第33話 脱出。
俺のいた牢から飛び出すと、そのままゾンビ集団から距離を取るために走り出す。
「取り敢えずなんだけど~ここの監獄自体が一つのマジックアイテム…というか、ダンジョンみたいになっててね。出入りするには、核のような…鍵になるアイテムがないとダメなんだよね~」
「知ってる。それと
ん~。
この毛球、本当にナニモノなんだろうね?
…ま、教会に処分された今となっては流出を心配する必要も何も、どうでもいいけどね~。
しっかし、最下層の掃除屋はターゲット自体や物の証拠隠滅にすごく便利だったんだけど、自分が狙われる身となると、面倒この上ないね~。
「あら、知ってるのね~。じゃあ補足として…
ゾンビとか、魔物が上層まで普通に闊歩してたら、音だけでもマズイんだけどね。
それにしてもこんな建物が教会とかね。
今更だけど、矛盾を通り過ぎて、潔さまで感じちゃうね!
「じゃあ、ゴールは近そうだな、急ぐぞ…それと、ユージア、僕はゼンだ。そのままの姿で良いのなら、それなりの口調にしとけ」
「はいはい~って、俺、え?…姿?成長とかじゃなくて?──気づいたら変わってただけなんだけどなぁ…ま、そうだね!気をつけるね~」
「だから言葉っ!」
きっと、この外見で「俺」っていうのがダメなんだろう。
一般的な背格好からすると、成人前…ま、子供だもんね。
しかも公爵家に出入りするのなら、流石にまずい、のかな?
「そうだねぇ~『僕は』セシリアの従僕になるんだもんね♪」
「……契約、僕のままにしておくかな」
「えぇ~…」
あぁ、それにしても掛け合いみたいな会話も楽しいな。
そう思いながらも走り続けていると、小脇に抱えていた嬢さん…セシリアの身体にぴくり、と力が入る。
「──あっ!起きたところ悪いんだけど、動かないでね?」
「ぴゃー!」
「ど…どういう、じょうきょうなの?これ?」
持ち方が少し不安定だったかな?
無意識に立ち上がろうとして力が入った足から、再度力が抜ける。
代わりに、腕に小さな手が回されて、しがみ付かれる。
……落とされないように、必死にしがみついているんだろうけど、ふにふにと柔らかくて気持ちが良い。
て、いうか、ゼン、「ぴゃー」ってなんだよ…。態度違いすぎ!…あざと過ぎだろう…。
本当なんなの、この毛球!
「えっと~、逃げてるって感じ?アンデッドどばどば~って!あと~騎士団の足音が消えたから、早めに脱出しないと逃げれなくなりそうな?」
「ぎゅ…ぁ、騎士団の捜索が終わったみたいなんだ!あと、ここ広すぎて出口が見つからない!」
だから、ゼン「ぎゅ」ってなに~?
相変わらず腕に伝わるふにふに感に、ちょっと癒されつつ、ゼンのあざとさに吹き出しそうになりつつ…うん、きっと俺、今いろいろ感情を我慢してて、変な顔になってる気がする。
自然に出る感情、表情、これも久しぶりだな~。
「普通の出口なら~…無いよ~って、マジックアイテムがないと、出入りできないんだ~ってさ!僕を捨てたやつが自慢げに語ってた~」
「で、緊急脱出用の出入り口を探してるとこ!」
って事にしとく!……3歳児に詳しく説明しても分からなそうだし?
ゼンのこっちを見る目が、凄いジト目のように見えるのはきっと気のせいだな!
『……ありましたわ、右側3つ目の部屋です』
「ありがとう」と唇の動きだけで伝え…伝わったみたいだね。
雫がふるりと円を描くように動くと、後ろに、ゼンの近くへ移動していく。
彼女に教えてもらった場所へ、一気に駆け込む。
今までの牢屋と同じような構造だけど、床にうっすらと血で書いたような、それが乾いて固まったような色あいでびっしりと…文字と図形が描かれていた。
「うん、読めない~♡」
「僕も…難しいな…片言しか」
まぁ、実際のところ、微妙に読めるんだけどさ。マジックアイテムの核に直接作用させるとか、初めてだし、ゼンのお手並み拝見…っといきたかったんだけど「片言」か。
わかるだけでもすごいんだけどね。
やっぱ、ゼンって、そこそこどころじゃない格の霊獣っぽいなぁ。
それはともかくとして、ひとまず脱出しなきゃだ!と思って、魔法陣の発動をさせようと構造を……と小脇でもぞもぞとセシリアが動いてる。
「…みしぇて」
「あ、ごめんね~!それと、助けてくれてありがとう~!」
……
やっぱ気になるのかな?
それにしても…ふわふわふにふに…!
──この感触だ。
ぎゅっと抱きしめた時に、軽くやめて、とでもいうかのように押し返される手のふにふに。
…最期だと、思った時に触れられていたと思う、この感触!
「あぁ~この感触!最高だね!こんな子が僕の新しいご主人様とか、幸せすぎるんだけど、どうしよう~」
「それは良いから…なんとかこの魔法陣を解読しないと、詳細がわからないことには使いようがないよ?ほら、セシリアを解放してっ!」
「詳細?」と聞き返そうとして気づいた。
長い尻尾をバシバシと激しく、石畳に不機嫌さ全開で叩きつけてるゼンの姿に。
……軽く殺気を感じるんだけど、どういうことかなぁ~?
名残惜しいのだけど、しょうがないね、とセシリアを解放する。
解放されたセシリアは、魔法陣の中心に立ち、読んでいるようなポーズをとっている。
いっちょまえで可愛いな。
「これは、てんいのまほうじん」
「お~やったね!」
「急ごう、なんか色々こっちに迫ってきてる!ゾンビとかゾンビとかスケルトンとか…」
うん、いっちょまえ!俺たちの真似っこだね!可愛いね~。
そして、焦るゼンの声、まぁ当たり前か。掃除屋であるゾンビたちの足音が随分近くなってきてる。
でも、このセシリアの可愛さは、ゼンのあざとさどころじゃないね!
「ゼン、はつどうは、ひかりともう1つぞくせいが、あればいいみたいで…」
あれ、ゼンも俺もそこまで話はしてないよね?どこで聞いたんだろう?
まぁ火の魔法は込め終わったから、光を…と思った瞬間、ダン、という音と共に赤い光の粒が舞い上がり、視界がぐにゃり、と歪んだ。
******
大きく景色が歪み、次の瞬間には、大きな木に囲まれた草原の真ん中に2人と1匹は佇んでいた。
──陽の光が眩しい。
「……どこ、ここ?」
「で、出れたー!」
「あ~っ!脱出できたあぁぁぁぁ~!」
聖樹の丘に出た。……昔見た景色より随分建物が荒れてるようだけど、というか建物…朽ちちゃってるね。
とりあえず、ここは安全だし、というかここに出口が繋がれてたのか。
流石に魔力切れに、貧血に…いろいろ限界でその場に転がる。
空中に浮かんだ小さな雫が、陽の光を受けてキラリと輝きながら、くるりと二度まわり、姿を消した。
あまりにもあっという間だったので伝えられなかったけど小さく「行ってらっしゃい」と呟く。
本当にありがとう、早く元気になって、また姿を見せて欲しいな。
セシリアは俺の肩口付近に座り込んで、こちらを覗き込んでくる。
初対面の襲撃時から、ずっと暗闇から見てたから単なる銀髪にしか見えなかったけど、風に遊ばれているそのふわふわの髪は、陽の光を透かして
瞳も青味がかかった紫なんだね。
さすがあの美貌の大聖女の娘、といったところか、今だって十分に可愛いけど将来もかなり有望そうな。
そして、視界の奥では憮然とした顔のゼンが、ふーっと溜息のような長い息を吐いているのが見える。
「セシリア、僕は一度報告に戻るから、コイツなんとかしといて」
「コイツとか…酷いっ!君には、ちゃんと自己紹介、したよ~?」
なんとか、って……
「セシリアには、してない…それと契約の更新もしといて」
「おなまえ、おしえて?あと、けいやくって?」
あれだよね、ゼンはセシリアが絡むと、途端に性格が悪くなる。
やっぱ公爵家の霊獣なんだろうなぁ。
ガレット家にいるっていうのは襲撃時の調査では聞いたことがなかったけど。
「じゃあ改めて、僕はユージアだよ~。拾ってくれて、助けてくれて、ありがとう!これからよろしくね~」
「セシリア、です…いまはからだ、いたいとこない?」
「ないない~完治ではないけど、走れるくらいには治ったよ!腕良いね~!そ・れ・と~、契約ってのは、隷属の契約ね~」
「れいぞく…くびわ、はずしたのに、またけいやくするの?」
しょぼん、と悲しそうな顔をされた!
「隷属の首輪」や「奴隷」の意味を理解してるっていうことなのだろうか?
……それなら尚更、セシリアが
「セシリアなら良いよ~!君は、
「この契約は『隷属の首輪』のように非人道的なものではないから、期限を決めて、お互いに同意しないと契約できないから、大丈夫」
ゼンの説明は、理解できてるんだろうか?
まぁ、理解している、ってことにしておこうかなぁ
ちゃんと聞いてるみたいだし。
「そうそう!内容もしっかり指定できるしね。もし理不尽な事や、法に触れそうな命令を強制する事があれば、逆に契約者が罰を受けたりもするくらいだからね」
「この契約は、国で管理されている正規の奴隷商が使ってるのと同じもので、コイツの再犯の予防も兼ねて契約を交わしておいたんだ。これから、契約者を僕からセシリアに書き換える。内容は、期限が2年間…セシリアが5歳になって魔法学校に通い始めるまで。内容は護衛。これで良い?」
「わかっ「男娼でも良いよ~?」……!?」
セシリアの返事に被せてみた!
「良くないっ!」
「なんなら一生でも良いし~?」
即座に怒鳴り返してくるゼン。そして瞳をまん丸にして固まるセシリア。
こういう掛け合いも面白いかもしれない。
でも、本当に、良いんだけどなぁ。
こういう暖かい場所なら、良い。
長く続けば良いと思える場所なら、どんな立場でもずっといたい。
……吐き気を催したり、激しく暗い黒歴史を量産しない場所が良い。
そう考えると、
ま、まだ幼いし。このお人形さんのような可愛らしさが、歪まないように見守れたらと思う。
あ…表情を見るとすでに歪んでなくもないような、気もしなくはないけどね。
もしかして「男娼」の意味知ってるのかな~。
ゼンは瞳孔をまん丸にして耳を下げ、ぎゅう!っと鼻を鳴らして、尻尾をバタンバタンと地面に叩きつける。
あ~、猫の最大級の怒りポーズと共に、また殺気…。
見た目は可愛いんだから、その凶悪な殺気をピンポイントで放ってくるの、やめてほしい~。
「とにかくっ!契約者の更新をするから、2人とも手を合わせて!」
どっこいしょと上体を起こして、セシリアと向かい合うように手を差し出す。
セシリアの小さな手が合わせられる。
う~ん、小さい!ふよふよ!温かい~。
ゼンはその手の上に「おて」をして、魔力の込められた声を発する。
『汝、ユージアよ、セシリア・ハノン・ガレットに魂からの服従を』
ゼンは魔術型の霊獣なのかな~。
事前準備なしの、魔法得意だよなぁ。
有無を言わさずというか何というか、奴隷契約の魔法と同じように、ぶわっと地面から大きな魔法陣が浮かび上がり、セシリアと手を合わせているところで収縮して、俺の胸に吸い込まれていく。
「はい、これで契約の更新完了!……じゃ、すぐ戻るから、護衛任せた!」
「セシリア、これからもよろしくねぇ~♡」
ぶわり、と風が舞ったかと思うと、ゼンの背から白い大きな羽が生えた。
少しの助走とともに飛び上がりると、空中で一度大きく旋回してから、滑空するかのようにスピードをあげて…一直線に移動して行った。
「……猫が飛ぶとか、ないわぁ~」
「ないよね…」
それでも、純白の大きな翼は力強くてとても優雅で、ゼンの飛び立つ姿が見えなくなるまで2人で見惚れてしまっていた。
やっぱり、霊獣としては見たことのないタイプだ。
羽根の生えた猫…グリフォンのなりそこない?でも、あれは獅子か。
ていうか顔が猫じゃなくて鳥だった~。
スフィンクスも猫っぽいけど違うし…。
キメラなのか?
王宮の魔術研究所で作られたヤツだったりするのかな?
あぁガレット公爵家当主は、魔術師団長だったし、その可能性も…?
本当にナニモノなんだろうね~。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます