、という事で静観してるわけだけど~。

 何やっちゃってんの、あの子たち。


 俺は今も相変わらず森から、ちびっこの大冒険を観察中だ。

 本当は同行したかったんだけどね。

 流石に教会から手配中だろう俺の姿を晒すわけにもいかないし。


 ちょっと寂しく思いながら観察というか、馬車の移動をひたすら見ているだけなんだけども。

 あ~も~…。迂闊というかなんというか……。


 確かに王都へは向かってるけど、どうして奴隷商の奴隷と一緒に運ばれてるのかな?

 しかも犯罪奴隷用の運搬馬車で~。何を考えてるの?


 辻馬車と勘違いにしても酷すぎるよ~?






 ******






『さ、頑張ってらっしゃい!』


「ありがとう!」



 ぱし!と風の乙女シルヴェストルに肩を叩かれて、森を街道沿いにまっすぐ進んでいく。


 俺は王都へ手紙を届けて、少し状況確認のような話をした後、とんぼ返りをするように風の乙女シルヴェストルに最初に出会った森まで送ってもらって、そこから聖樹の丘に戻るように街道に沿って森の中を疾走していった。


 王都で思いの外長く話し込んでしまったため、2人のいる場所に到着した時はすでに陽は落ちていた。



(夜目は利く方だから、特に問題はないのだけど…子供達は動けないよねぇ~)



 2人は聖樹の丘を抜けてすぐの野営地で野営をしていた。


 違うな、2人が熟睡したところで、近くで野営していた奴隷商に荷馬車に放り込まれてるのを見かけた。


 中に入れられてもまだ寝こけてる2人。まぁ同乗者も子供だったし、セシリアに危害が加わりそうな感じはなかったから、そのまま傍観したんだけど。



(このまま王都に着いちゃったら、奴隷にされちゃうよ?)



 ソイツ、教会に出入りしてる奴隷商の筆頭だし~?

 違法の奴隷契約どころか、俺みたいに首輪つけられちゃう気がするんだけどなぁ。



 まぁ隙を伺いつつ、中を覗いたりしてみたけど、2人の他の同乗者にも衰弱してるような子供もいなかったし、食事に関してもゼンの荷物カバンが取り上げられていなかったために、分け合って摂っていたし。

 というか俺の方が少し空腹だ。


 森での活動は慣れてるし、自己調達という意味では…できなくは無いが、火は使えないし、今の季節は春なので…自然の果実もほとんどない。

 そういう意味では少し……まぁ、ゼンから受け取ったカバンの中にパンが少し残ってるけどね。



(温かいスープがちょっとだけ恋しいなぁ)



 途中、真昼間にもかかわらず、盗賊の襲撃があったんだけど…凄いねぇ。

 なんと途中まで軍馬に乗って移動してきてた盗賊だった。

 軍馬を森に乗り捨ててそれから襲撃。そして乗り捨てられた軍馬は後から来た騎士が回収するというね。


 盗賊(?)によって護衛の冒険者が倒されているので、パトロール中の騎士団が商団の護衛を申し出る、という形にしたかったのかな?


 狙いは王都までの護衛のつもりか?それとも違法奴隷商としての動きを把握するためか?

 あ、でも内偵が、そういう動きはすでに暴いちゃってるような気はするんだよねぇ。

 正直何がしたいのかよくわからないけど、少しでもあの2人が安全に王都に入れるなら、良いのかな~?


 商隊は徒歩の護衛を失い、騎乗の騎士団の護衛がついたことによって、隊の移動スピードが上がった。

 このままいけば「安全」そして予定より「早急」に王都に着く。


 俺は…さて、どうするかな。

 王都の検問をどうしたものか。

 正式な奴隷契約をガレット公爵家と交わした事になっているはずなら、それをネタに小間使いっぽく、ちょっとしたアイテムと手紙の配達ってことでなんとか通れる…かな?

 面が割れてないと良いけど。

 薬草なんかも持ってたら、外にいた理由になるかな?森でしか採れないし。



「よし、そうしよう!」



 商隊が王城手前の野営地に入るのを確認してから、木から降りた。

 ちょっとしたアイテムを見繕う事にした。



(セシリアは聖樹にやたら反応してたから…適当な薬草が良いな。可愛いやつならそれっぽく見えるかな~?)



 暗部の仕事で歩き慣れた場所だから、大体どこに何があるかくらいは、わかる。



(確かこの先に連翹レンギョウの木があったはずなんだけど…)



 ……残念ながらまだ開花前だったようで見分けがつかない。

 もしかしたらすでに花後なのかもしれないけど、実がついてるっぽい枝もないしなぁ。


 連翹は、枝が色づいたかのように大量の黄色い花を咲かせるんだ。

 咲かせた後につく実が薬として使われる。



(あれは結構目立ってたから、覚えてたのに、他に今、花の時期の薬草って…あった!)



 低木のような垣根のように横に広がった、躑躅のような葉っぱに、白い小さな蘭のような花。細い華奢な枝に、たくさんの白い花を咲かせて、重そうに風に揺れていた。



(金銀花だ。これで良いかな?切り傷によく効くんだよね、これ。大聖女様に渡したら子息へ使ってもらえるかな?)



 使えるのは葉っぱと蕾だったかなぁ?

 まぁ季節によっても効果の強弱はあるし、そもそも薬師の腕も関係してくるだろうし、なんとかなるかな?

 カバンから少し飛び出る程度で枝を折り取って、束にしてしまい込んだ。



(これ、匂いがなぁ…薬草なんだから、もうちょい元気になりそうな良い香りしててほしいよね!)



 結構な束になったのを確認して、満足し、そのまま森を出て街道を歩き始める。

 商隊はまだ、野営地にいるのが見えた。…馬のペースで移動してたから、馬の休憩だろうなぁ。



(荷馬車引きながらだと、馬を潰しかねないだろうし)



 タイミング的にはこのまま王都に着けば、ちょうど商隊が追いついて検問を抜ける頃には、俺も王都の入場許可を得てるはずだ。…多分ね。



 ──早くセシリアに、会いたい。




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