第13話 晩御飯。




 セシリアが目覚めた時と同じくして王城、謁見の間にて。



『即刻、セシリア嬢を教会にて聖女となるべく教育を施すために保護すべきです!』


『まだ、正式な属性検査はしていないが……』


『あの白く強い輝き!あれはまさしく聖女たる光の反応ですよ!』


『水晶玉を溶かすほどの魔力だぞ?』


『しかし、魔力切れを起こして倒れたと聞いておる。量はさほどないのかもしれん』


『王子のお披露目前なのは承知しておりますが、早急にどちらかの御子とセシリア嬢との婚約を進めましょう!』



 謁見の間の天井、ずっと上にある豪奢なステンドグラスの縁に座って、様子を見ていた青い髪の少年は大きくため息をつく。



「セシリア嬢は大人気だねぇ。王も宰相も大変だね。あぁ、私もか」



 そう呟きながら縁から飛び降り、地に着く前に霧のように姿が消えた。







 ******







 ──これから、父様と母様、セグシュ兄様で晩御飯だ。


 本当ならお粥をいただいた後、応接に場所を移して先ほどの続きを……の予定だったのだけど、急な来客が父様に立て続けに入ってしまったので、晩ご飯で話そうということになった。


 時間のできてしまった私は、専属メイドのセリカに湯浴みとお着替えと、ひと通り磨き上げられた後は、白いもふもふを撫でたり、うとうとしたりして過ごした。

 魔力切れは、とにかく眠くなるみたい。


 うとうとから、しっかり昼寝に移行したようで、数時間ではあるけれど、頭はすっきりした。

 白いもふもふは、側から離れなかったけど、くっ付いて剥がれない!ということはなくなったので、この子も少しは落ち着いたのかな?



 食堂では私の席の隣に、一人掛けソファを置いてもらって、その上に座っている。


 お昼寝前までは、大きめの猫のサイズだったのに、いつの間にかに大型犬くらいに膨らんでいた。


 真っ白もこもこで、大きさといい毛並みといい、ピレネー犬のような感じになってる。

 成長期なのかな?

 父様の来客の対応が、まだ少しかかるとのことなので、食堂に到着したセグシュ兄様と一緒に白いもふもふを見つめている。



「あなたは、ねこ?いぬ?」


「きゅー」


「セシー、それは神獣や霊獣とか……精霊みたいなものだろうから、ペットではないと思うよ?」



 面白そうに目を細めて笑い出すセグシュ兄様。

 少し長めの赤い艶やかな髪を、いつもは緩めに背後でまとめているのだけど、今日は衣装のサイズ合わせがあったとかで、邪魔にならないように少し高くまとめられていて……ポニーテールのようで可愛い。


 15歳って前世だと高校生かな?まだまだ体格的には大人というよりは少し華奢なお年頃だもんね。

 イケメン補正以外でも、まだ中性的な可愛さが通用している気がする。

 きっとまだ素のままで女装が通用しちゃうはず!


 そんなことを考えつつ、そこの白いもふもふも、ふわっふわだし大きな猫だったら可愛いな!と思ったら、見る間に耳やマズルと言うのかな?鼻のあたりの形や特徴が猫っぽくなっていく。

 華奢な雰囲気の猫ではなくて、野性味溢れる特徴なので、メインクーンのような感じだね。

 うん、白いつやふわの流れるような毛を持つ、ピレネー犬サイズのメインクーンって感じになった。



「ねこに…なったよ?」


「……大きさ的に無理があると思うよ」



 やっぱりピレネー犬だろうか?

 とにかく白い毛が長くて優雅な感じだから、尻尾が長めになるなら、犬の姿も素敵かもしれない。



「じゃあ、いぬで」


「……犬はお外で飼うことになるけど?」


「ぴゃー!」



「やっぱ、ねこしゃん…りすしゃん?おうちのなかだと、うしゃしゃん!」



 お外は困る!と言わんばかりに、白いもふもふの非難の声が上がる。

 私のイメージに合わせるように、顔や体の特徴がころころ変えながら。



「うしゃしゃんて…ぶふっ…あはは」



 我慢しきれなくなったのか、セグシュ兄様が笑い出す。



「楽しそうね……何してるの?」


「白い毛玉がよくわからん生き物になってるんだが……」


「ぴゃー……」



 百面相の様にころころ変わっていく白いもふもふに、セグシュ兄様の笑いが、爆笑になったところで、少し疲れた顔の、父様と母様が食堂に到着した。



「父さん、母さん、お疲れ様」


「おつかれしゃまです」



「二人とも待たせたね、さぁ食事にしようか!」



 父様と母様が席に着いたのを合図に、それぞれに食事が運ばれ始める。

 食事形式としては、フレンチになるんだろうか?

 食べ終わりそうなタイミングで次の料理が運ばれてくる感じ。


 個人的には食べ放題とかブッフェスタイルって言うのかな?

 好きに取って好きにお食べ、っていう感じの料理の方が気兼ねしなくていいのになぁ。


 いっそ大皿料理で、どーんって置かれてる感じでもいいのに。


 まぁどちらにしろ、私はフォークとナイフを必死に使って食事です。

 幼児の腕って、手どころか指までぷくぷくだから、うまく食器やカトラリーが掴めないんだよ。


 頭ではわかってる動作なのに、大変。


 黙々と食べ始めた私に目を細めて、父様と母様、セグシュ兄様が、会話を始める。

 私も聞くべきだから、食事のタイミングでの説明なんだよね?と、食事の手を止めて顔を上げると



「セシーは、食べながらでいいから、その子の名前を考えててね」


「はぁい」



 じゃあまずは食べちゃおう!と思って食事を再開しつつ、三人の会話に耳を傾ける。



「さっきまでの来客がまさに、これからセシリアに話そうと思っていたことを、そのまま具体的な案件として持ち込んできていたので説明するよ」


「さっきの来客って、教会と王家だよね。馬車が見えてたんだけど」



 セグシュ兄様の返答を肯定するように父様が頷く。



「そうだ、まず一つ目は、聖女として教育するために教会へセシリアを引き渡すようにと、妙な圧力をかけてきている」


「……それは私が許さないわ」


「そうだね、大聖女である君が盾になってくれるなら心強い」



 そういや母様は、大聖女だった。

 大聖女に師事する、という形を取れば教会にお願いするより、確実だもんね。

 前世が無宗教だったし、教会とか聞くだけで鳥肌がたつし……宗教観に関していうなら、盲信や狂信的な人たちとは正直、お友達にはなりたくない。



「それと、セシリアに婚約の申し入れがあった」


「それは父さんが断れば良いだけなのでは?」


「ぎゅるるる…」


「できると良いのだけど、これは王家からの申し入れ、というより既に婚約が確定した事への通知、ということらしい」


「教会も王家も、かなり強引だね……そんなにセシーは魔力が強かったの?」



 むっとする、セグシュ兄様に対して、父様は、うーん……そこなんだけどねと、少し考える様な仕草と共に説明を続けていく。



「魔力はそれなりに高いとは思うよ。それと水晶玉のあの光を、教会側は光の強属性だと判断したらしいんだけど……」


「私の測定の時もだけど、光属性はもっと真っ白な輝きのはずなのだけどね……」


「ぴゃー!」



 魔力の強さ、という意味では、私が水晶玉に無意識に魔力を流し込んでしまったから、強い光が出ただけなのでは?というのは聞いちゃダメなんだろうか。

 それと、母様曰く、光属性はもっと真っ白に光るってことは、あれは光属性ではない可能性があるという事では?


 ……じゃあ、光属性持ちではないかもしれないって事なんだけど、それでもセシリアわたしを聖女と確定してしまって良いのかしら?



「王家は純粋に魔力の強さと大聖女の娘というネームバリューだろうね。もともとセシリアが生まれた時点で婚約者候補としての打診はあったから、それが今回の件で決定打となっただけだとは思うよ」


「そうねぇ…まぁ婚約者とはいえ、どうしても王子様を好きになれないのであれば、18歳の立太子の式前に婚約破棄、というのも可能ではあるからね、それまでの辛抱といえば…ね」



 はい、確実に好きになれる気がしません!断言できちゃう。

 もちゅもちゅと油淋鶏の様な鶏肉料理を口に頬張りつつ、確信する。


 確か王子様と私って従兄弟いとこか何かだった気がするんだよね。

 私にとって、親戚と表現のできる枠に所属する人間と結婚とかあり得ない。



「さらにもう一つ、これが一番面倒なんだけど……」


「王家より面倒って、何があるのさ」


「きゅう……」



「我が国の守護をしてくださってる守護龍からも、セシリアに直接の面会の申し入れがあったんだ。申し入れ自体がすごく稀なことなんだけどね」


「ぎゅ!ぎゅうううう」



 この国の守護龍って実在してたんだね。


 やっとお腹いっぱいになった!と思って、大人たちを見れば、すでに食器は下げられてドリンクのみになってた。


 そういえば、白いもふもふは何を食べてるのか気になって、ちらりと見ると、クッキーを両手で持って器用に食べてた。


 見た目、猫なのに!

 ご飯は魚とか肉じゃないの!?と思っているところで衝撃発言が聞こえた。



「セシリアに龍の巫女として離宮入りせよ、との事だ」



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