第34話 一休み。




「ちょっと休ませてねぇ~、流石に疲れちゃった!」


「いたい?ちゅらい?」



 口煩いのもいなくなったし、再びごろりと草原に寝転んで、ぐーっと背伸びをする。


 セシリアは相変わらず、俺の肩口あたりに座ってこちらを覗き込んでくる。

 俺を見る目が…なんだろう?これは心配している目というより、今から襲いかからんとするような、好奇心旺盛な……。


 まぁそれはともかく、今は下手に動きたくない。

 この聖樹の丘は、王都からもだけど主要の街道までが少し離れていて、魔物が普通に出る。

 倒れてはいるけど、聖樹があるからこの丘だけは安全なんだけどね。


 急ぐにしても魔力の回復はしておきたいし「すぐ戻る」と言ってたゼンを待ってから動いた方が、魔物への対処としては絶対安全だと思うんだよね。

 ま、俺だけであれば多少無理してでも駆け抜けてしまえば…と考えてしまいたいのだけど。


 セシリアがいるから。

 それにあの教会の騒ぎの後だ、始末しようとしていた俺までいなくなってるとか、行方を血眼になって探しまくってると思うんだよねぇ…。

 ほら「従属の首輪」も回収したいだろうしさ。


 そうなると、確実に俺の同業者だった教会の暗部が…って、セシリア守りながら駆け抜けれる気がしないもん。



「……まぁ、死にかけてた身としては、ちょっとねぇ。あの猫ゼンもすぐ戻るって言ってたし、下手に動かずにゆっくりしとこう~?」


「かいふくまほう、しゅる?」



「しゅる」って…可愛すぎ。


 ただし、あの全身の強烈な痛みはご遠慮願いたい。

 ……ねぇ、なんかセシリアの小さな手が、わきわきしてるように見えるのは気のせいだよね?

 今の言葉は善意からの言葉だよね?

 実験体とかいうオチじゃないよね?



「え、遠慮しとくよ!……セシリアの魔法は飛び上がるくらい激痛だったから。あ~思い出しただけで変な汗がっ!」


「ごめんなしゃ…」



 あれは正直、回復どころか、とどめを刺されたかと思うくらいの激痛だったから…。

 助かっただけ儲け物なのかもしれないけど、二度とあの回復魔法を使われる立場にはなりたくない。



「ま、おかげで助かったんだけどね~。あぁ~ほんと、セシリアってふにふにで可愛いね。──契約期間、たったの2年だったけど本当に良かった?もうちょっと長くても。むしろ長い方が僕はのんびり生活できそうで、安泰なんだけどな~。流浪するよりセシリアの家公爵家に引き篭りた~い!」


「わたしは、おとなになったら、いえをでるから、ひきこもれないよ?ゆーじあは、おうちかえらないの?」



 寝転がったまま、隣に座るセシリア持ち上げて、引き寄せるようにギュッと抱きしめた。

 今は時間としては昼下がりぐらいなんだろうか?暖かい日差しと心地よい風が吹いている。


 セシリアは良い香り。幼児独特の甘い香りがする。ふわふわふにふにで、良いなぁ…ずっと抱いていたい。



「んん~、ずっと帰ってないからなぁ。多分もう家というか、住んでた街が無い気がする」


「ないって?」



 俺は村が襲われて攫われたんだと思うんだけど、昔すぎて場所も何も覚えてないしね。

 あれから、命令で各地を転々としていたこともあったけど、同郷の者を見かけたことはなかった。

 どうなったのかは気になるところなんだけどね~。



「それだけ帰ってないって事だよ~。教会住まい、長かったもんなぁ」


「それじゃ…」



 ……あぁ残念、至福の時間終了だ。


 セシリアも風以外の音に気づいたのか、ぴくりと音のした方向を見ようとしている。


 ゼンの魔力においがする、小さな子供がこちらに全力疾走してくるのが見えた。

 しかも、俺に向けた殺気込みで。


 セシリアを小脇に抱え込んだまま、様子を見ることにする。

 この格好なら、セシリアも視界が高くなって様子がわかりやすだろうし。



「まもの?」


「ここに魔物は近づけないよ~。まぁ、本調子では無いから強いやつなら余裕で来ちゃうけど。そこの倒木、わかる?それ聖樹だから~。あの監獄の出口を守るために植えてあったんじゃないかなぁ~」



「聖樹」と聞いた途端にセシリアが反応する。ものすごい好奇心に目を輝かせて、腕の中から身を乗り出すように聖樹をガン見し始める。

 いや、確かに貴重で珍しいものだけどさ、3歳児が興味示すようなものじゃないからね?



「あ~、お迎えが来たみたいだよ。休憩終了かなぁ」



 近づいてきたのは、やっぱり小さな男の子。でも、しっかりゼンの魔力においを感じる。

 距離が近づいてきたところで、布の包みを投げ渡してくる。

 抱えていたセシリアを下ろして、受け取った包みを開くと、手紙と着替え、少しの荷物があった。



「げ…シュ…「ユージア、それを使って急いでガレット公爵家へ行くんだ。中に手紙が入ってるから、それを公爵に渡すんだ。教会側に緊急手配されてる。とにかく急げ」」


「お、おぅ、わかったぁ」



 荷物から視線を外し、子供の顔を見て…焦る。

 ……あれは王族だ。確かシュトレイユという、第二王子の顔だった。

 ただ、年齢が少し違う気がする。だとすると他の公爵家の子供かなぁ?


 この国では薄い髪色は珍しい。まして金髪となると王族の外にはあまりない。

 公爵家とは、基本的に成人した王族の分家みたいなものだから、王家の親戚筋ってことになるんだよね。

 直系であれば王位継承権を持つものも中にはいたりする。


 まぁでもそう考えてしまうと、さっきの凄まじいゼンの魔力においのこもった殺気は何だったんだろうね?

 王家の人間って、ある意味人間離れした人が多いから~。

 この子も何か特技がある子なのかな?

 あ、特技がなければこんな所には来ないか~しかもこの速さで。


 ここ、王都からかなり離れてるからね?

 子供の足で、この短時間でここに来れるはずがない。



 そう考えつつ、受け取った包みにあった着替えを使う。

 そのままは……さすがにだめだよねぇ~。

 血塗れ半裸とか、怪しさ満載どころか、こんな子供が1人で王都にふらふら現れた日には、村が何かの襲撃にあったかと、衛兵に大人気になっちゃう。



(あ~でも、この姿、前の主人あるじが好きそうだな…)



 血濡れで、衣類としての用途をすでに果たせていない、脱ぎ捨てた服を見て脳裏によぎった考え、そして光景に猛烈な吐き気を覚える。



(あ~、今、それいらない情報だから~。全く以て、いらないから!)


「セシリアの着替えもあるから、これに着替えて」



 セシリアも着替え始める。ワンピースのような一般的な女の子の旅装束なった。

 良いとこのお嬢様は…お忍びでも選ばない衣装だね。


 というか、セシリアは自分でお着替えできるんだね。

 貴族の女の子は、裕福な家ほど専属のメイドがつくので、自分で着替えができない子がほとんどだから。

 襲撃時に、確か専属メイドだと思ったんだけど。

 あ~、あの子には後で謝っておかないとなぁ。



「……ユージア、手紙と手続きが終わり次第こちらへ合流、ガレット公爵家まで影に潜んで護衛を頼む。程度としてはセシリアが怪我をしなければいい。それ以上になりそうなら、助けに入れ」


「了解。じゃ、ひとっ走り行ってくるねぇ~。また後でね!」



 何かセシリアが心配そうな顔で俺を見上げてる。

 ん~、さっきの吐き気に気づかれちゃったかな?


 にへらっと笑顔を作って、セシリアに軽く手を振り、颯爽と森の中へ駆け込んだ。





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