第26話 移動移動。



「セシリアは怖くない?」

「がんばる」



 レイは体格的に小学生くらいに見える。年齢でいうと6歳くらいだろうか?

 魔力持ちで6歳といえば、魔法学校に通っている年齢となる。

 扱える魔法は初級魔法ぐらいだろうか?


 そう考えながらも薄暗い森の中で、セシリアが必要以上に怯えずに済んでいるのは、レイがしっかりと手を繋いでくれていること、だろうね。

 まぁ、他にも実はあるのだけど……。


 木の根元にちらほらと、見え始めた数々の薬草が目につくようになってきた。

 それがどうにも気になる。子供の視界って、背が低いのもあって、薬草のような草丈の低いものを見つけやすいみたいで、どうにも気になってしょうがない。



(子供の方が薬草採取や探し物が上手なのはこういうのが理由なんだろうなぁ)



 そうそう、この世界の薬草は微量の魔素を含むことが多くてね、魔物の出るような、空気中に魔素の漂いやすい森などの自然の環境でないと、育つことができない種類が多いんだ。


 一応畑など、こちらで農業をやっているような場所でも栽培可能な種類もあるんだけど、それらから作られる薬は気休め程度の薬効しか引き出せない。


 傷を即座に治すポーションや、瞬時に毒や麻痺を消せる薬の原料となるものは、空気中に漂う魔素の濃度の濃い、森やダンジョンなどで採取することが基本となる。


 始めたばかりの冒険者や、低ランク向けの常時依頼に薬草採取があるのは、そういう事情からである。畑や人里での栽培が難しいけど、森に行けばいくらでも自生しているんだもの、しょうがないよね。


 レイはセシリアの手を繋ぎ、わき目もふらずに一直線に進んでいくんだけど、どうしても薬草が気になってしょうがない。



「ねぇ、レイ、さっきからやくそうがみえるの、いくつかほしいんだけどいいかな?」

「なるべく急ぎたいから、少しだけね」



 今、目の前に見えている薬草は、日本で言うならばドクダミ草のような、少し赤黒い葉を茂らせ、白い小さな花をたくさん咲かせていた。


 ま、ぶっちゃけ、ドクダミ草そのものなんだけどね。

 あえて違うところといえば、微量の魔素を含んでるってくらいかな?



「さっき、このやくそうもみつけたから…あといっこ!」

「セシリアはこんなに小さいのに、薬草の知識まであるんだね…」



 レイが少し呆れた様子でこちらを見てる。

 まぁ、普通の3歳児なら……親が薬師か何かではない限りは、馴染みすらないものだからね。

 ここにいる3歳児わたしにしてみれば、前前世むかしに使い慣れたものだから、いくらでも見分けは可能なんだけどね。


 ……さて、もう1種類欲しいところなんだけど、あとは道中で見つけることができると良いなぁ。


 そう思いつつ移動を再開する。今のところ怪しい気配もなく、ただただ森が深くなっていくばかりで…そう、ただただ深くなっていくのだけど、本当に街道へにたどり着けるのだろうか?と、少し不安になる。


 少しでも、魔物に気づかれないように、音を立てないように、言葉も最小限に済ませたかったのだけれど、どうしても気になることが1つ。



「ねぇ、レイ、せぐーにいしゃまは、ぶじなの?」

「無事だよ。今は王城にいる。ユージアたちの襲撃で、公爵邸の修理が必要になったのと警備を強化するために、王城で治療を受けている最中だよ。ちなみに襲撃にいち早く気づいて、君を守ろうとしての結果だよ」


「おとしゃまと、おかしゃまは?」

「みんな無事だよ。彼らはセシリアを助けるために今、頑張ってる。……ただね、君はユージアを助けた。そのために少し仕事が増えちゃったから、お迎えが僕だけになっちゃったんだけどね」



 あたりに警戒をしつつ、こちらに振り向いて安心させるかのように、にこりと笑う。

 セグシュ兄様の治療……。早く元気になりますように。



「ありがとう」

「安心するのはまだ早いよ。まずは街道に出ないとね」



 そう言うと、レイは歩くペースを上げていく。


 ……家族の状況を聞けて、少しほっとしたのか、今度は急激にお腹が空いてくる。

 そういえば今日は朝ご飯しか、食べていない。しかも、その後も使ったこともない魔法を、連発してしまったし、魔力切れもだけど、体力の限界もそろそろ超えちゃいそうなところなのではないだろうか?



 進んでいるのはずっと薄暗い森の中だけど、先程からさらに薄暗くなったと感じるのも、きっと気のせいではないはず。

 さすがに、このまま子供だけで森の中で夜を明かすのは、まずい。


 今の季節、冬ほど寒くはなくなったとは言え、夜になればしっかり冷え込むし、日が暮れ始めたと思えば、一瞬にしてあたりが暗くなるような時期である。


 じわりと目のあたりが熱くなる。視界が歪み始める。まずいまずい。



(……薔薇の花が少し落ち着いて、ブルーベリーの花が咲き始めるあたりになると、夕暮れから日没までに、少し余裕が出るようになるんだけど)



 王城の薔薇はちょうど花の盛りのようだったから、四季咲きが混ざっているにしても、まだ初夏ほどの気候にはなっていないと考えて良いはず。



(そういえば、薔薇の満開の前は、さくらんぼの花が満開で、その前が姫林檎、それに林檎の花だったかな?その前が桜!……こっちで桜の木は見ないけど、薬草なんかでも地球とそっくりのものが多いのだから、品種改良する前の原種であれば、自生しているかもしれない。山桜って言うんだっけ?桜にしては赤みが強くて、梅のような色の濃いピンクで、枝一面に花をつけて……)



 ……うん、落ち着いてきた。やっぱり、非日常的なことでも、日常に見ていたことのある風景をもとに考えると、少し落ち着く。



 今日一日の出来事は、正直、3歳児今の私には精神的にキツイと思うのよね。


 身体の実年齢と中身の精神年齢とのギャップを気をつけていかないと、今も極限状態を頑張って移動しているのに、そこからちょっと心細くなったくらいで、ぼろぼろと泣き出されて、視界を塞がれるのは辛い。


 正真正銘自分の体のはずなのに、感情のコントロールが一定値を振り切ってしまった後は、全く操作不能になってしまうのは困るんだけど、体の幼さ故での事だから、どうしようもないんだよね。


 ……さぁがんばろう。街道までもうちょっと、ご飯までもうちょっと。


 そう自分に言い聞かせて、がんばって歩き続ける。


 レイの歩く速さが徐々に速くなっていくな…と思っていると、急に視界が開けた。



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